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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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第二十九話

 加熱する簀巻き争奪戦の中に飛び込んだオレ達。


「全ての理をブッ壊してやろうぜ!」


 ライブステージと変わらないナツのテンションに、ハルのハイハットならぬ二枚重ね妙鉢のカウントが入る。


 シャンシャンとした小気味良い音に、速いテンポで次々と重なっていくバスドラとスネア、タム。練習時間など全くなかったというのに、チンドンセットに即座に対応し手数の多いリズムを叩くハルは天才といえる。


 オレも琵琶は初めて触ったが、細いネックと狭い音域が意外と性に合う。

 ハルのリズムに合わせベースラインを乗せていく。


 アキも三線を扱うのは初だろう。しかもギターとは違い、ネックはフレットレス。多少の音程ズレはあるが天性の音感とでもいうのだろうか、指弾きする三線のカッティングが温かみを帯び、ツブ立っているのが分かる。


 全てが和楽器で奏でられた即興ジャムのサンバ。

 打合せなしのぶっつけ本番。

 激しい動きで争奪を繰り広げるこの戦場。

 盛り上げるには最高のリズムだ!


『ついに登場坂東の式鬼。SHIKIの指揮で上げてけ士気を』


 サンバのリズムにまさかの即興ラップを乗せてきたナツ。


「ちょ! マジかよナっちゃん! 鳥肌やっべーっ!」

「あははははっ! コレは楽しめそうっスよーっ!」

「お前ら、リズム崩すなよ! この戦、オレ達の勝利で終わらせてやろうぜ!」


 簀巻き争奪真剣バトルの戦場に、突如として奏でられた今まで見たことも聞いたこともない音と歌。一体何が起こったのだと全ての兵がオレ達に注目した。


『勝って浴びるぜ勝利の乾杯、まずはそうだな駆け付け三杯! いいかよく見ろ手にした采配、示す先には簀巻きだ、さん、ハイっ!』


 ナツが采配で示した先には、簀巻きにされた鮭延秀綱を抱えて逃げる四人の姿。

 戦の途中だったことを思い出し、声を上げてまた走り出す兵たち。


「簀巻きはあそこだー! 追えーっ! 何としてでも簀巻きを奪えーっ!」

「オメェら最上軍に負けんじゃねぇぞーっ! 走れーっ! 死守だーっ!」


『アウトは無理筋、活路はインだぜ! 横から来てるぞお前の相棒』


 志村が右から、井上綱知が左から爆走し簀巻きに手を掛けようとする。

 このままでは後続に巻かれ、奪い合いの乱戦になってしまうと考えた現在の簀巻き保有者四人組。


『おっと無理せず、託していんだぜ! 前から来てるぞ希望の来光』


 ナツの歌と鳴り響くチンドンの音楽。


 重い簀巻きと、走りっぱなしで体力の限界を迎えた余裕のない四人組。

 陽光を背にし、逆光で顔は見えないが頭に反射したご来光のような光を放つ男が「こっちさ寄ごせ!」と手を伸ばしてきた。

 これぞ仏の救いだとばかりに、簀巻きを放り投げた四人組。


「もう無理だべぇー、走らんねってぇー!」


「いい加減、たっ、助け……、うっ、気持ち悪っ……」


 力尽きて地面を転がった四人に躓き、次々と転倒する後続の大軍。

 まんまと奪った簀巻きを背負い、一人希望の来光を放ちながら逃げていく日野有祐。


『簀巻きは下敷き、日暮れももうじき、掘り起こさねぇとアブネェこの時期!』


 躓き、団子状態に重なった大軍は簀巻きを見失った。

 皆、ナツの言葉に踊らされ、折り重なった兵たちを引き剥がしにかかる。


「おい! 簀巻き……じゃねぇ、兄貴はどこだ! この下にはいねぇぞ!」

「このままでは殿に顔向け出来んぞー! 皆の者、必死に簀巻きを探すんじゃー!」


 西だ東だやっぱり北だと響き渡るナツの歌と、無茶苦茶に振られる采配に踊らされ、簀巻き争奪戦は右往左往の大混乱。


「フッ、勝ったな」


 ナツの呟きが聞こえた気がした。


「な、な、なんじゃコリャぁー!」


 興奮する義さんたちは、初めて見るとんでもない戦模様に興奮と爆笑が止まらない。


 あまりの奇天烈さと面白さに、オレ達の演奏に合わせて踊り出し、バカ騒ぎを始める始末。


「簀巻きはどこじゃー! 時間がないぞーっ!」

「探せ探せーっ! 小判はオラが一人ズめだーっ!」

「兄貴ーっ! さっきは頭突きして悪かったってー!」


 サンバのリズムが鳴り響く中、ナツの持つ戦国メガホンは「法螺吹き貝」から「ホラ吹き貝」となり、適当な事ばかりを並べ立てる。


 あっちだこっちだと無駄に駆け回らせ、兵の体力を確実に削っていった。


「俺もいつか兄ちゃんたちみたいになる!」

「テンちゃんは今でも十分カッコイイですからねー」

「だけどよっちゃん。アレ、あのままでいいのー?」

「はっはーっ! いいっ! なんたって愉快だ! 楽しいのぉー!」


 どこから取り出したのか、盃に徳利瓢箪で酒を注ぐ義光。

 隣で胡坐をかき半ベソ状態の男に飲めと手渡した。

 その横で精魂尽き果てひっくり返っている日野。


「どうじゃ。ここらへんで降参せんか。ワシはお主らが気に入った。傘下に加わり共にやっていこうぜー。見ての通り、こっちは滅茶苦茶面白いぞ」


 この最上義光がなぜ最上義光なのか。それを理解したような納得の笑顔を浮かべた男。手渡された盃を一気に飲み干し、もう一杯よこせと盃を突き出した。


「どうだ政宗、むっちゃん! 最高の瞬間だろー?」


 お代わりも一口で空にした男は、徳利と盃を交換し、今度は義光に酒を注ぐ。


「これからよろしく頼む、義光殿。いや、大殿様。鮭延は、今日より最上家に組する!」


 二人は、両軍とも走り疲れてその場にへたり込む様を眺めながら、酒を酌み交わした。


「あはははっ! 流石よっちゃんだよ、予測不可能だ。あははははっ!」

「やっぱりお兄ちゃん、人をたらし込んでる時の方がいい顔してるー」


 ほとんどの兵が根を上げ地面に転がる中、まだ演奏をしながら走り回るSHIKI。


 ちょうど陽が落ち始め、戦も終わりの頃合い。

 立ち上がり大声で叫ぶ義光。


「今をもってこの戦は終いとする! 見事な指揮だった、坂東の式鬼よ! これがお前達のいう六苦(ロック)か! 移り変わるこの世の諸行無常、まさに春夏秋冬の現身よ! 天晴じゃ!」


 黄金色に染まる空の下、高らかに響く義光の笑い声が、夕焼けカラスと和音を奏でる。


 何故、皆必死で探し回っている中、両軍の殿が酒を酌み交わしているのかと責められたのは当然のこと。だが、全力でぶつかり合った後に残ったのは、大きな笑い声だった。


 そこからはもう腹の底が知れた仲間として、そのまま戦場だった場所に腰を下ろし、友好を深めるように歓迎と祝いの宴が始まった。


 城周辺の家々からも人が集まり、酒と肴を持ち寄ってのドンチャン騒ぎ。

 誰も命を落とす事がなかった戦。

 大笑いの戦に、宴は大いに盛り上がりを見せた。


「それにしてもだぁ、あー何だっけアンちゃんたちぃ……えーっと」


 既に呂律が回っていない井上綱知が、オレ達に絡んでくる。


「へへっ! 俺の兄ちゃんたちスゲェだろ! 坂東の式鬼ってんだ、忘れんなよ!」


「いや冗談キツイっすよナツさんたちー。俺らマジで走ってたってのに、ぶっ倒れた後もまだ走ってるって何なんすか。それにあの喋り、激ヤバっすよ、後で俺に教えて欲しいっす」


「ああ、走る方はマラソンといって――」


 アキはこの戦で一番目立っていたから周囲に人囲みが出来ている。

 まるでスターだ。


「アキさん! 周囲の状況を説明するのとっても上手でしたー! 是非私にもやり方を教えてもらえませんかー! 私もテンちゃんの戦で応援したいんですー!」


「お、姫ちゃんヤル気すげーねぇ! んじゃー俺ちゃんの真似してやってみよー!」


 アキの実況が義姫さんのツボにはまったのだろう。言葉巧みで饒舌な出羽の鬼姫が出来上がったら、輝宗さんの今後はもっと大変になりそうだ。


「ハル殿。儂にもあのチンドンという太鼓の叩き方を教えてはもらえないだろうか!」

「あ、輝宗様ズルいです! 是非満茂にも!」


「ああ! んだったらこの儂にも教えでけろっ! 今年の豊作祈願祭で披露して、日野様素敵ーって言われってがら! 毎年、酒入るど儂の頭さ神飾りして遊ばれんなさげって」


「日野さんはみんなに好かれてるんスねー。もちろんいいっスよ! みんなに教えるっスから! んじゃーまずは8ビートから――」


 ハルはみんなと一緒に胡坐を組みながら、膝を叩きリズムを教えている。

 能楽と音曲の時代に、ゆっくりと現代ロックが融合していく。


「ユキ。お主もこっちで一緒に飲もうぜー。ほれ見てみろー、守棟なんかもう半分白目剥いてるぞー。はっはーっ! 守棟ウケるわー!」


「氏家殿。寝るにはまだ早いですぞー! もっと秀綱と酒を酌み交わしてくださいよぉー」


「んごっ! も、もうムリでひゅ。ザルの殿と、いっひょにしないでくだひゃいっへー」


 義さんと秀綱さんが強いのか、守棟さんが弱すぎるのか。


 それにしても、なんて愛すべき人達なんだろう。

 オレ達のいる未来を築いてくれた、偉大な先人達に感謝と敬意を。


「義さん、秀綱さん。ついでに守棟さんも。今後も固い絆で共に歩んでいくことを願います。子供たちの為、そしてもっと先の未来の為に。沢山の人たちが共に笑い合える、そんな世界を作ることを、どうか止めないで下さい。その想いはきっと叶いますから」


 オレは大きく煌く銀月の下、義さんに注いでもらったにごり酒を一気に飲み干した。


 走り回って大汗かいた身体に、強いアルコールが喉と胃を熱く焼く。


「かはぁーっ! 旨ぇーっ!」


 あまりの美味しさに涙が出そうだ。


「はっはーっ! 任せておけぇー! この目が黒いうちは止まらんぞぉーっ! なあ秀綱! まあ、守棟は既に白目剥いてるけどなー! はっはーっ!」


 つい先日まで、一杯350円の激安ビールモドキをそれなりに美味いと思って飲んでいた自分が嘘みたいだ。






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