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暗黒波動剣キリ・オウ・サ


 誰もいない競技場で、マーティとジャスティンがにらみ合っている。


 ジャスティンは身長150センチほどで、まだ幼い顔をしている。

 ヒロとの試合では競技用の武器と防具だったが、今はドラゴンブレードを持ち、防具も戦闘用プロテクターを着ている。そのヘルメットは竜のデザインの美しいものだ。


「さあ、こい!」

 ジャスティンはドラゴンブレードを持ち、マーティに向かって構えた。

「小僧、お前が何者かはわからんが、少しは腕に覚えがあるようだな」

「だが、簡単にはこの私は倒せんぞ」

 マーティもジャスティンに対して刀を向け構える。




「・・・お父さん、ヒロお父さん」


 スティングレイで集中治療室にいたヒロは、ジャスティンの呼びかけを再び聴いた。

「お父さん、ジャスティンです」

「これからマーティとの戦いで、伝えたい技を使います。私にリンクしてください」

 マーティとの戦いの中で? そんな事ができるのか?

 ヒロは疑問に思いながらもジャスティンに直接リンクを試みた。

 船はMDF航行の最中だったが、ヒロとジャスティンの波長が余程合うのか、ヒロはまるでジャスティンとして競技場にいるように感じる事ができた。

 視覚、聴覚、触覚、嗅覚、ピリピリとした空気までもリアルに感じる事ができる。

 しかしヒロは再び恐怖を感じていた。手も足も出ずマーティに敗北した記憶が蘇る。

 ヒロが更に驚いたのは、ジャスティンがドラゴンブレードを持っていた事だ。

 会場を脱出するときにジャスティンの刀を見てもしやと思ったが、その手元にあるレーザー・ソードは明らかにドラゴンブレードだった。

 ただヒロのドラゴンブレードより古びている。


「・・これは、未来のあなたから授かった刀ですよ」

 ジャスティンは、ヒロの驚きを見透かしたように言った。

「いきますよ。お父さん」

 ジャスティンは、一呼吸おいてマーティの懐に飛び込んだ。

 マーティは剣を受け止める。二本の剣が火花を散らして交わり鍔迫り合いになった。

「ジャスティンと言ったか」

「子供の割にいい腕をしている。しかし、その程度では敵わぬぞ」

 マーティはセンスを集中し、溢れる力でジャスティンを突き放す。ジャスティンは飛ばされながらも、体勢を立て直し再びドラゴンブレードをマーティに向け構え直した。


「ジェネラル、マーティ!」

「我が運命の人。そしてヒロの宿敵であり、最大の理解者・・・」

 ジャスティンはそう言って、ドラゴンブレードを横に構えた。

 そして目をカッと見開いた。目が怪しく光り、体にまとったセンスが数倍に膨れ上がる。


「この世を治めたる全知全能の神アポロニウスよ。我が敵を滅するために力を与えん」


「・・・キリ」

 ジャスティンは、手の指で梵字をなぞる。

 ドラゴンブレードの柄に描かれた、「神通」の意味を持つ一文字が光り輝く。


「大気の流れ、水の流れ、血の流れ。全宇宙の全ての波動に我が身を委ねん」


「・・・オウ」

 ジャスティンは「瀑流」の意味の字をでなぞる。再びドラゴンブレードの文字が輝いた。


「光りある所に影が揺らめく。全てを呑み込む漆黒の闇を我が手中に収めん」


「・・・サ」

 ジャスティンは最後に「影像」の意味を持つ字をなぞった。

 三たびドラゴンブレードの梵字が輝いた。


「受けてみよ、マーティ」

「暗黒波動剣 キリ・オウ・サ!」


 ジャスティンが術文を唱えると、ドラゴンブレードの三文字の梵字がフラッシュした。

 黒い煙が現れゴ、ゴ、ゴという音を立ててドラゴンブレードに集まってくる。

 集まってきた黒い物質がドラゴンブレードの剣先を包み込んでゆく。

 その内部ではチラチラと光が輝いている。剣先の球は握りこぶしの大きさになった。

 ジャスティンは、ドラゴンブレードをマーティに向かって振り抜いた。

 剣先にあった光りと影の球がマーティ目がけて飛んでいく。

 ジャスティンはドラゴンブレードを縦に持ちなおし、目を閉じて印を結んた。


「暗黒物質を集めた攻撃か?」

「だが、この質量では我が身にダメージを与えられんぞ」


 マーティはジャスティンの放った光りと影の弾を片手で受け止めた。

 その瞬間、ジャスティンは目を見開いて「ハ!」と声をだした。

 すると、マーティに受け止められた弾が急速に膨張し、マーティの全身を包み込んだ。

 それは漆黒の巨大な球となり、周囲の建物や競技場をも包み込む。

 球の中では星や銀河が美しく煌めいていた。


「ぐ!?」

 マーティが何か言葉を発した時には、膨張した漆黒の球が、今度は急速にしぼんだ。

 周囲の空間がゆがみ、マーティ自身や競技場の床、観客席、周囲の建物、マーティのスペースシップなどが全て暗黒空間に吸い込まれ、跡形もなく消え去っていた。

 一人、ジャスティンのみがその場に立っていた。

 ヒロはその強烈な技の一部始終を体験していた。緊張で額から脂汗がにじみ出ている。


「ジャスティン・・、終わったのかい?」

 ヒロが恐るおそるジャスティンに問いかけた。

「はい。お父さん」

「ですが・・・。マーティは死んでいません」

「この技は小規模のブラックホールを発生して、物質をそこに吸い込む技です」

「それは光さえ吸い込む超空間です。その物質がどこにいくかは僕もわかりません」

「一説では時間も空間もねじ曲げられ、そこに入った物質は遠い宇宙の、しかも未来や過去に飛び去ると言われています」


「しかし、お父さん。マーティはまだ死んでいません・・」

「再びあなたのもとに現れます。更に凶悪な存在になって」

「それが運命だからです」

 ジャスティンは淡々とヒロに言った。


「運命・・」

 ヒロはジャスティンの言った言葉を噛み締めていた。

「お父さん。暗黒波動剣は見ていただけましたか? 未来のあなたから教わった技です」

「私が生まれ、大きくなったら今度は私に教えてください」

 ジャスティンは笑いながらヒロに言った。


「お父さん、そろそろ時間です。私は未来へ帰ります。この時代での役目は終わりました」

「若いお父さんと戦う事ができて本当にうれしかった・・・」


 ジャスティンは手甲のパネルを開き操作をした。ジャスティンの周りが黒い空間に包まれる。

「このタイムワープもダークマターの性質を応用したものなんですよ。変なところに飛んでいかなきゃいいけど」


「じゃ、ヒロお父さん。また未来で逢いましょう」

 ジャスティンは暗黒空間に吸い込まれた。


 ヒロはジャスティンとのセンス・リンクが切れたことを感じた。

 ジャスティンは本来の自分の世界に帰っていったのだ。

「ジャスティン、僕の息子・・」


 ヒロは今日のことを考えた。ジャスティンとの出会い、マーティとの戦い、暗黒波動剣・・。

 本当にこの僕があんな技を使えるようになるのか?

 ジャスティンはマーティは生きていると言った。そして再び僕の前に現れるとも・・。

 ヒロは多くの不安を抱えながら、マリー、ビューティ、ゴンザ、FR550とともにスペースシップ、スティングレイに乗っている。

 マリーはまだ手術中で、ビューティは完全停止したままだ。

 スティングレイは多次元航行の中、一路FEを目指していた。


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