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二人で転生しました!が、  作者: 西野ゆいと


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出会い

暗闇の中に光が見えたのが始まりだった。

そして暗闇が消えた。

あたりが見えないほどの、真っ白な光で。

真っ白な世界の中で見えた、真っ白な翼。

抱きしめられた温かいぬくもり。

きっとそれは一瞬の出来事。

でも決して忘れることはできない、言葉にできない一瞬だった。



暦上秋なのかもしれないが、この暑さは良くない。

秋と呼べる日が年々少なくなってきているような気がする…。

私、野口奈央にとって、それは由々しき問題だ。

夏の息苦しいほどの空気の隙間から、そっと入ってくる一筋の風。

暑さをしのいで逃げ込んだ木陰で、「お疲れ様」と言わんばかりに吹いてくる風。

秋がひょこっと顔をのぞかせるとき、至福を感じずにはいられない。

砂漠のオアシスのように、自然の恵みを感じるその瞬間が、私は大好きだ。

そして今年の秋は、私にとって忘れられない季節になる。

だから秋こそ、長く存在してもらわなければならない。

これから秋になるたびに、思い出して幸せに浸れるように。


奈央は笑顔とは程遠い、にやついた顔で待ち合わせ場所に急いだ。


「将太、お待たせ。」

奈央がカフェに入ると、葉山将太はアイスコーヒーのグラスを片手に、カラコロと氷をまわしていた。

眉をひそめ、眉間にしわを作り、将太は向かい側に座ってくる奈央に言った。

「…なんで俺の方が緊張してんだよ。」なんとなくふてくされ気味だ。

飾り気のない紺色のワイシャツに黒のパンツ。特別イケメンというわけではないが、優しく誠実さのあふれる将太のことが、奈央は大好きだ。


よくある幼馴染、といったものではないが、気づいたらいつも一緒だった。

小学校時代、初めて同じクラスになったときのこと。

公園の砂場で友達と遊んでいた奈央は、当時のガキ大将にどういうわけか砂を投げかけられた。

奈央は泣いて帰る、わけではなく、砂を投げ返した。そして取っ組み合いの喧嘩…になろうとしたときに現れたのが将太だ。

当時大きめだった将太は二人の間に入り、

「女の子に手をあげてはいけないって習っただろ?」とガキ大将に言った。

ガキ大将がグッとこぶしを握り、落ち着いたのを見て、今度は奈央に言った。

「女の子は殴り合いなんかしちゃいっけないって習っただろ?」

「………習ってないし、なんでダメなの?」奈央はキッと将太を睨んだ。

言葉を交わしたのは、これが初めてだった。

それからというもの、将太は奈央の世話をやくようになった。やれ食事のマナーだ、やれ勉強が遅れているだ、しまいには女子たるもののなんたらかんたらだ…。

『父親か⁉』奈央はよくそう思っていたが、将太の世話焼きは存外気分の悪いものではなかった。それどころか心地良くも感じていたのだ。


時は過ぎ、小学校の同級生がみんな一緒にごっそりと、近所の中学校に上がった。数少ない部活動の中から、将太は野球部、奈央はテニス部で汗を流し、二人とも日焼けで真っ黒焦げになりながら、ああでもないこうでもないと、独自のスポーツ理論を語り合いながら二年の月日が過ぎようとしていた。


そして受験生となった夏休み、部活のあとはたいていお互いの家で勉強するのが習慣化していた。その日は奈央の部屋で数学の過去問を解くことになった。毎度のことだが帰りたての部屋は、暑いなんてもんじゃない。蒸し風呂、いやサウナだ。

「田中んちは遠隔でエアコン操作ができるんだぞ。帰ったら部屋が冷えてんだぞ。」暑さのせいで訳の分からない怒りを将太がぶつけてくる。

「あっそ。じゃあ田中んちで勉強すれば?」低めの折りたたみ式テーブルを出しながら奈央は言った。奈央の返答に将太の顔がグッと歪む。


奈央はいわゆる一般的な言い方をすれば、頭の良い人間だった。特別ズバ抜けて天才というわけではなく、ただ将太に「なんでそんな問題ができないんだ?」と数回世話をやかれたあとに、イラっときたのが始まりだった。ただただ小うるさい父親もどきを黙らせたかった一心で勉強した。その結果いつの間にやら頭の良い子の出来上がりというわけだ。今では勉強面は将太の方が奈央の世話になっている。そんな中、将太よりも点数の低い田中んちには行けない。

「なんでこの部屋のエアコンは効きが遅いんだよ⁉」イラつく将太に、

「うちのは古いの!もうおばあちゃんなの!それでも頑張ってくれてんの!あったまきた!次からはあんたんちで勉強!決定‼」奈央が座布団を投げるように置いて叫んだ。固まる将太。

「ごめん、悪かった。あちぃのにイライラしてた。俺んちはしばらくなしで頼む。」

「なんでよ⁉」

「昨日部屋で素振りしてたら、手ぇ滑ってバットがエアコンに直撃した…。それから動いてくれねぇ。」

「……あとで馬鹿につける薬探してくる。」無言の将太の横にあきらめた奈央も座って、二人で過去問に取り掛かった。

しばらくして将太はふと奈央に目をやった。少し伏せられた真剣な目つき、その横を汗が流れていく。首筋にも…。『汗って…こんなにキレイだったか?』目が離せなかった。

奈央が視線に気づいて「何?わかんないとこある?」と将太の方を向く。将太の目は少し潤んでいるようだった。顔も赤らんでいる。

「大丈夫⁉まだ暑い?もう少しでエアコン効いてくると思うから…」レースカーテン越しの白い光と、エアコンの風が心地よく感じ始めたその瞬間、将太の右手が奈央の左頬を包んだ。奈央が目を見開くのと同時に、外から蝉の鳴き声が一斉に聞こえ始めた。7、8秒のことだったが、このとき二人の時間が止まった。将太の顔が奈央に近づき始めたそのときに、なぜか時計の秒針の音がひどく響き始めた。何が起こっているのか、これからどうすればいいのか、硬直したままの奈央の脳内はただただ渦の様に回転していた。

ガチャ!と響く玄関のドアを開く音。将太の手がビクッとなった。

直後に「お姉ちゃんいるの⁉あ!もしかして将太兄ちゃん来てる⁉」弟の健太が遊びから帰って来た。

ドタバタと階段を駆け上る音が聞こえ始め、将太の右手はテーブルへと戻り、奈央の顔は部屋のドアの方へと向いた。

「ただいま!あ、おかえり、かな?」バタンとドアを開けて、健太が満面の笑みで入って来た。奈央と将太が笑顔で「おかえり!」と出迎える。小6の健太は、周りの同級生と比べると若干幼い感じがする。しかしその分奈央にとっては可愛くてしかたがない。

「手洗いとうがいはしたの?」

「えへへーまだだよー」いたずらっ子の様に笑う健太。

「将太兄ちゃん!今日キャッチボールできる⁉」キラキラの目で尋ねてきた健太に、

「ごめん、健太。合格してからでいいか?俺、一応受験生だしな。」すまなそうに将太が返した。それに覆いかぶせるように健太が聞いてきた。

「将太兄ちゃんも光誠高校受けるの⁉」

将太の目の色が瞬時に変わった。光誠高校は県内有数の進学校のひとつだ。二人の中学校からの合格者は毎年5人程度と、かなりの難関校だ。

「北高受けるんじゃなかったのか?」将太がボソッと呟いた。

「この前の面談で先生に、光誠も考えてみてはどうかって言われて…親に相談したばかりだよ。」それを健太が口を滑らせた形だ。もちろん健太に悪気はない。

「そっか…わかった。」将太は静かに勉強に戻った。

奈央も「健太、手洗いうがいしておやつ食べよう!お姉ちゃんたち、合格したら健太といっぱい遊べるからね!」と健太の手を取る。

「やったー!約束だよ!」と二人は一階に降りていった。

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