番外編 一緒に観よ
「春喜!」
「おわっ!?」
インターホンを鳴らして、ドタドタと扉越しでも聞こえてくる階段を下る音を耳にしながら待っていると、バンッと玄関扉は開かれパジャマ姿の親友が俺にダイブをかましてきた。少し良い匂いがすると、きもいことを思ったが、密着した体温が異常に高いことにすぐに気付いた。
「ご、ごめん春喜。近づいちゃ駄目だよね」
「いや、俺は別にいいけど……辛いならベッドに横になってた方がいいぞ」
桜楽は火照った表情をしながら俺から距離を取る。顔が赤いのは桜楽が熱を出しているからだ。ヒューマントーチみたいな目に見えるそういうのじゃなくて、単純に体温上昇がしている。つまり風邪だ。おでこにはその証に熱さまシートが貼ってある。
今朝、通学中に桜楽から38.8度の熱があるから今日は休むと連絡が入ったのだ。だからそのお見舞いにと桜楽の自宅に訪問して、今に至る。
「熱はちょっと下がって楽になったの。春喜が来てくれたのが……めっちゃ嬉しくて。つい来ちゃった、えへへ」
太陽のような眩しい笑顔を咲かせる桜楽。やばい、くそかわいい。画像で保存したくなるなど、またきもいことを考えてしまう。笑顔なんて初めて会った時から何回も見ているが、熱で浮かされているでだろう今の桜楽の言葉は少し迫力が違う。
「ほ、ほら。水とかゼリーとか色々買ってきたんだ。まあ、割と元気そうで良かった。じゃあお大事にな」
ビニール袋を手渡してすぐに帰ろうとしたが、桜楽に腕を掴まれた。
「待って。うち上がってく?」
「え?」
「1人じゃ暇なんだよね。パパとママは仕事で、お爺ちゃんも出かけてるから。あ、でも熱移しちゃいけないか」
寂しそうな目をしながら、桜楽は咳き込んでしまった。このまま帰っても、週明けの月曜日には桜楽は元気に登校してまた会えるだろう。
でも俺は、今桜楽と話したかった。
「じゃあ上がらせてもらおうかな」
「え? いいの?」
「そっちが良ければ。それに、頭良い奴は風邪なんて引かないからな」
「ははっ、それ逆じゃない?」
寂しさが桜楽の顔から消えた。露骨に笑顔を見せてくれたのが、俺は嬉しかった。玄関を通ってリビングに桜楽が連れてってくれた。
「今日は学校どうだった?」
「普通だよ。来週の火曜に、漢字の抜き打ちテストするってさ」
「うぇ。またかー」
「そう言えば、桜楽って今日初めて中学休んだよな?」
「うん、そうだね」
今日は中学に入って、初めて桜楽がいない1日を過ごした。だから、初めてこんなことを思った。
「そうだな……やっぱりそうだな」
「ん? 何が?」
「いや、中学に入ってからは、ずっと桜楽が一緒にいてくれたから……だから、桜楽がいないと楽しくないなって思った。桜楽がいないと、俺ぼっちだからさ」
自分で言ってて情けなくなるな。女子1人いないだけで学校が楽しくないなんて、かっこ悪すぎる。
「て、友達作れって話だよな。桜楽を見習わないと」
「……私だって楽しくないよ」
「え?」
「ねえ、何か映画観ない?」
桜楽はでかくて立派なソファに腰掛け、俺に隣に座ってくれとポンポンと座面を叩く。何か言った気がしたが、まあいいかと促されるがままに座ろうとしたが、ちょっと待ったと脳が体を停止させた。
「寝てなくていいのか?」
「春喜が学校行ってた間ずーっと寝てた。もう退屈カーニバルだよ」
「言葉おかしい」
「映画を観て、私の活力を復活させてくれ同士よ」
「なんだそりゃ」
いつも通りの桜楽がいて、思わず苦笑してしまう。熱がある状態で映画なんて観れるもんなのだろうか。まあ、このスーパー美少女サイヤ人なら可能かもしれん。なんにせよ、このわくわくに満ちている天使の顔をがっかりさせたくないと思って、俺は隣の席に腰を落とす。
「で、何観る?」
「んとねー。あ! じゃあハン・ソロ観ようよ! 確かスターウォーズの映画の中で観てなかったよね?」
「桜楽観てなかったっけ?」
「うん、観たよ。でもまだ1回しか観てないから問題なし!」
「あれ面白い? スターウォーズの中じゃ興行収入の成績悪くなかったか?」
「金だけで判断なんてナンセンス! 私はかなり好きだったぜ」
「マジか」
それは興味深い。スピンオフ映画ならローグワンは観てたんだが、これは良い機会かもしれない。スマホで軽く調べてみた。
「これハリソンフォードじゃないんだ」
「若い頃の話だからねえ。でもミレニアムファルコンを操縦するシーンは超かっこいいよ。アクションもクールだし、何より最後のシーンで」
「ストップストップ。ネタバレ厳禁」
「あ、ごめんつい」
両手を合わせて謝る仕草を見せる。危うく楽しみが半減する所だった。
「寝たくなったら寝て良いからな」
「そしたら春喜の肩を枕にするー」
恥ずかし気もなく密着する桜楽。全くこちとら女子にあまり耐性がないんだが。桜楽の家に来るのだってまだ緊張する。まあ、桜楽は誰とでも距離が近いから、俺がうぶなだけなんだろう。
「……ずっと一緒だよ」
「え?」
「さあ、観ましょう観ましょう!」
桜楽がテレビのリモンコンを操作する。今の声は、はっきりと聞こえた。頬を赤らめるのは、俺がうぶなのが原因なのだろうか。
俺も少し熱があるらしい。
2章終わりです。3章を投稿し始めるまで、しばらくお待ちください。もしよろしければ、評価・ブックマークをお願いします。作者が雄叫びを上げてとても喜びます




