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決戦


 ヒロとアトロスは微動だにせず、お互いに睨み合っている。


 悪魔の化身アトロス。

 ヒロにとってアトロスは殺しても殺し足りない憎しみの対象だ。

 両親が殺され、MEで養父だったジェームスを始め多くの組織の人間が殺された。

 その蛮行は全宇宙に及び、民間人を含む多くの人々が命を奪われている。

 惑星グリーゼは破壊され、幾億もの魂が宇宙の藻くずと消えた。そして今、惑星タウも消滅の危機にあり、地上では地震、津波などの災害により膨大な数の死者がでていた。

 なんとか惑星タウの軌道上に逃げ出した避難船までも、アトロス軍艦隊は無慈悲に攻撃を加え、戦闘空域を脱出できた船はわずかしかない。


 ヒロは初めて近くでアトロスの顔を見た。

 その顔には額からあごにかけて大きな刀傷があり、不敵に笑っている。


「ふふふ」


「ヒロ、見ろ。この顔を」


「この傷は伝説のニンジャ、タケルに付けられたものだ」

「タケル・オライオン。・・お前の父親だ」 


「なに!」


 ヒロの動悸が早くなった。

 父がアトロスにより殺された事実は、ハットリ老から聞いて知っていたが、アトロスの口から直接父の名を聞いてヒロは動揺した。


「憎き敵、タケル・オライオン」


「私は一度、お前の父親の前に倒れた。だが神の力を得て復活を果たした」

「そして、奴の息の根を止めることが出来た」

「奴を倒した時、私は喜びにうち震えた」

「これで全ユニバースを支配できると考えた」


「だが!」

「奴はお前を残した」


「神の力を得た私に匹敵する力を備え、おまえはここにいる」


「ふふふ。これ以上の喜びがあるか。ヒロよ」

「お前のその顔はタケルに瓜二つだ。私は二度も奴を八つ裂きに出来る」


「この傷も喜んでおるわ!」



 ヒロのドラゴンブレードがびりびりと振動する。

 まるで生きていて、アトロスの言葉の一言ひとことに反応しているようだ。

 ヒロの父タケルは、このドラゴンブレードを持ってアトロスと戦ったはずだ。

 額の傷は、この剣で付けたもの。

 しかし、タケルは力尽きやぶれた。

 もし、この剣に心があれば、悔しくて仕方が無かっただろう。

 そして今、アトロスへの復讐を果たす事をタケル・オライオンに誓っているだろう。


「お父さん・・」

 ヒロは亡き父を思った。

 タケルは、ヒロが5歳のときに死んでいる。

 ヒロは幼かったため多くの記憶はないが、それでもやさしい笑顔は忘れたことがない。


「アトロス!。お前だけは許さない!」

 ヒロのユニバース・センスが膨張する。

 ドラゴンブレードがヒロのセンスに共鳴するように音を発し始めた。

 絞り出すような高周波の音。

 ヒロの行きどころの無い怒りと悲しみに剣が嗚咽している。


「ぐ、なんだこの音は?」

 アトロスは顔を歪めて苦しんでいる。



「聞こえるか! この音が!」


「これは、お前が奪ってきた魂の叫びだ!」


「お前は、幾億もの何の罪も無い人間の命を奪った」

「多くは善良な市民だ」

「幼い子供も赤ん坊もいた・・」

「楽しい時間を紡ぐ家族がいた・・」

「孫と戯れる老人がいた・・」

「みんな明るい未来を信じていた・・」


「それを、お前は一瞬で奪った!」

「そして今なお、同じことを繰り返している・・」


「僕には見える」

「その一人ひとりの苦しむ顔が・・」


「僕には聞こえるんだ!」

「夢と希望を奪われた、一人ひとりの悲痛な声が!」


「許せない! 断じて!」



「マリー、老師、ビューティ」

「ここを脱出してくれ。とにかくこの船からできるだけ離れてほしい」

「僕は全身全霊を懸けて奴と戦う」


「ヒロ・・」

 マリーはヒロを見つめた。そして寂しい目をしてうなずいた。

 間違いなくヒロは暗黒波動剣を使うつもりだ。例えその身を犠牲にしてでも・・。

「生きて帰ってきてね。ヒロ・・」

 マリーは一筋の涙を流しハットリ老を抱えてその場から飛び去る。、ビューティも一旦ヒロを見てからマリーに続く。

 ヒロは悲しみをこらえ、再びアトロスを睨みつけた。

 傍らにはカレンが立っている。


「アトロス・・」

「父、タケル・オライオンの仇」

 ヒロは、息子ジャスティンの笑顔を思い浮かべながら、ドラゴンブレードを構えた。

 剣はいよいよ高音で哭き始める。ヒロのユニバースセンスが弾けるように大きくなり、ヒロの体とドラゴンブレードを包み込んだ。


「この世を治めたる全知全能の神アポロニウスよ」

「我が敵を滅するために力を与えん」


「・・・キリ」

 ヒロは梵字をなぞる。ドラゴンブレードの柄の文字が光り輝く。


「大気の流れ、水の流れ、血の流れ。全宇宙の全ての波動に我が身を委ねん」

「・・・オウ」

 再びドラゴンブレードの文字が輝いた。


「光りある所に影が揺らめく。全てを呑み込む漆黒の闇を我が手中に収めん」

「・・・サ」

 その瞬間、ドラゴンブレードの梵字が輝いた。




「くらえ!」


「暗黒波動剣 キリ・オウ・サ!」


 ドラゴンブレードの三文字の梵字がフラッシュした。

 黒い煙がドラゴンブレードに集まってくる。

 その内部では、銀河が光り輝く。

 ヒロは剣をアトロスに向かって振り抜いた。

 剣先にあった光りと影の球がアトロス目がけて飛んでいく。


「なるほど、マーティは暗黒空間に堕ちたか」


「だが・・」

「わしには効かぬぞ!」


 アトロスは手をかざし向かってくる影の球を止めた。

 そして、サー・アトロスも術文を唱え始めた。


「バク、オン、リョウ、ミ、サラ、ミ、ポン・・・。」


「全宇宙創世の神サターニウスに告ぐ。我はアトロス」

「そちの命により、世界を統べし者」

「今、暗黒波動の力を我に与えん」


「暗黒波動剣!」


「キリ・オウ・サ!」



 なんと! アトロスもヒロと同じ技を繰り出した。

 アトロスの刀が輝き黒い煙が集まる。その内部には銀河が見えた。


「なに!」

 ヒロは驚いた。アトロスが同じ技を使っている。

 しかもアトロスの暗黒波動剣はヒロのそれより力が勝っていた。このままではヒロが暗黒空間に吸い込まれてしまう。


 万策尽きて焦るヒロ。


「そこまでじゃ!」

 ヒロの後ろから、気配を完全に消したハットリ老が現れた。


「ヒロ。マリーを頼むぞ・・」

 ハットリ老はそう言うと、術文を唱えはじめ、なんと刀を自分の胸に突き刺した。

 ヒロは目を見開きハッと息を飲む。

 ハットリ老は血眼でアトロスを睨みつける。



「アトロス! おのれの業を知れ!」


 胸に突き刺した刀が輝き、ハットリ老の持つユニバースセンスが溢れ出す。

 ハットリ老の体は光につつまれ、その光りがヒロのドラゴンブレードに吸い込まれた。

 惑星タウの周辺に漂うアトロス軍に殺された人々の命の光りが、ドラゴンブレードに吸い込まれてゆく。

 惑星グリーゼの消滅で無念の死を遂げた者たちの魂までもが、遠い銀河を駆け巡り次々にドラゴンブレードに集まる。


 アトロスによって命を奪われた幾億もの魂が伝説の聖竜剣に吸い寄せられる。


「ヒロ・・。これがワシのとっておきじゃよ・・。ふふふ・・・」

「老師!」

 消え行くハットリ老の意識がヒロの頭に響いた。


「息子よ・・」

「!」


 ヒロは、父タケルの気配を感じた。

 銀河を漂うタケルのセンスがヒロを助けるため呼び寄せられたのだ。

 とても弱いセンスだが、それは確かに父だった。

 ヒロの脳裏に父の笑顔が蘇る。


「お父さん・・。ありがとう・・」


 ヒロの放った暗黒波動の球は、ドラゴンブレードに集まった幾億もの魂の力を得て、アトロスに襲いかかる。アトロスの放った暗黒波動をも吸収し、ついにアトロスを呑み込んだ。


「なに!」

「私が負けると言うのか」

「神サターニウスの祝福を受け、世界の頂点にたつこの私が!」


「アトロス!」

 ヒロは暗黒波動に呑み込まれ動けなくなったアトロスを、聖竜剣でまっ二つに叩き切った。




「ぐええええ!」



 アトロスの最後の声。

 引き裂かれたアトロスの体は、暗黒空間の彼方に吸い込まれていった。

「それは神ではない。悪魔だ」とつぶやいたヒロの声は、もうアトロスには届かなかった。


 アトロスを吸い込んだ暗黒空間は更に膨張する。ヒロも早く逃げないと危険だ。



「こんなものか・・」

 アトロスの後ろでヒロとの戦いを見ていた少女がポツリと言った。

 暗黒空間が二人の目の前まで迫っていた。ヒロは空間の広がりを抑えようとするがそろそろ限界だ。 


「ヒロ」

「私はカレン」

「お前が倒したアトロスの血をひくものだ・・」


「アトロスの!」

 ヒロはこの状況では彼女に勝てないと思い焦った。

 彼女の強力なセンスを感じ取っていたからだ。

 今の彼女は、間違いなくアトロスを超えた力を持っていた。

 広がる暗黒空間は今にもヒロを吸い込みそうだ。


 しかし、彼女はヒロと戦わなかった。


「ヒロ。また会おう」


 カレンと名乗った幼い少女は瞬間移動でその場から消えた。

 甘い残り香が周りに漂う。


「カレン・・」

 ヒロは不思議に思いながらも、戦わずに済んだことにほっとした。

 そして、朧げの術でスペースシップ、メタルドラゴンのコックピットに移動した。

 暗黒空間の膨張を抑えるのはあと数分が限度だ。


「戦艦グレゴリアス。応答せよ」

「はい。こちら戦艦グレゴリアス のイライザです」


「こちらはヒロ」

「これより、敵戦艦メガロドンを中心に周囲50キロを消滅させる」

「味方の全機に緊急退避信号をだせ」

「繰り返す」

「敵戦艦メガロドンを中心に周囲50キロを消滅させる」

「全ての味方に緊急退避信号だ! 急げ!」


「ロジャ」


 グレゴリアスの緊急退避信号を受け、惑星タウ連合軍、イガ・コミッティの戦闘艇、周辺惑星の連合軍が全速力で戦闘空域を離れてゆく。


「よし」

 ヒロは暗黒空間の膨張を抑えていたが、味方の気配がなくなった事を確認して制御を外した。


「ブウンッ!」

 メガロドンの展望室で、膨張を抑えられていた暗黒空間が爆発的に広がる。

 余りに巨大なブラックホールが発生したため、周辺の銀河一体が一瞬歪んだ。

 そしてアトロス軍の艦隊を全て呑み込んだ後、ブラックホールは急速に小さくなり消滅した。


 戦闘空域を離れ遠巻きにそれを見ていた友軍から歓声が上がる。 

 マリー、ビューティ、ゴンザはグレゴリアスのブリッジでそれを見ていた。

 竜のニンジャ、ヒロの乗るメタルドラゴンが戦艦グレゴリアスに帰ってくる。


「やったのね。ヒロ・・」

 マリーが涙ながらにつぶやく。


 惑星タウはもとの美しい清浄な惑星に戻っていた。



 完 


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