第二十八話
あけましておめでとうございます!
開戦の合図は、法螺貝担当のナツが行う事になった。
確かに時代劇でも開戦の合図は陣太鼓や法螺貝を使う場面がある。
だが、ナツが持っているのは「法螺吹き貝」だ。
言うなれば戦国メガホン。
あれをどうやって吹くつもりなんだ?
法螺吹き貝を口にあてるナツ。
「あ、ナっちゃんちょっと待ってー。俺ちゃんいいの持ってたかもー」
何かを取り出したアキが、ナツとコソコソし始めた。
『あー、チェックワン。チェックワンツー。よしOKだ。俺は坂東の式鬼、ナツだ。お前らは、これから今まで誰も経験した事のない戦を体験する事になるだろう。そんなお前らに、今まで誰も聞いたことのない音で、この戦の開幕を告げてやる。準備はいいな!』
そうMCを告げたナツの口元に、アキが四角い何かを押し当てた。
次の瞬間、戦場に大音量で流れる信号ラッパの音。
それは、誰もが一度は聞いたことがあるかもしれないファンファーレ。
『パパパッ パッパラパッ パッパラパッ パッパラッ パパパッ パッパラパッ――』
まさかのスマホで鳴らした音源。
「競馬じゃねーか!」
思わずツッコんだオレとハル。
そんな声など簡単にかき消される程に、戦場は雄叫びと大地を蹴る轟音に包まれた。
「行けーっ! 秀綱殿を確保しろーっ!」
「全員、体を張ってでも兄貴を死守だー!」
一気に熱気を帯びる中、ナツから戦国メガホンを借りたアキが、突然実況を始めた。
『さあ、ファンファーレと共に各軍一斉にスタートを切ったぁ! 鮭延軍後方にあったトライポッドはいつの間にか戦場の中心に! 吊るされた簀巻き、もとい、鮭延秀綱を守るように円状に展開する鮭延軍。それを囲うように更に大きな円状に展開した最上軍。先程の他人を傷付けることを禁ずる条件が効いているのかぁー、殴る蹴るが出来ないため両軍そう簡単に踏み込めない! ステップを踏みながら相手の様子を伺い合うという応酬が繰り広げられているー! これはまるで戦国カバディだー!』
「マジで……」
こめかみを摘まむオレと、皺を寄せたハル。
これ以上言葉が出なかった。
「よしおじちゃんスゲェよ! アキ兄もなんだよそれ! こんなの見た事ねぇ!」
「はっはーっ! どうだ政宗! 残りの二つ『戦わない戦』と『楽しい戦』の完成だな!」
「よっちゃん。戦ってこんなに楽しいもんだっけ!? 面白すぎるよ!」
「お兄ちゃんは人をおちょくって遊ぶのが天才的なんですー。あ、褒めてますー」
オレは少し気になった事があって、義さんに聞いてみた。
「義さん。もしかしてだけど、オレが思うにあの井上綱知って、かなりの切れ者じゃないか?」
「ふっ。ユキにもやはり分かったか。あの井上、先ほど鮭延の秀綱が『自分の首を差し出し、他には手を出さぬよう交渉する』と言ったから簀巻きにした、と言いよった。挙句に全員で守るときたもんだ。この戦、闘う前からワシは負けておった。してやられたな」
義さんは楽し気に、そして好まし気な表情でそう語った。
「え、どういうことっスか? 僕にはさっぱりっスよ?」
「要は、義さんは鮭延城を手に入れたい。そして周辺をしっかり掌握するためには暴力ではなく鮭延秀綱の協力が必須だ。井上綱知はその可能性に賭けたんじゃないかってことだ? 兄貴である秀綱を一人死なせない為、民や兵に無駄な血を流させない為に。オレ達にとって重要人物となり得る秀綱を人質に取り『鮭延は自分たちのモノ』『よそ者に好き勝手されたくない』『兄貴は殺させない』『全員で兄貴を守る』って宣言した。これは、深読みすると秀綱がこのまま鮭延を統治するならば全員でそれを支える。上に誰が就こうが関係ないって言っている様にも聞こえる。義さんはそれを理解して乗ったんだよ。上手く秀綱を奪って皆を納得させてくれ。無駄な血を流さない茶番の戦をしようぜ。最上義光なら分かるだろ? って提案にな」
何処か嬉しそうな顔をして聞く義さんの表情を、オレはきっと生涯忘れないだろう。
「マジで!? ユキ兄スゲェ! よしおじちゃんも頭良すぎるよ!」
「なるほどっスねー。あの井上って奴、中々熱くて見どころがあるんスね」
「わぁ! お兄ちゃんはどうでもいいけど、ユキさんの知的な所がカッコイイですー!」
「義姫!? 旦那は儂よ? 儂だからねー!?」
「ユキちゃんの分析パなーい! でもさー、何だか面白くなってきたじゃーん?」
「ああ、そうだな。それと、そろそろ頃合いだろう」
ナツは運んできたオレ達の獲物を馬から降ろすよう指示する。
「んじゃ、準備が整うまで俺ちゃんはも少し楽しませてもらうねー」
戦国メガホンを構え、馬上から声を飛ばすアキ。
『膠着状態が続く両軍だが、互いの出方を伺っているのかー? おおっと! ここで楯岡満茂が突進! サイドステップからの鋭いフェイントで中に押し入ろうとする! だが鮭延軍の反応も上々! 絶対に通すまいと喰らい付くー! フェイントに引っかかりコケたのは数人だー! だがそこに隙間が空いた! 隙間が空いているぞー! なんと、果敢にも頭からダイブして中央に飛び込んだのは茂兵衛! 馬引きで鍛えた脚は伊達じゃない! 一気に走り込みトライポッドを崩したぁ! 男気をみせた今や足軽組頭、茂兵衛! そして地面に叩き落された簀巻きー! これは痛そうだぁー!』
「いでぇっ! ちょ、待って! 助け……ああぁぁー!」
『すかさず鮭延の兵四人が簀巻きを抱える! そしてダッシュで逃げたぁー! 躊躇いのないその逃げっぷりは見事! 悔しがる茂兵衛が咆哮を上げる! 簀巻きを追いかける両軍入り乱れての大軍は、まるで獲物に群がるハイエナのようだー! おおっ! 一人飛び抜けて足の速い奴がいるぞ、彼は誰だ! 志村、志村光安だー! これは速い! みるみる簀巻きに迫っていくーっ! だが更にその後方から猛烈な勢いで追い上げる男がいる! 鮭延の星、井上綱知が鬼の形相で猛追! なんだこの速さは! 志村、後ろーっ!』
ナツがアキの脚を拳でコツンと叩き、準備が整った事を伝えると、残念そうに返事をした。
「りょーかい。いやー、めっちゃ面白かったー。俺ちゃん実況の才能あるんじゃなーい?」
「ああ、そうだな。悪くなかった」
義さん、輝宗さん、義姫さんに政宗も。人生初の生実況に腹を抱えて笑い苦しんでる。
ハルのチンドンセットを組み、落ちない様にしっかりと縛り付けた。
「お、締め付けがいい感じに気合入るっスね!」
オレとアキも、ストラップ代わりの派手柄な帯を肩に掛け、三線ギターと琵琶を持つ。
「さあ、今回のステージ大トリ。ド派手に行こうじゃないか」
戦国メガホンと采配を手にしたナツが、オレ達の戦国ライブ、ステージ開演を告げた。
「キャー! ナツさん、アキさん、ハルさん、ユキさん! 皆カッコイイーっ!」
「確かに。見た目は珍妙だが佇まいが堂に入ってるね。鳥肌ものだ」
「兄ちゃんたちスゲェー! あの中に行くのか!? スゲェー!」
オレ達が一歩前に踏み出すと、義さんが背中から一言だけ声を掛けた。
「頼んだぞ、坂東の式鬼」
応えるように義さんから託された采配を上に掲げたナツ。
「ああ、任せろ。俺達のロックを見せてやる」
采配が戦場へと向けて振られると、オレ達は熱い渦の中へと駆け出した。
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