エピローグ
終幕?
キンコンカン☆コーンッ! キラッ☆
午前の授業の終わりと昼休憩を同時に告げるチャイムが鳴り響く。
「あー、腹減ったぁ」
「今日はどこで食べる?」
クラスメイトの声を右から左に受け流しながら俺も立ち上がり購買へと向かう。
なんだか最近、購買率が高まってきている気がする。買うのは俺の金でなく親の金だから別に良いのだが、こう多いと行くまでの道中を少し面倒くさいと思ってしまう。
今日だって本当は陽が早く起きていたから弁当で済んだはずなのに。
いきなり、
「今日は友達と学食か購買行く」
とか仰りやがって、俺の分だけでも作ってくれませんかねー?
ダメ。
はい知ってました。
適当にパンを購入して教室へ引き返す。
教室までの帰路、ある声が耳をつき、俺の足を止めた。
振り返れば、誰かと一緒にいる陽の姿。
隣にいるのは何処かで…………。
「夜宵ちゃん何食べるの?」
「わ、私、学食行った事ないからメニューが……」
あの時の女の子か……。
やっぱり陽の友達だったか。あの子にはなんか悪いことしたな。
前見た時、彼女は俺と同じくぼっちオーラに溢れていた気がしたんだが気のせいだったみたいだな。案外アテになんねーな、俺の見る目も。
うん? ……つい先日の夜にいきなり「月が綺麗」って言ってきた子に似てるような…………あの時は暗くて顔なんてよく見えてなかったけど…………。
……陽、友達はいいけど、俺個人としては彼女は少し怖いからあれだと思うぞ、うん。精神面が、うん。
「……楽しそうにやってるな」
まぁなんだ。俺と違って優しくいい子ではあるし、対人関係を苦手としている様子も無かったが、陽が友達と遊ぶ所を俺はあまり見なかったし、そういった話を陽本人も話さないから少し心配していたのだが……必要なかったか。
当然だが、友達がいた方が一般的には、客観的には良いに決まってる。
俺はぼっちが大好きだし、友達なんかいらねーと思うけど自分の価値観を誰かに押し付けたりしない。いや、押し付けるかもしれないが、本当にそうはなって欲しくないのだ。増してそれが妹なら尚のこと。
これは好きなアニメをオススメしたはいいけど、アニメ見始めて面白かったから原作まで買っちゃったと語りかけてくるとムカつく現象と一緒だ。ぼっちを満喫するのは、できるのは数少ない選ばれし者だけ。
これをひどく簡単に言ってしまえば――独占欲だ。
陽には友達がいて楽しそうで、まぁ少し、ほんの少しだけ、いやほんと零点二ミリくらいだけどね…………嬉しく思う。
陽は友達がいてハッピー、俺はぼっち生活を独占出来てラッキー。Win―Winの関係、流石兄妹だぜ。
ふっ、今日の昼飯はいつもよりも二割り増しに美味く感じそうだ。
俺は無意識のうちに普段よりも上機嫌に来た道を引き返す。
――――僅かに緩む頰を何とか制御しながら。
「ねぇ、なんか今の人、一人なのにニヤニヤしてたんですけど」
「マジでぇ? キモッ!」
「…………」
…………制御しながら。
その、なんだ。……もう学校辞めようかな。
*
「そう思えば、夜宵ちゃんも羽独会長と知り合い?」
「えっ、いやそんなこと無いけど。何でいきなり会長の話が出てくるの?」
夜宵と陽華の二人で学食を食べている時、陽華が問いかけた。
夜宵は「も」という言葉を意識的に無視して、ただ質問に対する解を簡潔に述べた。会長は夜宵にとって、いやこの影春学園に通う者皆にとっての憧れの人物。
そんな人物と、先日初めて友達が出来たばかりの自分が知り合いな訳がない、と軽く自分を夜宵は卑下し、落ち着くために水を一口口に含もうとして。
「羽独会長が夜宵ちゃんと会いたいって言ってたから」
「ぶっ――」
「大丈夫っ!? 夜宵ちゃんいきなりどうしたの!?」
陽華の発した言葉に驚き吹いた。
「う、うん大丈夫。それより、今なんて言ったの? よく聞こえなくて」
きっと何かの聞き間違いだ。自分なんかにあの会長が会いたいなんて。そう考えて夜宵は今一度陽華に問いかける。
「会長が会いたいって」
聞き間違いじゃ無いのか……、と唖然とする夜宵。
あまりの非現実っぷりに両手で顔を覆い、自分の殻の中に閉じこもる。
「何で…………脅し? お金なんて無いのに……。何か気に障る事をしちゃった……?」
ボソボソと気味悪く呟く夜宵を陽華は気にもとめない。短い付き合いではあるが、夜宵が少し変わった人物ということを承知しているからだ。
「それに聞きたいことがあるんじゃないかって言ってたよ」
「き、聞きたいこと?」
殻からひょこりと顔を覗かせた夜宵は問い返す。
「それは――」
「私が説明する……」
陽華が口を開いた瞬間、夜宵の後ろから声が聞こえた。
幾度も聞いた声。
それは夜宵の親しい友人だから、関わりがあるからといったわけではない。第一、悲しいことではあるが夜宵には目の前の陽華以外の友達はいない。
聞き覚えがある理由は簡単で、その人がみんなの前に立ち喋る機会が多いから。
「へっ? かっ、会長……!?」
「うん……」
背後には件の会長、完璧超人たる羽独紫音が無表情で立っており夜宵を見つめていた。
「あっ、じゃあ羽独会長、夜宵ちゃん、私はちょっと席を外しますね。夜宵ちゃん、大丈夫だから、ね?」
「ごめんね、陽華ちゃん……」
「えっ、えっ……!」
理解が追いつかない。
夜宵を置いてあっという間に話が進んでいく。それに唖然としている間に陽華が席を外し、その席には紫音が座っていた。
「陽華ちゃんと話してる時にごめんね……」
「あ、いや、それは全然良くはないんですけどしょうがないっていいますか。……けどなんで生徒会長、さん? が、私に……?」
「彼について知りたくない……?」
「彼……あっ」
彼、明確に表されたわけではないのに、すぐにその人物の姿が脳裏に思い浮かんだ。
「貴女は知りたくないの……?」
「知りたいっ! 知りたいですっ!」
「うん……、話すよ……。でももう少し静かにね……」
前のめりになって大声を出した夜宵に周囲の視線が集中していた。
それに気づいた夜宵は顔を赤らめ、縮こまった。
紫音は辺りの注目が無くなるのを待ち、話し始める。
「じゃあやっぱり最初は噂について……」
「噂ですか? その……」
その目はその話ならもう知っていると紫音に訴えかけている。
それでも、それに気づいていながらも、紫音がそこで口を閉じることはない。大丈夫と少女に視線を送るだけ。
「うん……その噂……」
何故ならそれは紫音にとっての楽しみでもあるのだから。
彼について大手を振って語ることの出来るこの時間がーー。
この影春学園には『ある噂』が存在している。
それは決して人目につくことのない噂。
孤独でいる者にだけふと聞こえてくる不思議な噂。
どうやって一人の者に噂を届けているのかなんて誰も知らない。噂とは風のようなものだから。
その噂はどれも聞けば驚愕するような眉唾な話。
だけどその噂は真実だ。少なくともその噂をーー彼を知っている者は皆真実だと確信している。
その者達曰く、彼こそがこの学園を支配している。
曰く、彼は私たちを常に導いている。
曰く、生徒会長すら学園入学すぐに手中に収めた。
曰く、彼は全てを知っている。
曰く、某のライバルになり得る唯一の存在。
曰く、彼は僕を救ってくれた。
曰く、真の強さとはなんたるかを教えてくれる。
曰く、誰よりも優しく、そして不器用である。
曰く、曰く――。
噂を知っている、いや、真実を知っている者は口々に語る。
「彼こそが、常に孤高に、自らの優秀さと優しさを決して誇示しない黒瀬影莉こそが、私達を影から支えてくれるーー」
誰よりも先を見据えていて、誰よりも優しくて、だけど誰よりもそれを隠し抜く。その姿に私達は憧れて。
いつも独りで全てを解決してしまうからこそ、心配になり支えたいと思う。否、思うだけでなく、己を磨く。
そして彼を知る者全てがこういうのだ。
「孤高にして影の王なのだ」と。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
評価、感想頂けるとやる気につながるのでして頂けたら幸いです。
短編投稿したから良かったら見てください。




