君の罪は如何程?
数刻前まで、ウザイ程いい笑顔をしていた、俺より二つほど歳上の金髪ドリルの少女は今、突如現れた肉球に弾き飛ばされた後、漫画みたいなタンコブをつくり、坐禅を強いられていた。
なぜ唐突にネコパンチが炸裂したのか。それを掻い摘んで話すとしよう。今から数分前に、獅子王さんの親御さんのところに、例の蛇杖先生が一報届けたのだ。
なんでも、お宅の娘さんが特に無関係な者を殺しかけた、一応仕置きはしたが、厳重注意を心掛けてくれ、と。
それを聞いた獅子王さん家の親御さん、怒り心頭。当の張本人はノコノコと帰ってきたところ、いの一番に鉄拳制裁が炸裂した、ということだ。
ちなみに、これではまだ飽き足らなかった様で、この愚か者愚か者とペチペチと肉球でシバかれた挙げ句、しまいには首に『わたしはダメなライオンです』という看板を丸三日ぶら下げる、という罰を課せられた。ひでえ。
でも罰せられた獅子王さん曰く、これでもまだ温いというのだとか。本気か?
「いやはや、この度は娘がご迷惑をお掛けまして、誠に申し訳ございません」
獅子王さんの親御さん、獅子王蓮華さんは実に丁寧な物腰で、座椅子に腰かける俺に向け謝罪を述べる。
あまりにもきっちりとした姿勢に俺はおろか、共にしている望さんと獣之助君までたじろいでしまう。
「そんな、もういいですって。俺は別にこうして無事なんですから」
これは謙遜とか、寛容とかいうモノとはやや趣きが異なる。なるべくしてそうなった、というか、必然だったのだろうと思うのだ。
「彼女は確かに俺をぶっ殺しに掛かったけど、そいつは俺自身がこの世界では異端な存在だからに他ならない。だから恨めしいとか、やり返したいとか、そんな気持ちはない」
そりゃ、滅茶苦茶怖かったけど。この世界のルールを俺はよく知らない。郷に入っては郷に従えと言うが、自分は兎角そういうスタンスだから、申し訳なくされると此方が困るのだ。
「だから、顔を上げてください。そこまでされる程、俺はそちらに非があるとは思ってないので」
「…………わかりました。貴方が赦すのであれば、そうしましょう」
獅子王蓮華さんは今一つ納得が行ってなさそうだが、その辺はうまく咀嚼して受け入れたようだ。見た目は俺の知る人間っぽくないかもしれないが、態度はちゃんとした大人らしいもので、安心している自分がいる。
「しかし、です。文殊には先生の仰る通り、厳重注意が必要です」
「っつ、しかし母上! 私は……」
「お黙りなさい。貴女は確かに我が獅子王の一族随一の火の力を誇ります。しかし! 仮にも一族の後継者ならば、その力を無闇矢鱈に振るわず、律する心を持てと、常日頃申しているでしょう!」
威勢の良かった金髪ドリルは一喝され、しゅんとなって縮こまる。借りてきた猫、という表現がぴったりであった。
「こほん、すみません。ご来客の前で、はしたない」
「いえ、構いません。自分はあくまで、許可をもらいに来ただけですから」
「許可、ですか」
そこまで言ったところで、獣之助君が俺の紹介も兼ね、これまでのいきさつを簡潔に伝える。とりあえず、自分が一週間は滞在しても良いか、という意図の伝達は滞りなく行われた。
「成程。それで、亀鳴さんはこちらにご挨拶へと…」
「はい。御迷惑とは思いますが…」
「構いません。私達が伝える『タタリ憑き』ならばいざ知らず、貴方は害なき者。であれば、庇護を受ける事に抵抗を覚える必要はありません」
にっこりと頬笑むその顔からは、目に見えてわかる母性と指導者のそれが伺える。初対面ではあるが、善き人物、善き大人であると思って良さそうだ。
「ああ、貴女は別ですよ文殊。この半年の内の不始末、思い出してみなさい?」
「ふし…まつ? そんなこと、有りまして?」
本気で思い当たらない、という顔をする獅子王さん。そんな彼女に、母君は笑顔で(実際のところ目は笑ってない上、青筋を立てる)答える。俺、望さん、獣之助君は思わず固まる。
「…アカン」
お茶らけた調子がデフォルトの獣之助君から、真面目なトーンでの声色を漏らす。顔が引き吊って、身体も怯えから来る小刻みの震えを見せている様から、相当に不味い状況であることは伺える。
はぁ、とひと息整える彼女からパチリ、すごい質量の金の髪から火花が幾重も散る。笑顔だが血管が浮き出ている。これは本気だ。冗談抜きで怒っていることが、初対面の俺でもわかる。
「──よろしい、ならば教えてあげましょう」
「……ゴクリ」
そう言う獅子王蓮華さんは、着物の裾から黒い手帳を取り出し、頁をめくる。声のトーンが怖い。目も野獣の眼光そのものだ。望さんも翼で頭を覆い「あわわわわわわ……」と怯えの声を上げる。
「まず、今年の始め。年始の行事のための火を焚いたところ、調整を誤り祭壇を半焼させる。次に、去年から追っていた『タタリ憑き』を掃討の折、森林を無差別に焼き、あわや大火災に発展しかける。次、下々の者が無礼を働いたと申し、無作為に力を行使し苦情を買う。次、祭の準備の際、目玉となる巨大な提灯を燃やし、職人に御迷惑をかける。次、同年代の者たちと料理に勤しんだ時、調理場を誤って燃やす。まだまだありますよ。その次───」
といった感じに、獅子王さんの罪を閻魔様もかくやという恐ろしい声と顔で片っ端から述べていく。
一通り言い終えた後は、当の罪人は魂が抜けたように呆然と正座で固まっていた。まあ、御愁傷様である。




