1話 今この時から君は、クリス・アッシュホールドだ。
BL小説を書いたつもり。
書いたつもりなんです。
読んで頂ければ嬉しいです(*´ω`*)✿
重厚な執務室で、俺の実家から派遣された法務官が、証文を片手にこの家の当主へ詰め寄っていた。
そんな俺の傍らには細い身体を粗末な服で包んだ少年が立っていた。
俺の服をぎゅっと握って、自分の事を大人たちが勝手に話していく様を、まるで他人事のように、空虚な緑の瞳に映していた。
室内にドン!という大きな音が響いた。
この家の当主、ケッチーニッダ伯爵がイライラしげな大声で宣言した。
「よかろう。金貨六十枚でそいつを嫁がせる。それで異存はないな」
俺の服を掴む、頼りない彼の将来が、今決まった。
「ではこの婚姻の契約に、ご当主のサインをお願いします」
法務官がささっと当主の前に書類を出した。
父親は、未払いの使用人の給金の穴埋めとして、
自分の息子を金貨六十枚の“形”に変えた。
本人の目を見ることもなく
本人に確認することもなく
ただ書類と、今のこの家が置かれている状態だけを見て、売られた少年。
そんな少年の伴侶となったのは、
貴族社会を嫌い、家を飛び出し料理人になって、王城勤めを経て、伯爵家のお抱え料理人を務めていた俺、リカルド・アッシュホールド
それが、たった今、”クリス・アッシュホールド” の戸籍上の伴侶になった。
「リカルド様、手続きはすべて終わりました。」
その言葉に俺は身体を屈め、クリスの目を見て問いかける。
「坊ちゃ…いや…クリス。君の荷物をまとめに行こう」
そう言った俺に視線を向け、目が合ったが、すぐに目を伏せた彼は、ゆっくり首を横に振った。
持ち出す物は何もない、ということか?
俺は元雇い主であるケッチーニッダ伯爵の顔を見た。
「私が支払ったのはその息子だけだ。それ以外の持ち出しは一切許さない」
その言葉に俺は胸が冷えた。手を出したくなる衝動を押し殺すために拳を力いっぱい握り締めた。
「そうですか。分かりました」
俺は自分の上着をクリスにかけて包み込むと、そのまま抱き上げた。
「このまま一緒に行こう。挨拶はするか?」
クリスは俺の首にしがみつき伯爵の方を見ることも無く首を横に振った。
「では、今後一切彼との連絡は許可しません。援助などの申し入れなどあった場合法的に対処致します」
「な!!」
顔を真っ赤にして怒りを煮立たせた当主は何か言おうとして、法務官の視線に気づき、口を噤んだ。
その目は高く売れるかもしれない、自分の息子を取られた腹立たしさ。
反抗しないはけ口を奪われた悔しさ―――
そんな気持ちが透けて見えるこの男から、ようやくこの鶏ガラの様に細いこの子を離すことが出来た。
書斎を出て玄関ホールに来た時、階段の上から殺気のこもった視線が飛んできた。
視線を上げると、子供が二人憎々しげに俺達を見ていた。
クリスの兄二人…
二人ともクリスをストレスのはけ口に、虐めていたのを、俺は知っている。
いけ好かないクソガキ共だ。
その視線を一瞥して、俺は2年勤めたこの屋敷を、給料の代わりに得た伴侶を連れて後にした。
***
「リカルド様詳しいお話を伺いたいのですが。」
俺は馬車に乗っても、ようやく手に入れた伴侶を離しがたく服で包んでいたクリスを抱えたままだった。
「クリス…って呼んでいいか?」
俺の問いかけにクリスは小さな頭をコクリとさげて不安げな目でこちらを見てきた。
「俺の事は”リド”と、呼んでくれ」
クリスは口をゆっくり開き、声を出さず唇を動かした。
そして確認するように俺の顔を見てゆっくり消え入りそうな声で
「リ…ド…」
そう呼んでくれた。
俺は今日やっと聞けたクリスの声にホッとして抱き締めている手に力を込めた。
俺の力を込めた抱擁に戸惑いつつも目を細めて俺を見てきた。
「クリスの事情をこの人に話しても良いか?」
俺の言葉にクリスはそっと法務官のバスコに視線を向け、
バスコは柔和な笑みを浮かべてクリスを見て一礼した。
バスコの動作を見て、クリスは小さく頷いてくれた。
「姉上の家…オセッテノ伯爵家のタウンハウスにこれから向かうから。
それまで少し寝ていなさい。今日も朝から疲れただろう?」
クリスの瞳が俺の言葉に反応した。何かに興味を持った時の表情だ。
俺はゆっくり抱きしめている背中をトントンと優しく叩く。
こちらをじっと見ていたクリスは、ゆっくりコクリと頷き、静かに目を閉じた。
その仕草に俺は安堵のため息を漏らすと目の前に座るバスコと視線を合わせた。
「バスコ、今回はこんなところまで来てもらって助かった。」
俺が頭を下げると、バスコは苦笑しながらこちらを見てきて。
「いえ。ちょうど王都に用事があったので構いませんが…
クリス様はその…本当に16歳なんでしょうか?とても…16歳には見えないのですが…」
俺の膝の上で抱きかかえているクリスはとても16歳、成人には見えない大きさだ…。
俺の知る限り…10歳位の女の子くらいの身長。
あの家でこの子にご飯を満足に用意してあげることが出来なかった…
「あぁ…この子はまともに食事もとれない状況だったからな…」
「…それは…」
「姉様の家に着いたら医者の手配を頼む。診断書を作成して証拠を残しておきたい」
「ケッチーニッダ伯爵家が何か起こすと?」
「保険だ。使わなかったらそれでいい。」
「リカルド様変わられましたね」
「そりゃ…夢見て飛び出して…何年たったと思ってんだよ?」
俺は笑いながら膝の上の温かさを感じ、俺の胸の奥はキュっと締まる思いがした。
この子の笑顔が、もう一度見たい。
——だから、こんな形でも。
俺は真面目な顔でバスコに、
「バスコが後2日遅かったら、クリスは下手すると変態オヤジの元に売られる予定だったんだ…」
「な!!」
俺の言葉に、バスコは言葉を失った。それをみて俺は目を伏せて抱きしめているクリスを見下ろす。
「成人したからな…成人の祝いなんて誰もしてやらなかったくせに…」
誰も…何も…その日食事は朝から出なくて…クリスは使用人に襲われかけていた…
「しかし…わざわざリカルド様の伴侶とは?ご実家との養子縁組でもよかったのでは?」
バスコの言葉に俺は外の景色を見ながら答えた。
「あいつらが実家にいろいろ言ってくるのが、分かっていたからな…」
――俺が、この子と一緒に居たかったからだ。
そんな、おれの身勝手な思い…
今のこの子には言えない―――――俺の気持ち…
「入籍の手続きを終えたら、ケッチーニッダ伯爵家との縁切りの手続きも進めて欲しい」
俺の言葉にバスコは困惑しながら、
「リカルド様…それはクリスさまの許可を得てからの方が…」
俺は首を振ってバスコの言葉を否定した。
「クリスにはもう許可は貰っている。医者の診断書が出たらそれをもって手続きを頼む。」
「……分かりました」
俺の真剣な表情に、押されるようにバスコは小さく返事をくれた。
あいつらの手が届かない場所へ、馬車は静かに進んでいった。
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