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ヒーローがいない世界  作者: 坂田リン
第2章:二人目
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走り回るしかなかった。大智からの返信は一向に来ない。だからひたすら走って見つける。無我夢中だった時、雷に打たれたような感覚が全身を走った。


「魔力……!?」


魔力と判断したのは本能のような物だった。継続とした感覚ではなく、静電気のようなほんの一瞬の出来事。こんなことは初めてだった。


「誰かが魔術を使った……?」


それにしては微弱過ぎる。多分、魔術を発動もできないような小さな魔力の起こりだ。隠密ハイドを纏っていても魔術を使えば隠しきれないと、グウェンが言っていた。もし、大智と処刑人が接触し、魔力を使うような場面になったら…………言葉を作る前に駆けだした。方向は今のでわかった。


後は繰り返し、走って、走って、走って、


「ヒーロー登場だクソ野郎」


ぶっ飛ばす。奥に倒れて血を流している大智とその前にいる奴を視界に捉えた時点で、やることは決まった。スーツは既に完全武装済み。ありったけの、名無しの傭兵(ノーバディ)を初めて殴打した時みたいに、弾丸より重い拳を穿つ。顔面を半分に凹ませてやろうと思ったが、男の左腕がそれを阻止した。


ガキィンッ!!


「あ?」


変な音だった。拳が腕に衝突した音とは思えない。まあ触れているのは男の服なんだが。ともかく攻撃は阻止された。名無しの傭兵(ノーバディ)の時は気持ち良く1発喰らわしてやったのに、阻止しただけで終わらずカウンターの一撃を放ってきた。


「おわっ」


身を翻してギリギリで躱す。そのまま跳躍して男の背中に回り込む。でも反撃はしない。


「大智! 平気か!? 喋れるなら返答しろ!」

「ぁあ……誰……だ?」


真ん中に俺を挟んで、前と後ろに敵と大智がいる。意識はなくしてないみたいで良かった。


「動けるなら早くここを離れろ。後は俺がやる」

「な、何……」

「たくっ……今度はなんだよ」


左肩をぐるぐる回しながらこちらに眼を飛ばしてくる男。男と言っても、俺とさほど年齢は変わらない少年の姿だった。身長も同じくらい。薄橙色のガサついた髪に変な服装。


山内が言っていた特徴と似ている。いや、そんなこと確認しなくても分かりきってる。まさか大智の連絡が的中するとは。覚悟はしていたけど、今日だなんて思っていなかった。


魔力の起源はここだ。周りに人がいないということは、目の前のこいつしかいない。そして感じる異様な圧。


こいつこそが処刑人で間違いない。


「一応訊いとくぞ、不審者」

「はあ? スーツと変なマスクしてるお前のよっぽど不審だ……ろ……ん? いや違うな。それ魔術か? 触れた時に魔力を感じた」


また名無しの傭兵(あいつ)みたいなイカれた野郎が来たかと思ってたけど、処刑人なんて物騒なネーミングを与えていいか迷ってしまう。最初の奴が特殊過ぎただけか。


「てことは魔術師(ソーサラー)……グウェンじゃねえもんな。男だし。この世界に魔術師なんているわけない。しかもそんな魔術は見たことがねえ。いるわけない魔術師に未知の魔術……まさか協力者か?」


何やらぶつぶつ呟いている処刑人を尻目に、大智の様子を確認する。なんとか立ち上がることはできそうだった。血を流してるけど思ったより少ない。すぐに出血は止まるはず。骨は大丈夫か? 大智を抱えて逃げる手もあるか?


「マジか……マジか!? おお、ハハハハハッ! 神様も少しは仕事するなあ!」


うるさいな。何をそんな興奮することがある。


「流石クグツ様だ。ひょっとして言ったこと全部当たってんじゃねえか?」

「クグツ?」


誰だそれ? 


「お前、名前なんて言うんだ?」

「わざわざ名乗る名はない」

「そ……の声……春喜か?」


言っちゃたよ大智さん。変声機みたいな機能取り付けられないのか。意識が朦朧としてるはずだから目を瞑ろう。


「ハルキか。中々カッコいい名前じゃねえか」

「そりゃどうも」

「じゃあ率直に聞くぜ。グウェン=ロザリーを知ってるな?」


知らないと答えようとしたが、相手も馬鹿じゃない。俺の存在を勘付いているだろう。隠すのは無駄だと判断する方がいいか。


「……知ってたら?」

「そんな警戒するなよ。今どこにいる? 場所さえ教えてくれたらここでさよならだ。お友達を傷つけたことは勘弁してくれ」

「断る」


俺が2文字の返答を食い気味に返したら、処刑人はポカンとした様子で一瞬フリーズした。


「なんで言わない? ん、ああ、そうか。礼金が欲しいのか? 事が終わればいくらでもやるよ。いくら欲しい?」


あーこれはあれだ。交渉は駄目なパターンだ。


「金を話しに持ち出す奴は、悪役だって相場で決まってる」


そもそも俺はそのつもり(・・・・・)で来たんだ。処刑人狩り作戦を開始する、それが今だ。


「……消えた少女と()り合うのは想定してたんだが」


処刑人の眼が光った気がした。しかし、注目すべき点はそこではなかった。奴の右腕に紅色のリングが出現し、同時に魔力の波動を感じた。


「お前は外野だ」


踏み込んだ地面が抉れた。明確な殺意を持った拳が俺の頭部を破壊するまで0.1秒。咄嗟に右腕に装着されているキューブを取り外し盾を作る。殺拳が衝突した瞬間、夜闇を煌めかせる爆炎が同時に炸裂した。体が衝撃に耐えきれず数メートル吹っ飛ばされ尻餅をついた。


「ぐぅ……っ!」

「へえ。面白いなそれ」


処刑人は最新のおもちゃを見る目で視線を離さない。今の一撃は挨拶だと言いたげな様子だった。


「魔術の禁止解除だ。お前をひっ捕らえて居場所を吐かせる」

「やっぱり……グウェンを殺しに来たんだな」

「どこまで知ってるか知らねえが、仲良く暮らしてるのか? 赤の他人じゃねえの?」

「もう友達だよ!」


立ち上がり盾を豪速で投げる。しかし盾は、処刑人に掠りもしないほどの離れた直線を描いていた。


「どこ狙って」


最初から当たる気なんてない。目標は斜め背後にある木だ。狙い通りに盾はぶつかり、計算通りの跳ね返りで横にあった街灯へ再度ぶつかり、仕上げに処刑人の背中に命中する。


「ごっ!?」

「挨拶だ」


キューブはただそれ自体を実体化するだけじゃない。何度か訓練をしてわかったが、キューブはこのスーツと相性が良い(・・・・・)。スーツに装着してあった物だから当然だと思うが、これがまた面白い。


キューブは最初こそ四角い形だったが、その根底は不定形だ。剣にも、盾にも、槍にだって変形できる。だったら、ハンドキャノン(こんな)のもできるのは当然。


「ファイヤ!」


スーツの上からキューブがスライムのように纏わりつき、左腕がサイコガンのような銃口を処刑人に向け、発射する。魔力で構築されたビームは、体勢を崩した処刑人の腹のど真ん中にぶち込まれた。


「ごは……っ!」


僅かに身体は宙を浮かぶが、倒すことは叶わず両足を地面について踏ん張りやがった。直撃した腹を抑えながら、俺のことを冷や汗をかきながら見つめてくる。


「テメェ。やりやがったな!」

「こっちも情報を洗いざらい吐かせてやる。その前に、俺の友達と先輩を傷つけた分、そっくりそのままお返ししてやるよ!」


跳ね返り戻って来た盾を右手に構え、左腕のハンドキャノンで臨戦態勢を取る。これは大智を抱えて逃げることはできなくなっちゃったな。


「できんのか? 兵士でもないお前が? 返り討ちに遭うのが目に見えてるぜ」

「Take your shot (やってみろ)」



狩りは本格的に始まる。




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