21話
おわりです!
小さな庭に、今日もやさしい風が吹いている。
「それ、そろそろ収穫してもいいんじゃない?」
「えっ、でもまだ早くない?……あ、でもうーん、確かに丸くなってるかも…だけど……」
畑にしゃがみ込み、首をかしげているのは、元・女神様――今は人間として暮らし始めた“リナ”さんだ。
そのすぐ隣で、私は土の上に座り込んで、採れたてのにんじんを撫でていた。
「でもそのかぼちゃ、さっきから3回くらい迷って見てるよ。
リナちゃん、単純に食べたくなってるだけじゃない?」
「…ば、ばれてる……!」
赤くなった彼女が顔を背けるのを見て、私は思わず笑ってしまった。
ああ、ほんとに人間っぽくなったなあ――そんな風に思いながら。
丘の上の“あの家”は、今ではふたりの暮らしの場所になっている。
あの旅の終わり、リナさんが言った。
「もう一度、わたしとして生きてみたい」
その言葉通り、彼女は神としての力のほとんどを手放し、ここに戻ってきた。
最初は戸惑ってばかりだったけれど、今は――野菜の育て方も、洗濯のタイミングも、ぜんぶ一緒に悩んでる。
「――ねえ、次は何を育てる? ミントとかどう?」
「いいけど、気を抜くと畑を占領するから気をつけて」
「え、!嘘!そんなに繁殖するの!?」
リナさんは笑いながら言った。
お昼前になると、いつものように小道をとことこ登ってくる人の姿が見える。
手に焼きたてのパンを持ったおばあさん、庭の片隅に花を植えてくれる娘さん、絵を描きにくる青年。
かつて、私たちが片付けを手伝った人たちだ。
誰も無理に感謝の言葉を口にしない。
ただ、にこにこと「野菜できた?」とか、「ここ、座っていい?」とだけ言ってくる。
それが、何よりあたたかい。
「……あの頃の私が見たら、びっくりするかな」
にんじんを洗いながら、リナさんがぽつりと言った。
「この世界を救った女神様が、土まみれで野菜育ててるんだもんね」
「ふふ、まあでも、“癒し”ってこういうのかもね。
静かで、やさしくて、根っこがちゃんと伸びてる感じ」
「……ねえ、次の旅、また行くことになったら……私もついていっていい?」
「うん。でもその前に、このかぼちゃ食べようよ。育てたんだし」
「だよね!」
土と風と、太陽のにおい。
それにまぎれて、たしかな“再生”の気配が、今日もこの丘に満ちていた。
ふたりの午後は、のんびりと進んでいく。
それは世界を救った私たちの、とてもささやかで、幸せな日常だった。
読んでくれてありがとうございました!!




