緑鬼の王、再び 39
「そんな不快な顔をこちらに向けないでください。不愉快です」
「フフフ、そうか。ならば、お前が止めさせてみろ!」
私の言葉を受けてキングゴブリンはニヤリと笑うと、掴んだハンマーを強く引っ張った。
そして、私はそれに抵抗__は全くせず、それどころかハンマーを掴む手を離してしまう。
「っ!なに!?」
これにはさすがのキングゴブリンも予想外だったようで、勢いを殺しきれず後ろ向きにタタラを踏む。
そして、そんな隙を見逃す私ではなかった。
「お忘れですか?元々私は素手が得意なんですよ」
一瞬でキングゴブリンの懐に入る。
キングゴブリンは体勢が崩れていて防御もままならない。
「__彗星」
その瞬間、私の姿は消えた。
「なに…がっ!!?」
そして、遅れてキングゴブリンはお腹からくの字に折れて、とんでもない速度と衝撃波を撒き散らしながら後ろに飛んでいった。
木々をなぎ倒しても止まることなく、どこまでも飛んでいってやがて見えなくなる。
そして私は、飛んでいった方向と同じ方向に少し進んだところに立っていた。
服も少しボロボロになっていて、中の肌が見え隠れしている状態だ。
彗星。
その実態は、単純に魔力を一瞬だけ開放し、体全体を使って超高速で移動しながら相手に拳を放つ技のことである。
しかし、その速度はあまりに速く、ゆうに音速を超えている。
その圧倒的な速さに、技を放つ際相手からは私の姿を視認することはできず、音も衝撃も全てを置き去りにしてしまう。
そして、くらった相手は何が起きたか分からず、時間差で身体が気づいたかのように吹っ飛ぶのだ。
その上、魔力も一瞬しか開放しないため、身体への負担も小さく、少し休めば今の身体でも何発かは放つことができる。
代わりに、それだけ強力な技な分デメリットもしっかりと存在し、まず速度に特化しているため自身でも上手く操ることができず、今のところ直線上にしか放てないこと。
ものすごい踏み込みと共に放つ技の為、地面が硬くないとバランスが保てず、上手く放てないこと。
さらに、音速を超えることで衝撃波は辺りに無差別に飛ぶため、仲間が近くにいると使いづらいこと。
そのおかげで自身の服も衝撃波でズタズタになるため、あまり使いたくないこと。
これらのデメリットがあるので使える場所は限られているが、その分とても強力なためもしもの時の私の切り札的技だ。
この前、寮で寝る前の一時間で考え、三十分だけこっそり練習していたのだが、そのとき威力を上げすぎて服は弾け飛び、ものすごい音がなったため人が集まりだしてきたので、全裸の身体を見られないよう全力で隠れて寮に逃げ帰ったのは秘密の話だ。