迷いこんだ家族
ご無沙汰しております。
これより過去編につぐ過去編なので、話が横にそれますがしばしお付き合いください。
多くの皆様に読んでいただければ幸いです。
「じゃあ早速、お前にはここで待機してもらう。」
「は?今さっき手伝わせてくれるって言ったじゃねえか!!」
「落ち着けよ、よく聞け。ベートは視界に入るものを敵と認識する。だから、お前はここで隠れてベートに気付かれないようにしろ。」
「でも、それじゃあオレは一体何をしたらっ、、、」
「そう焦るな。俺が一人であいつをここまで引きつけて来る。そこで、お前が弓でとどめを刺せ。絶対に気づかれないようにな。そして、牙や爪の毒に気をつけろ。死ぬんじゃねえぞ。」
「わかったよ。親父も気をつけろよ。」
「誰に向かって言ってんだ?」親父は笑ってそう言うと、剣を抜いてベートの元へ走っていく。
ベートはすぐに親父の存在に気づいて、襲いかかろうと牙を剥いて飛びかかった。
ガルルルッ!
親父は剣を逆手で持って、体制を低くしてベートの懐に入り、剣の柄で思いっきりベートの腹を殴った。
ズシャー
ベートは体制を崩して、地面に転がった。その間に親父は息を整えて、木の真ん前に剣を構えて立った。するとベートは体制を立て直して、今度は飛びかからずに親父めがけて走り出す。
親父が喰われる!そのすんでのところで親父は剣をベートの眉間に向けて木の側面に突き立てて、横に避ける。
ブシュッ!!
ベートの眉間にはキレイに剣が刺さり、ベートは我を失って暴れだす。
グガァァア!
スゲえ。あんな凶暴なベートをいとも容易く扱ってる。オレが感心していると、親父はオレの方を見て少し頷く。オレは頷き返して、弓を構えた。そして親父に引きつけられたベートがこっちに向かってくる。
「今だ!」「あぁ!」掛け声と同時に親父は横に逸れ、俺は木陰から出て、ベートの真ん前に立ち、口をめがけて弓を構えて、ブチ抜いた。
ピン!ドシューッ!!!
矢が刺さる鈍い音が聞こえると、ベートは地面に泥のように倒れ込んだ。どうやら、倒せたようだ。でもオレは足がすくんでしまって、そこから動けなかった。
「上出来だな」
親父はサラッとオレをほめた。
「あの、助けてくださってありがとうございます。あなた達はいったい、、、」襲われていた男性がオレ達に声をかける。
ベートに気を取られてすっかり忘れてた、、、
「ああ、俺達はこれが仕事ですから!それより、3人共怪我はありませんでしたか?」
「はい!お陰様で娘も妻も怪我はありません。本当になんとお礼を申し上げればいいか。」
「お礼なんて構いません。ですが、なぜこのような場所に入り込んだのですか?この森はかなり広く、周りは大きな崖に囲まれて、簡単に行き来できるのは私達の村ぐらいです。ですが、あなた達は私達の国の人間ではないでしょう?その金髪はヴィル国のものだと聞きます。それに、普段はあんな凶暴なベートに遭遇することはまずありません。教えて下さい。あなた方は何者なのですか?」
「・・・・・・」親父の質問に男性は黙り込む。
「まあ、話辛いこともあるかと思いますし、お腹もすきましたでしょう?一先ず、私たちの家でご飯を召し上がりませんか?」
「・・・はい。助かります。」
俺達はすぐに森を出て、帰宅した。もちろん、客人も一緒に。久しぶりの大所帯だと母さんは喜んでいたが、家に帰りつくまでの道中、銀髪しかいないこの村では金髪の家族というのはかなり目立っていた。
ご飯を食べたあと、母さんと赤ん坊とその母親はベットに向かった。オレは親父と一緒に男の話を聞いた。
男の話に基づいて話をたどるとこうだ。
男はヴィル国のはずれにある小さな港町で漁師を営むごくごく普通の一般市民だった。そんなある日、男が漁に出ていると、岬に一人の女が立っていた。女は紺のローブを羽織って、昼間にもかかわらずフードを深々とかぶって風を浴びるように佇んでいる。するとそこで強い風が吹き、男は女に視線を奪われた。飛ばされたフードの中から見えた煌めくような長い金髪と透けるような白い肌、ローブの中からは純白のワンピースとネックレスについた金色の紋章が風になびいていた。男は瞬く間に女に惚れ、船で岬へと向かった。
「あの、こちらでなにをされているのですか?」
「?」男が話しかけると、女は声のするほうに振り向いた。
「あ、この町の方ですね。ご安心ください、変な気などは起こしておりません。普段の生活があまりにも息苦しいので、息抜きをしに来ただけでございます。」女は落ち着いて笑いかけた後、話をつづけた。
「ここは良い所ですね。風が気持ちよくて景色もきれいです。そして何より、この町の人々はみな生き生きしている。」
「そう思っていただけたのなら幸いです。ですが今のこの町があるのは、今は亡きこの国の妃で在らせられたマノア様のお陰です。元々スラムだったこの町は周りから見放されていたのですが、そんな町を見捨てず、立派な漁師町へと立て直したのが、ほかでもないマノア様なのです。」
「そうですか、そのマノア様という方は本当に素敵な方だったのでしょうね。私もこの町をとても気に入ってしまいましたから。」
「はい。私含め、この町の全員にとってマノア様は太陽のような方です。そう言えば、名乗っていませんでしたね。僕はレフアです。失礼ですがお嬢さんのお名前を伺ってもよろしいですか?。」
「ふふ、そう言えばそうでしたね。レフア様、申し遅れました。私、マヒナと申します。レフア様、もしよろしければまた来週もここに遊びに来てもよいですか?この町のお話を、もっと聞かせてください。」
「もちろんです。マヒナさん。」
それから二人は、毎週この岬で会うようになった。そんな二人が結ばれるまで時間は長くかからなかった。
ある日、男の町に王様と姫様が来た。街中が大騒ぎの中、男は目を疑った。なんと、毎週会っていた女が姫様としてそこにいたのだ。
「お父様、あの方がレフア様です。」
「うむ。おぬしか、マヒナの恋人のレフアというのは。」
「え!?は、はい!」いきなり王様に話しかけられ、男はあまりの緊張で、声が裏返ってしまった。
「そうか。ん?おぬし、えらく緊張しておるようだが、マヒナから何も聞いていなかったのか?」王様が首を傾げた。
「いえ!お父様がお目見えになるとは聞いていたのですが、まさか王様とは、、、!」
「申し訳ございません、レフア様!私が王族であることを知られれば、お会いになって下さらないと思ったので。」女が焦って謝ると、王は口を開けて大きく笑った。
「ハッハッハッ!そうかそうか。それでは仕方がないな。おぬし、ゆっくりと話をしたいのだがここではひと目もある、今から城にこんか?」王の問に男は頭を下げて従った。
「仰せのままに。」
こうして3人は一先ず城へ向かった。
毎回読んでくださっている方、いつもありがとうございます。本当に嬉しい限りです。不定期ではありますが、次回も読んでいただけると幸いです。