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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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一対一



「当たれ当たれ当たれぇ!」


ハンドキャノンのビームを連射する。サバゲ―とかはやらないので自信はないが、クリアになった思考でエイムを処刑人にロックオンする。しかし、ジグザグに動く処刑人にギリギリの所で全部外された。


「ちっ!」

「ほらほらどしたぁ!?」


不規則な動きをしていた処刑人は突如正面突破を迫り、俺との間合いを詰めてきた。敵ながら良い判断だ。接近戦じゃ銃キャノンは使えない。鬼のような気迫で放つ右の殺拳を盾でガードする。重いがさっきの炎ほどじゃない。


拳を軸に滑るように移動し、ハンドキャノンに形を変えていたキューブを剣の形状に変形させる。臨機応変に対応できることが、この能力の1つの利点だ。拳を突き出した無防備の状態に斬りかかる──


「はっ!」

「ぬっ」


今度は足を使って周囲を払ってきた。やっぱり対処に隙がない。名無しの傭兵(まえのやつ)は頭ぶっ飛んでたからか、乱暴ではあったが攻撃の手が読みやすかった。でもこいつは違う。名無しの傭兵が歩兵なら、こいつは重騎兵。


殺し合いの経験が段違いなんだ。


「久しぶりに全力で体を動かすぜ。さっさとやられてくれるなよぉ!?」


公園の木々を反射して響く雄叫びが、処刑人の左腕に濃いイエローのリングを浮かび上がらせる。それも、今度は2つ。リングをブースターのように作動させ、百獣の王の如く肉薄する。


稲妻二式(ライトニングダブル)……」

「やば……っ!」


咄嗟にガードの体勢を取る──


拳裂インパクト!!」


青い雷撃が盾越しに炸裂した。


「ぐぅ、うわあ!」


凄まじい威力は盾を粉々に破壊し、腕が取れるんじゃないほどの衝撃を全身に浴びせられた。雲があまりない夜空を眺める状態に寝かせられ、剣を握っている手が震えていた。


「マ……ジか……人間が出せるパワーじゃねえ……」

「良いだろ俺の魔術。あらゆる属性の魔術を両腕に乗せて無駄なく撃てる。やっぱ男は拳でなくっちゃなあ。どんな盾だろうが矛だろうがぶち壊せるぜ」


実際今壊しましたからね。ヴィブラニウムでも壊せるんじゃないのか? 


「いかにもなパワータイプだな」

「お前のそれ、天位魔術リーサルウエポンだよな? 初めて見たぜ。剣とか盾とか銃とか。色んなことできるんだな。でも大したことねえな。クグツ様の方がよっぽど凄いぜ」

「さっきから誰だよクグツって」

「俺のボスだ」


ボスねえ。そう言えば、名無しの傭兵あいつも『剣生』のジンが上司だった。こいつも同じパターンってことか。


「そのクグツに命令されて来たのか?」

「他の奴に命令されたって俺は動かねえ」

「……1人の女の子を殺すのに罪悪感はないのか?」

「ないね。任務って言われればやるだけだ。終わらせればクグツ様も喜んでくれる」

「……なんで……軽々しくそんなことが言えるんだ!」


痺れが残る両手で剣を握り、いつの間にか黄色いリングを左右の腕に1つずつ付けていた処刑人に斬りかかる。


「人間ってことは、お前は謀反奴(リベリオン)ってやつなんだろ? 人間裏切ってまで1人の女の子を殺すのかよ!?」


剣に対し拳で対抗する処刑人。身体強化の魔術で両腕を強化しているのか。やはり、左腕に触れる時だけなぜか金属のような音が鳴る。


「裏切る? 俺は人間サイドの味方になった覚えは、始めからねえんだよ!」


両手に稲妻を迸らせ空気を突く。スーツ越しに殴られる度、電撃が身体を襲って剣を手放しそうになる。まるでスタンガンで殴られてるみたいだ。


「人間の形してるから人間側についてるとでも? そりゃ浅はかってもんだ」

「なんでグウェンを殺そうとする?」

「知らねえよ。危険だからなんとか、言われたことをやるだけだ」

「なんで戦争なんかするんだ?」

「質問ばっかだなあ。始めた魔王に直接訊けよ!」


雷の連続の打撃が剣の刀身を破壊する。武器破壊に専念した攻撃に気づくことができなかった。戦闘経験の浅さが滲み出ている。


「クソッ……」


残るキューブは後3つ。元々5つスーツに装着されていたキューブだが、破壊されたキューブが再生されるかは現状不明だ。なにせ壊したことがないから。時間が経てば再生するのか、それとも何か別の条件が必要なのか。どれにせよ、無い物を考える余裕はなさそうだった。


「今からでも居場所を教えてくれれば終わりにするぜ?」

「理由もわからないのに……誰かを殺せるのか?」

「そんなこと考えたこともねえな。戦争で殺す理由なんて単純だろ。敵だから、憎いから、邪魔だから、生きたいから、死にたくないから、ただそこにいたから。理由作るのに10文字もいらないんだよ。そのグウェンって奴も、どれかの理由に当てはまるだけだろ」

「そうやって命令されれば、なんだってやるのか?」

「やるさ」


恐ろしくはあるが、濁りのない言葉だった。振りかざす拳も、駆け出す足並みも、自分の使命に従って動いている。なんでこいつがグウェンを殺そうとしているんだって、疑問を抱いてしまうほどに澄んでいた。


「クグツ様のためだったら、100人でも1000人でも殺してやる!」


両腕に浮かび上がっていたリングの色がイエローから淡い空色に変化していた。3つ目のキューブでハンドガンを生成したが、時既に遅し。処刑人の殴打の瞬間にハンドガンは凍結され、さらに次の瞬きの合間に氷ごと砕かれる。


「せらあっ!」


攻撃は1発の殴打で終わらず、腕と足の連携コンボでセットだった。拳で俺の新たな武器を破壊し、生まれた隙を突くように俺の胴体を蹴り飛ばす。


「がはっ」


また空を見上げる形で仰向けになってしまったが、今の場所は高い木が多くて空があまりよく見えなかった。


「拍子抜け。片腕でもいいくらいだ」

「はあ……はあ……まだまだ」


まだ天位魔術(のうりょく)に完全に慣れていないとはいえ、ここまで力の差があるのか。名無しの傭兵(あいつ)より強いのはわかるけど、それでもこれかよ。


希少で特別な魔術じゃないのか……いや、魔術の問題じゃない。それを有してる持ち主、俺に力が足りないんだ。


「頑丈だなそのスーツ。それでホントにジン様の刺客を倒したのか? てか、よく魔力なんてもらう気になったな。教えてくれよ。グウェンって奴から脅されて仕方なく戦ったのか?」

「違う。死なせたくなかったから……助けてやりたかったからだ」

「ほぉ。やっぱ負傷したって話は本当なのか。じゃあ、お前の助けには行けないわけか」


処刑人は余裕の表情で首の骨を鳴らす。今ので俺だけが障害だと理解した。まだ回復しきってないグウェンなら()れると確信してる。


「こりゃ楽な任務だな。自惚れた素人を叩くだけで終わる」

「自惚れ……?」

「助けてやりたかっただっけ? お前は誰も助けてなんてない。その場しのぎをしただけだ」


何を言っているかよくわからなかった。


「どういう意味だ?」

「命を救うことと助けるはイコールじゃない。浮浪者に食料を与えた奴を何回か見たことがあるけどな、助けた浮浪者は1週間後に餓死してた。与えた奴はそれっきり。まあ道を通ってる時に、哀れに見えて良いことをしようとしたんだろうな。数日の命は救った。でもこれは助けたと呼べるか?」


まるで指導室に呼び出された気分だった。今殴りかかっても無駄か。それに今は不思議と、こいつの話を聞きたかった。


「食料を与えた奴は浮浪者の腹を満たしたんじゃない。自分の心を満たしただけだ。自分は良い奴なんだって勝手に勘違いしてるだけ。無責任な慈善活動さ」

「俺がそれをしてるって?」

「物分かり良いじゃねえか」

「例題が間違ってる。俺は死にに向かってるグウェンを見捨てるなんてできない」

「それもだよ。そん時に死なせてやった方が良かったかもしれないぜ? この先狙われ続ける。ずっと地獄だ」


ずっと……地獄。名無しの傭兵(あいつ)も似たようなことを言っていた。俺は……グウェンの苦しみを先延ばしさせていただけだったのか?


「その点、クグツ様は完璧だぜ」


俺への攻撃を忘れているかのように、こいつは話に熱中していた。まるで尊敬する父親を自慢したがる少年の姿に見えた。


「クグツ様はこんな俺のことを助けてくれた。無責任な慈悲じゃない。俺を地獄から連れ出してくれた。食べ物も、住む場所も、着る服も、役割も、全部くれた。俺にとってのヒーローだ」


ヒーロー。その言葉にあの時の光景が脳裏を過る。



【ヒーローになって】



あの言葉は、触れた手の温もりは全部本物だった。それだけじゃない。料理を食べた時、一緒に映画を観に行った時、感想を言い合った時。その時々の笑顔も全部全部本物で、救っていなければ見られなかった物だ。


知ってるからわかる。死なせた方がいいわけなんてない。


「講義は終わりだ!」


リングが最初に見せた紅色に戻っていた。きっと数秒後の景色でも想像してるんだろう。威力に耐え切れない俺が吹き飛ばされ、気絶した俺を前に勝利の拳を掲げる。


「ふんっ!」

「何!?」


大砲の剛拳を片手で受け止める。1度目よりも火力が強い火炎をスーツ越しに感じる。痛い、熱い。骨が軋む音が聞こえたが折れてはいない。料理を焦がした時と同じ匂いが鼻腔をくすぐる。


「いってぇ……けど、まだいける」

「んだと」

「結局お前、自分の上司自慢したいだけじゃねえか」

「足元にも及ばないってことだよ」

「クグツがどんな奴か知らんけど、俺はそいつとは違う!」


残り2つあるキューブの1つを外し、それを放たれた処刑人の右腕の前腕にくっつける。2秒も経たずキューブは形状を変え、蛇のように処刑人の腕に絡みついた。


「なんっ……おわっ!」


突如、処刑人は体のバランスを崩した。それもそのはず。取り付けたキューブは重さ約50Kg。それがいきなり腕にのしかかったら重心が壊れるのは明白。


「男は拳だったよなあ!」


壊れて無防備になった顔面に渾身のストレートを放つ。ゲームのコンボ技のように追撃を繰り返す。重さにまだ慣れていない処刑人は戸惑うしかない。


「くっ……おまっ……変な真似しやがって!」

「こっちは一般ピープルだぞ? 少しくらいハンデあったっていいだろ」

「ハンデ挙げたら助けられんのか!?」

「例題が間違ってるって言ったよな? これからなんだ。まだまだこれから、助けるに近づいていくんだよ! 打ち切りになんてさせてたまるか!」


グウェンの言葉を嘘になんてさせない。ただ母親に会いたがってる女の子の約束を果たせない奴なんてヒーローじゃない。たくさん考えて、たくさん方法を探して、グウェンの願いを叶えてみせる。


その前段階として、今はこいつをぶっ飛ばす!


「グウェンがくれた力を、俺は無駄にはしない!」

「その奇天烈な魔術でか!?」


キューブの重りを外すことを試みていた処刑人だが、思考を切り替えそのまま戦い続けることにしたみたいだ。一手、また一手と俺の乱打を凌ぐ度、反撃の回数が増えていた。慣れるのも時間の問題か。


「知ってるか? 魔術師ソーサラー以外の兵士や戦闘員は、身を守るために甲冑や鎧を身につけるんだ。でも魔術師は違う。自分の魔術で肉体の強度を上げて、傷を癒すための治癒(ヒール)もできる。技量次第じゃ硬い鎧なんて身につけるよりも強度は優り、身軽に動ける。お前みたいに全身スーツのマスク野郎なんざ、魔術師にはいねえんだよ!」


奴の右腕に新たに浮かび上がる瑠璃色のリング。魔術が込められたパンチを両腕をクロスさせたガードで耐え凌ぐ。インパクトの瞬間に、風船が破裂したかのように四方に水が霧散した。


「クソッ……っ!」

「マスクなんてつけてる奴は全員腰抜けだ。俺には勝てねえ」

「わかってないな。マスクのありがたさを」


こいつにスパイダーマン映画を全部見せてやりたい。ヒーローがマスクを着けるのには色々理由がある。正体の秘匿だったり体の一部になってたり。でも1番はそこじゃない。もっとシンプルで、10文字もいらないで説明できる簡単なことだ。


俺の大好きな映画が教えてくれた。


「マスクを被れば、強くなれるんだ」

「被っただけでんなわけあるか!」

「あるんだよ!」


確かにこのマスクやスーツは、魔術的に身体能力の向上があるけど、そういう意味じゃない。自分じゃない自分になれる。弱さから目を背けさせてくれ、よりヒーローに近い存在に俺を連れてってくれる。


「だったらその強さとやらを見せてみろ」


ドクンと、魔力の波動が全身を貫く。発動元は奴の右腕。まただ、気づけば臙脂色の2つのリングが光明に輝く。


「まずい……っ!」

爆裂(ブラスト)──」


あれが来る。恐らく溜めを作って放つ会心の一撃。あの時は盾があったからまだ無事だった。次に来る攻撃は片手で防ごうとしたら腕が消し飛ぶ。


二式ダブル──」


キューブはまだ1つある。放たれる前になんとか防御壁を。


インパ──」


間に──



「On your left (左から失礼)」



放たれたのは拳ではなく、甲高い声と共に繰り出された膝蹴りだった。処刑人の顔に見事なまでにめり込み、公園の芝生を抉り取るほどの威力だった。


「え……?」

「おー思いの他結構飛んだね」

「ぐわっ……だ、誰だ!?」


やったのは俺じゃない。あの状態から膝蹴りなんて打ち込めるわけがない。だったら犯人は誰か?



「I have come here to kick ass (お前をぶちのめしに来た)」



マスクを被った人間がいた。




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