第1部 完
スタジオの帰り道。夜風が、心地良い。
この町の空気は、昔と何も変わっていないようで、けれど俺にとっては、すべてが新しい。
十二歳の身体で、三十五年分の感情を抱えて生きるのは、想像以上の出来事ばかりだった。
だけど、今日くらいは言ってやってもいいかもしれない。
「悪くないな」って。
こんなに“ちゃんと生きた”って思える時間なんて、前世では無かったかもしれない。
いや、とにかく夢中だったあの頃は、俺なりにきっと精一杯生きていたのだろう。
そして、俺は、いつでもあの頃に戻れる。
信二も、丘も、やっぱり俺の親友だ。
最高に馬鹿だよ。
俺もあいつらにとって、最高の馬鹿でありたい。
そして彩は、輝きを放つ俺の初恋だ。
叶っても叶わなくても、思い出よりもずっと眩しい。
それが褪せないよう、これからの時間を大切にしていきたい。
もちろん、不安がないわけじゃない。
これからもっと色々あるだろう。
恋愛も、友情も、バンドも。
全部が順風満帆に行くとは思ってない。
やり直す前の方が良いことだって、いくらでもあるだろう。
でも、今の俺なら言える。
今生の時間を、後悔していないって。
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部屋の電気を消して、布団に入る。
スマホなんて気の利いたものはない。
代わりに、手元にあるのは、ノートと鉛筆と……少し疲れた身体。
でも、心は、不思議と軽い。
「よし……」
何に向かって言ったのかも分からない、独り言。
それでも、言わずにはいられなかった。
俺はきっと、この時代で、何かをやり遂げたいと思ってる。
何が正解かなんて分からないけれど。
何の才能もないかもしれないけれど。
それでも、やるんだ。
やるしかないだろ。
これからの人生、全部かけて。
歌って、笑って、叫んで、ぶつかって。
俺が俺であり続けられるように。
そういう“今”を、積み重ねていこう。
そう思いながら、俺は目を閉じた。
――
翌朝、丘から電話がかかってきた。
「おい博和、今日ヒマか?」
「……おう。なんだ?」
「スタジオ入ろうぜ」
二日連続。演奏できる曲なんて増えていない。
喉もガラガラ。
俺が大人だったら、「入る意味がない」で終わってしまう話。
だからこそ、それを聞いて、俺はニヤリと笑った。
「……悪くない、どころじゃねえな。最高だ」
ここまでありがとうございました!!
前話の更新日を見たら3年前でしたので、少々よろしくないと思い、一旦「第1部 完」です!!
続きは勿論書くので、あくまで「第1部 完」です!!
6年間、ありがとうございました!!