12.
クルッと振り返ったスズが真顔を麻弓に向ける。
いよいよ自分の正体に気づかれたのかと麻弓は観念し、『うん、私魔法少女なの、アハハッ』『いやー、魔法使いって柄じゃないけどね』『ここだけの秘密にしてね』等の返す言葉を思い浮かべる。
「――魔法使いが突然消えるところを」
その魔法使いが麻弓だとは言っていない。想定とはちょっと違うスズの発言に、先ほど用意した弁解がうっかり口から出そうになった麻弓は、言葉をゴクリと飲み込む。
「いつ、どこで? それと、なぜ魔法使いだってわかったの?」
「その3つの質問にいっぺんに答えると、この学校の裏側に細い道路があるじゃない? 人気があまりない空き事務所ばかりあるビルの通りが。その前で、短いロッドを持った二人がフッと姿を現し、ロッドをこうやって振ってスッと消えたのを見ちゃったの。去年のことだけど」
スズは見えないロッドをつまんでいるかのような手つきになり、それをクルクルッと回転させた。
(あの時だ! 場所も一致しているし、杖の使い方もそっくり!)
それは、昨年夏のある日の夕方、魔女と対決した麻弓が人前で魔法を使って後悔した事件のことだ。
激しい戦いで人払いの結界が一時的に破れてしまい、二人とも姿を人前にさらしてしまったのだ。
数人の通行人に見られた。学生服姿も複数あった。その一人がスズだったのだ。
あの後、空間移動の魔法で逃げる魔女を直ぐさま同じ魔法で追いかけたので、いちいち顔を覚えていない。
自分も相手の魔女も、長さが50センチくらいのトネリコで作られた杖を魔法発動の時に使ったから、しっかり見られたのだろう。
(まさか、あそこにスズちゃんが居合わせていたなんて……、最悪)
「ん? どうしたの?」
スズの言葉に麻弓は我に返った。
「何か知っているの?」
「いや、別に。なんか、人が消えるって怖いなぁと」
「同感。私、ホラーとかオカルトとか大好きだけど、目の前で実例を見ちゃうとね。はじめ、ポカーンとして、それからゾゾゾゾッとしちゃった。あれは目の錯覚じゃない。本当にいた。魔法使いがね」
魔法使いを強調するスズの言葉が、麻弓に突き刺さる。その時、階段下の廊下に足音が近づいてきた。
「ヤバい。教頭だ」
小声になったスズは、音を立てないようにつま先で階段をピョンピョンと駆け上がる。麻弓も慌ててそれを真似して後を追った。