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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
9章 交流戦代表選抜試験

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軋轢

 同盟国交流戦に向けた、1年の代表選抜試験から丸2日が経過。時刻は昼ごろ、グロッサ王立学園の医務室。


「心配なのは私にも痛いほど分かります。ですが‥‥‥流石に少しは寝てください」


 第二王女ユリア・グロッサは、立ち尽くす自分の前に座り込む女性に話しかける。その女性は長い黒髪の一部がベッドに垂れている事なんて気にも留めず、ユリアの声にも反応しない。


「このままだとマリアさんまで‥‥‥アイトくんはそんなこと、決して望んでいないはずです」


「‥‥‥うるさい」


 マリア・ディスローグは口を歪めて小声で呟く。いつも凛として大人らしい彼女とは雰囲気が全く異なる。


「ま、マリアさ」


「ーーーうるさいのよっ!!!」


 マリアの怒声が室内に響き渡る。ユリアは肩を振るわせて怯える。だがマリアの言葉は止まらない。


「私にも痛いほど分かるですって!? 家族でもないのに何が分かるって言うの!? 私に何か言う前にあなたの兄に何か言ったらどうなの!?」


「ま、マリアさんっ‥‥‥」


「治癒してくれたことには感謝してる‥‥‥でも、今は離れてほしいの」


 さっきとは一転、マリアの声はか細いものだった。そして彼女の言葉は、ユリアに鋭く突き刺さる。


「‥‥‥すみません。本当に、すみませんっ‥‥‥!!」


 ユリアは目から涙が溢れ、嗚咽が出る前に扉を開けて走り去っていった。マリアは少し罪悪感で眉を顰めるも、自分は悪くないと必死に念じる。


「‥‥‥(あたふた)」


 すると廊下でちょうどすれ違ったシロア・クロートがあたふたしながら見届ける。そして少し暗い気分になりながら医務室の中へと入って来た。


「‥‥‥ごめんね、シロア。あなたも辛いはずなのに」


「‥‥‥(ぶんぶん)」


 振り向いたマリアが自虐気味に笑いながら呟くと、シロアは必死に首を横に振って駆け寄る。シロアはマリアの隣に腰を下ろし、ベッドに横たわる少年を見つめた。


「でもね‥‥‥この子が傷つけられたことを簡単に許すわけにはいかないの」


「‥‥‥」


 シロアは無言のまま、ただ見つめていた。彼女自身も、確かな怒りと迷いを感じていた。


「おねがいだから、早く目覚めてよ‥‥‥アイトっ」


「‥‥‥(ぎゅ〜)」


 2人に見守られているアイト・ディスローグは、今も昏睡状態にある。


 ◆◇◆◇


 時は少し遡る。


 アイトが凶弾によって倒れた数時間後に、選抜試験組は帰還した。


(遅いわね‥‥‥ルーク先輩とエルリカさんがいるなら、大丈夫だと思うんだけど)


 マリアは学園の校門付近で待っていた。そしてその数分後。帰って来た試験組の皆を出迎えた。


「みんなお疲れさま! よく無事、に‥‥‥」


 マリアは言葉に詰まる。だが1年生たちの表情が暗く、ルークとエルリカもどこか不穏な空気を纏っていた。その中でも特に目に留まったのが、ジェイクが背中に背負っている()だった。


「アイト、どうしたの‥‥‥?」


 マリアは無意識にジェイクの元へ駆け寄り、彼の背中に背負われている弟に話しかけていた。だが、返事はなく脱力した状態で目を瞑っている。


「マリアさん、これは‥‥‥」


 マリアの行動を見た1年生たち、特にユリアが苦しそうに息を吐いて目を逸らす。


「マリア‥‥‥彼のことも含めて話があるわ。正直、私も色々と聞き出さなきゃいけないから」


 するとエルリカは話を切り出し、ひたすらルークを見つめて唇を噛んでいた。その時点で、マリアは嫌な予感がしていた。そして、その予感は正しかった。



「アイトくんを天帝レスタと疑い、剣で攻撃した。だが彼は否定を続け、最終的には謎の組織『エルジュ』の構成員と思しき人間に銃で撃ち抜かれた」


 数刻後、学園の生徒会室。中にいるのはマリア、エルリカ、ルークの3人のみ。

 そこで話されたルークの言葉を、マリアは全く理解できなかった。いや、理解したくなかった。


「は‥‥‥? アイトを、あのレスタと疑った‥‥‥? 白状しないから、痛めつけたってことですか?」


 信じられないと言わんばかりに声を漏らすマリアの表情を、エルリカは注視できなかった。だが、ルークはしっかりと目を合わせて答える。


「ああ。彼がレスタだと思ったから、追い詰めた」


 ルークはただ事実を報告するかのように抑揚のない声で話す。マリアはわなわなと口を震わせ、壊れたように不自然な笑みを浮かべる。


「アイトを、意識が無くなるほど痛め付けた? 疑ってたことを私に何も話しもせずに???」


 すると、鈍い音と共にルークは壁に叩き付けられる。怒り狂ったマリアがルークの胸ぐらを掴みかかったからだ。


「この鬼畜男がぁぁッ!!!?」


「マリア落ち着いて!?」


 激昂する彼女を、エルリカは必死で抑えようとする。だが怒髪天のマリアは全く抑えられない。


「がぁッ!!!」


 理性を失った声を出してエルリカを払いのけ、ルークの首に両手を絡ませる。


「ねえ何か証拠はあったの!? アイトが悪党だって根拠は!? 否定したから痛めつけたってことは、碌な確証も無かったんじゃないのっ!!!!」


 まるで絞殺しかねないような迫力で掴みかかるマリアに対し、ルークは息苦しそうに声を出した。


「‥‥‥あぁ、無かったよ。だから彼の仲間である少女を人質に、自白させようとした。少しは動揺したけど、彼は決定的なボロは出さなかった。だから」


「ーーーだから剣で痛めつけたっていうの!? アイトが違う可能性も充分にあるのにッ!!!?」


 彼の言葉はマリアをますます憤慨させた。弟が理不尽な暴力に遭ったと感じ、怒りを抑えられない。ルークは首を揺さぶられたことで、唇を噛んで血を流す。


「っ‥‥‥そうだ。でも僕はあの時の彼を見て直感的に確信したんだ。彼がレスタだと」


「そんな感情的な根拠も無い理由で私が納得できると思うっ!!!?」


 マリアは目が飛び出そうなほど見開きながら、至近距離で大声を吐きまくる。まるで獰猛な獣。


「ねぇ私と同じ立場になれば分かる!? 怪しいと思うステラかユリアに斬りかかってもいい!!? だったら今すぐにでも確かめてーーー」


 そう言い放ったマリアは、一瞬だけ沸騰していた血が冷める。頬に痛みを感じ、僅かに怯んだからだ。


「今の発言は冗談でもやめなさいッ!!!」


 右手を振り払ったエルリカが本気で怒っている。彼女のビンタが、マリアの頭に空白を作った。それを隙と見なしたのか、エルリカは言葉を続ける。


「あなたがそんな事をしても意味はないわ。ただお互いに不利益を被り、更に亀裂が深まるだけよ」


「‥‥‥分かってますよっ!!! でもそんなこと言ったらルーク隊長を許さなきゃいけなくなるでしょうがっ!!!」


 マリアは涙を目に溜めながら苦しそうに叫んだ。自分に説教するエルリカを睨み、吼える。


「家族を傷つけられてっ、なぁなぁで許すなんて絶対にできないっ‥‥‥そもそも悪いのは誰ですか!? 言わなくても分かりますよねっ!!!?」


 マリアはわざと名前を出さずに問いかけると、エルリカはしばしば頷いて呟いた。


「‥‥‥もちろん、ルークよ」


「だったら言い訳並べる前に、まず謝るのが常識でしょ!? それなのにこの人は今も『自分は悪くない』と言わんばかりに何も言わない!!!」


 マリアはキッと睨みながら、ルークの首に掛けている両手に力を込める。ルークは眉一つ動かさず、僅かに息を零した。


「‥‥‥悪いとは思ってる。でも、僕が謝るのは彼がレスタではないと完全な確証を得てからだ。それまでは、簡単に頭を下げる事はできない」


「はぁ!!?」


 マリアは何を言ってるか分からないと声を荒げる。ルークは理由を伝えるべく、言葉を続けた。


「僕が謝った後に、もし彼がレスタだとすればどうする? 王族の僕が指名手配犯に謝ったことが知られれば、国民からの信頼は地に落ちる」


「何が信頼よっ!!! もう私が何も信頼できなくなるわ!! 現場に居合わせた1年生たちも同じよ!!」


「‥‥‥ねえマリア、納得はできないのは重々わかってる。でも、私はルークの言う通りだと思う」


 声を荒げるマリアを嗜めるように話しかけたのはエルリカだった。マリアが目を見開いて震えているが、話を続ける。


「国を統治する役目を担う王族は、尊厳が命。もしアイトくんが悪党だったとしたら、彼に謝ったという事実が枷として永久に残り、歴史ある国の行方に影響を及ぼしかねないの」


「っ、だったら!! なんでこんなことをしたんですかっ!!? アイトがレスタなんてことはあり得ないですけど、万が一そうだったとしたら捕まえるだけで良かったのではっ!!?」


 マリアが不服そうに声を荒げて反論すると、エルリカは目を瞑って首を横に振る。


「王国内で暗躍する謎の集団のトップなのよ? しかも勇者の末裔すら従えるほどの実力者。無傷で簡単に捕まえることなんてできる?」


「それはっ」


「下手すれば返り討ちに遭いかねない。でも野放しにもできない。だからルークは自分で怪しいと思ったアイトくんを攻めた。千載一遇の好機かもしれないから、少し強引な手に出たのよ‥‥‥国のためにね」


 エルリカは諭すように話しを続けた。ルークは少し顔を下げ、「そこまで殊勝なことでもないさ」と自虐気味に呟く。そしてエルリカは、少し酷なことを呟く。


「それにね‥‥‥傷つけられたのがアイトくんじゃなくて知らない人だったら、怒ってないでしょ?」


 その言葉は、マリアの堪忍袋の尾が切るには充分すぎた。


「っ、そんなこと言ったら‥‥‥!!! まるでアイトの自業自得みたいに聞こえるんですがっ!!?」


「そこまでは言わないわ。でも‥‥‥疑われるような言動や素振りをしていた彼にも、原因はあると思う」


「ーーーそんな屁理屈‥‥‥」


 マリアは両手をルークから離し、凄まじい眼圧でエルリカに迫る。もはやマリアにとって、今視界に映る2人は完全に『敵』だった。

 だからこそ、不意に割り込んできた存在に動揺した。


「ゔっ!?」


 エルリカが、何かに弾かれたように頭を揺らす。その直後、何かが床に着地する音が響く。


「‥‥‥(ふんすっ!!)」


 それはシロア・クロートだった。時空魔法で転移してきた彼女が、エルリカの頬を叩いたのだ。


「しろ、あ‥‥‥?」


 マリアが目を見開いて驚く間にも、シロアは行動を続ける。次の瞬間には姿を消し、ルークの目前に跳躍していた。


「っ、づぅ」


 直後、ルークも同様に叩く。怯んだ彼の目前で着地したシロアは、「すぅ〜」と息を吸う。


「‥‥‥みんな、頭を冷やしてくださいっ」


 そして、3人に向かって声を振り絞ったのだ。アイト以外には声を出して会話することが出来なかった人見知りのシロアが。


「シロアが、声を‥‥‥!」


「うそ‥‥‥」


「これはっ、さすがに驚かされたね」


 それをよく知ってるマリア、エルリカ、ルークがそれぞれ驚きで声を漏らすほどだった。


「‥‥‥感情的になりすぎですっ。少し状況を整理する時間をっ、取った方がいいと思いますっ」


 シロアは必死に小さい声を出していた。気持ちを伝えるのが苦手な彼女が、自分を奮い立たせて話している。


「‥‥‥それにっ。アイくんが目覚めてからでも遅くはないと思いますっ」


 シロアは緊張で息を乱しながら肩を上下させた。彼女が発言した後、少し静寂が訪れる。


「ありがとう‥‥‥シロア」


 そんな中、真っ先に声を出したのはマリアだった。シロアの頭を撫でながら、深呼吸して2人に話しかける。


「ーーールーク先輩、エルリカさん。話の続きはアイトが目覚めてから伺います。いいですか?」


「‥‥‥ええ、私はいいわ」


「僕もそれでいい」


 エルリカとルークは、特に反対しなかった。2人の様子を見て頷いたマリアが、生徒会室の外へ出ようと歩き出す。


「それとアイトが目覚めるまでは‥‥‥絶対に医務室へ近づかないでください」


 そして、2人に失礼とも言うべき言葉を呟く。まるで、2人を信用していないような言葉を。


「マリアっ! その口ぶりはーーー」


「それでいい。少しでも落ち着いていられるならね」


 嗜めようとするエルリカを止め、ルークは了承の言葉を返す。


「‥‥‥私はこれで失礼します」


 マリアは振り向きもせず扉に手をかけ、廊下へ出ていく。


「‥‥‥(ぺこっ)」


 そしてシロアも、彼女の後について行く。ルークとエルリカ、マリアとシロア。


 王国最強部隊『ルーライト』の彼らは、確かな軋轢を生んだのだった。

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