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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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空間の支配者

 交易都市ベルシュテット東地区、闘技大会の舞台付近。


「いやー吸血鬼様には頭上がらないわぁ〜」


 闘技大会の優勝賞品、『鏡越しの記憶(ミラー・メモリー)』を右手に持った黒髪の青年は意地悪い笑みを浮かべる。


「売る前にまず、試しておかないとなぁ」


 青年は目を閉じ、ある人物を頭に浮かべる。すると、鏡は徐々に輝き出す。目を開けた青年はほくそ笑みながら、鏡に映し出される人物を待っていた。


「ーーーうおっ!?」


 だが待っていた間に背後からの不意打ちに気付き、頭を下げて回避する。振り向きながら距離を取った青年は、不意打ちをしてきた相手をじっくりと眺める。


「あ。闘技大会に出てた気の強そうな美人」


「なに私の賞品を盗んでるんだ? そんな暴挙を見過ごすことはできないんだが?」


 対峙した相手は青年の言う通り、ホワイトブロンドの長い髪をハーフツインテールにしているのが特徴的な目鼻立ちが整った美人の女性。

 そう、吸血鬼イフォリンと交戦していたはずのスカーレット・ソードディアスである。


「いやいや、大会で1番強いのはあの天使だろ? でもあれは吹き飛ばされていなくなった。それなら次点で強い俺のものだろ?」


「何を言ってる? それは私のものだ。私が君を倒す前に、潔く渡せ」


 そう宣言したスカーレットが構えを取ると、青年は口角を上げて笑う。


「‥‥‥ふっ、面白いなあんた。これで俺より年上なら最高だったのに」


「意味わからないこと言ってないでさっさと構えろ。私も暇じゃない」


「はいはい、気の強いお嬢さんだこと」


 男は懐に鏡を入れた後、構えを取る。間違いなく、今はそんなことをしている場合では無い。


「ーーー!」


 すると、スカーレットは少し目を見開いて驚く。彼の構えが、自分の構えとよく似ていたからだ。


「同じ戦い方ってことか」


「そうみたいだな。でも、これではっきりする」


「そうだな‥‥‥私の方が上ってことが!!」


 システィアは好戦的に笑いながら地面を蹴って突進していく。


「ーーーあ! ちょっと待った!!」


 すると青年が突然待ったをかけるが、スカーレットは止まらない。スカーレットは剛速の右フックを繰り出しながら返事をしていた。


「なんだ降参か!?」


「違いますけどぉ!? 聞きたいことがーーー」


 青年の話に耳を傾けないスカーレットは、次々と連続攻撃を繰り出す。青年はそれを捌くか躱すか対処しながら発言する。


「って聞けよ!? あんた、あの吸血鬼は!? もう倒してから俺のところに来たのか!?」


「ぶん殴って隙ができたから、ここに来たが?」


「それじゃあ、まさに今この時をーーー」


 青年は無意識に話を中断して、視線をずらす。なぜなら、対峙するスカーレットの背中に向かって無数の赤い線が円状に飛びかかってきたからだ。


「離れろっ!!」


 青年はスカーレットの右手を掴んで、横へ投げ飛ばす。そして青年自身は逆方向に飛ぶことで、赤い線を回避した。赤い線を射出していた吸血鬼イフォリンは、明らかに様子がおかしい。


「なに殴り逃げしてんだこのアバズレ女ぁ!! 吸血鬼を舐めてると痛い目見るぞゴラァッ!!」


 そう、完全にブチギレていた。


「厄介な女だな」


 体勢を整えて着地したスカーレットは呆れた様子で感情を吐露する。


「‥‥‥鏡見て言ってみ?」


 男も呆れた様子で話しかけると、なぜかスカーレットは目を見開いた後、手を差し出す。


「なんだ結局『鏡越しの記憶(それ)』くれるのか?ならもっと早くに渡してくれ」


「いやそういう意味じゃねえよ!!? ほんと自分の事しか頭にねえのな!!」


 そこから言い合いに発展した2人はもはや、吸血鬼の話など微塵も聞いてない。


「‥‥‥このイフォリン、沸点が臨界点を超えた」


 イフォリンは一瞬だけ微笑んだ。いや、それはただの錯覚かもしれない。


「おまえらは殺し尽くすッッッ!!!!」


 文字通り、頭に血が昇って軽く噴き出していた。


「おい嬢ちゃん。あいつ血が噴き出てるぞ」


「吸血鬼は怒ると血が噴き出るのか。面白いな、私には出来ない芸当だ」


「ーーー死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 完全に話を無視されたあげくに煽られ、怒髪天のイフォリンは今までの中で最大数の赤い線を射出する。

 円状に囲い込むように広がった赤い線を見た男は、軽く息を吐きながら話しかける。


「なんかよく分からんがあんたのせいでブチギレてるぞあの吸血鬼‥‥‥」


「私に責任を押し付けるな。そもそもあれを無視してきたのも君が賞品を盗み出したからだ」


 こんな小競り合いをしている間にも、2人を囲んだ赤い線はにじり寄るように近付いている。


「‥‥‥んじゃ、こうしないか?」


「おい、話の論点をすり替えたな?」


「あの吸血鬼を倒した方が()()の持ち主ってことで」


 自分の話をゴリ押した男が優勝賞品の『鏡越しの記憶(ミラーメモリー)』を軽く振る。これ以上は何か言っても無駄だと悟ったのか、スカーレットは渋々受け入れる。


「‥‥‥じゃあ、それでいい。その話に乗った。私はスカーレット。君の名前は?」


「‥‥‥ナマエ」


「馬鹿にしているのか? さっさと言え」


 スカーレットが目を細めて圧をかけると、男はやれやれと言わんばかりに口を開いた。


「‥‥‥ジャックだ」


 男の態度からして、これ以上嘘を言っている可能性は少ないとスカーレットは感じた。


「というわけだ実況系吸血鬼。頼むからこの男ではなく、私に倒されてくれよ?」


「ーーーは????」


 イフォリンは頭からの出血を強め、目が飛び出そうなくらい見開いている。スカーレットの言葉の意味を理解するのに時間がかかったのだ。


「ーーー楽に死ねると思うなァァァァァ!!!」


 そして理解した瞬間、イフォリンはこれまでの怒りを遥かに飛び越え、2人を囲っていた無数の赤い線を動かす。

 2人に対し、赤い線が全方位から襲いかかる。もはや線同士の隙間へ回避するほどの広さすらない。


「最初はサービスしてやるよ」


 そう言ったジャックは、スカーレットの腕を掴んで引き寄せる。当然、赤い線は集中的に1箇所へ襲いかかるようになる。その直後、幾度にも響く鈍い音。

 その音を聞いたイフォリンは2人の命は既に無いと確信し、鼻で笑う。


「ーーー!?」


 だが、イフォリンはすぐに違和感に気づく。2人がいたはずの場所から、血が微塵も見えない。もし命中したなら、大量出血は避けられないはず。

 そう感じたイフォリンが赤い線を再度押し込もうとすると、今の状況をようやく理解した。


「は!?」


 2人を中心に、半径数センチほど離れた地点で赤い線が押し留まっているのだ。それも、全方位から攻撃した赤い線が。


「なに驚いてんだ吸血鬼さん。魔力ってのは使い方が山ほどあるんだ。これで確信した。あんたじゃ無理だ。俺に傷一つ付けられないぜ」


 ジャックが話す間にもイフォリンは赤い線の出力を上げるが、押し留められた地点から微塵も進まない。


「そう慌てんなって。なんらかの攻撃が当たる時って、無抵抗な空間を突き破って相手との距離を詰めてるわけだろ? だったらその空間に抵抗を与えたらどうなる? そう、今あんたが見てる光景になるわけだ」


 ジャックは赤い線を指差しながら意地悪い笑みを浮かべる。


「そ、そんなことーーー!」


「わあってるって。こう言いたいんだろ? 普通は自分に攻撃が当たるまでの時間稼ぎにしかならないはず。全方位からの攻撃を押し留めてるのはおかしいって」


 ジャックの言葉に、吸血鬼イフォリンは無言を貫く。するとジャックは煽るように聞き返した。


「あ、図星か? ああそうだよ、おかしいよ? でもそんな事を可能にするのが魔力であり、魔法だろうが。はい、説明終わり」


「‥‥‥なかなか意味不明なこと言ってるな」


 そして隣のスカーレットが呆れた様子で呟いた事で、ジャックはますます好戦的に笑う。


「とんでも理論だからこそ他の奴には理解出来ないし、真似することも出来ない」


 ジャックは意気揚々と包帯の巻かれた左手を前に出す。


「これが俺の固有魔法『虚構フィクション』だ。俺以外の奴からしたら実在し得ない、まるで作り話みたいだろ?」


「なかなかの皮肉を込めているな」


 スカーレットが目を細めて反応すると、ジャックは意地の悪い笑みを浮かべた。


「名付けたのは俺じゃないけどな。まあこれがなかなか便利でね。今みたいな防御にも使えるし、応用するとーーー」


 そう呟いたジャックが右手の人差し指を横に振った瞬間。


「ーーーガっ!?」


 突然イフォリンが呻き声を出して吹き飛ぶ。ジャックの『虚構』によって、空間に抵抗が生まれたのだ。 イフォリンがその場から離れたことで赤い線は効力を失い、形の戻った血が地面に飛散した。


「こうやって攻撃にも使えるわけ。俺が『虚構これ』を制御出来る範囲内ならどこからでも、制限なくな。なあ嬢ちゃん。これを見てからでも、俺を倒すって本気で言えるのか?」


 つまり攻撃性能と防御性能、両方とも規格外。生半可な攻撃は当てることすら敵わず、攻撃を回避するのも至難の業。それはまさしく空間の支配者。


「‥‥‥はは、最高じゃないか。強ければ強いほど、倒し甲斐があるんだよ」


 だがスカーレットは笑っていた。自分が戦闘狂であることを自覚しているかのような、狂気的な笑みを浮かべて。


「○×△□☆〜〜!!!!」


 距離を詰めてくるイフォリンが何かを言い散らしているが、2人は全く聞いていない。


「‥‥‥ふっ、あんた良い性格してるぜ。でもな、あの吸血鬼を倒すのは俺だ」


 ジャックが挑発するように宣言すると、スカーレットは構えを取る。


「いいや私だ!!」


 そして狂気的な笑みのまま、イフォリンに突進していくのだった。

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