ソーセージ屋の息子は、学生でもある
「ハムー」
「ん?ポメラか。」
俺は玄関の扉を開ける。そこには、通学鞄を持ったポメラが立っていた。
「なんだよポメラ、夏休みだっていうのに、学校に行くのか?」
「あんた、まさか忘れたの?今日は登校日よ。」
「まじか。」
「本当に忘れていたのね。・・・まさか、宿題もやってないわけ?登校日に提出するやつもあるわよ。」
「・・・お、俺の夏休みの課題は、魔王を倒すことだから!」
「それで通ると良いわね。とにかく、行きましょう。宿題はやってないわ、遅刻はするわじゃ示しがつかないでしょうし。」
「そうだな。」
俺は空の通学カバンを持って、外に出た。
昼。無事学校を終えた俺たちは、昼飯を食いに商店街に着ていた。今日は、そこそこうまくて安いスパゲティ屋に来た。
「よかったじゃない、特別課題で済むなんて。」
「よくねーよ。自伝を書けなんて課題、学生に出すか普通?」
「仕方ないわよ。あんた、普通じゃないんだから。先生もあんたに合わせて普通じゃない課題を出したのよ。」
「俺は普通のソーセージ屋の息子だよ。借金まみれで、勇者もやってる学生ってのが付くけど。」
「そう、その時点で普通じゃないの。なのに、あんたときたら聖剣を奪われて、その代わりにソーセージで魔王に挑もうとしているんだもの。普通をなめてるでしょ?」
「・・・あぁ、わかったよ!俺は普通じゃねーよ。はいはい。自伝書けばいいんだろ。」
「その前に、魔王倒しに行った方がいいんじゃない?夏休みも半分終わっちゃったし。夏休み過ぎたら、出席日数が削れていくわよ。」
「公欠になんねーかな。てか、魔王倒しに行くってのに、厳しすぎじゃないか!?」
「この町は剣の腕より、頭が重要視されるからね。それに、例外をつくるのは良くないって、聞いたわ。頑張るしかないわね。ま、もし駄目だったとしても、もう一年頑張ればいいじゃない。」
「いやいやいや。その金がねーんだよ。忘れたのか、俺の家は借金まみれだぞ。俺を余分に学校に通わせる金なんてねーよ。」
「じゃ、頑張ることね。」
他人事のように言うポメラを睨みつけて、文句を言う。
「他人事?何言ってんのよあんた。」
「いや、だってお前には関係ないし、お前はただ普通に宿題やるだけだよな。」
「確かに、私に出されたのは普通の宿題だったわ。でも、他人事ってどういうこと?私、あんたについていくんだけど。」
「は?」
「私の夏休みの自由課題は、魔王をテーマにしてるの。だから行くわよ。」
「意味が分からないんだが。魔王をテーマにってなんだ?」
「そこはふわっとした感じで。魔王のプロフィールでも作ろうかと思って。」
「は?」
「とにかく、私も行くから他人事ではないわ。それに・・・借金とかも・・・」
「いやいやいや。それは他人事だろ。お前には関係のないことだし。いくら友達だからって・・・いや、友達だからこそ、借金なんかと関わらせるわけねーだろ。」
「・・・ハム、関係ないとか言うけどね、関係あるのよ。友達だからといったわね。そう、私たちは熱い友情に結ばれた友達だわ。」
あれ、そこまでの友情があった覚えがないぞ?
「でも、私たちはまだ学生という身分で、親の庇護下にある存在。つまり、親には逆らえないというわけよ。・・・夏休みまでなのよ。」
「?」
「ハム、借金を完済して、夏休みが終わる前に。でないと私たち、離れ離れになるわ。」
「・・・別にいいんじゃないか?」
「え?」
「離れ離れになって、何か問題あぐふぉっ!?」
唐突に腹を殴られて、俺はうずくまった。
「最低っ!」
「ポメラ?」
「もう、あんたなんて知らないわ!このソーセージ男が!」
「ま、待てっ!俺はソーセージ屋の息子だが、ソーセージではないぞ!?」
ポメラは俺の話も聞かず走り去っていった。
「待ってくれー!まじで待ってくれッ!ポメラ!」
慌てて追いかける俺の肩をがっしり掴む者がいた。振り返れば予想通りの人物で、冷や汗が流れる。もちろん、俺の肩を掴んだのは、この店のマッチョ店長だ。スパゲティで鍛えたマッスルボディをいつも自慢する変態だ。
「ハムくん?」
「はい。」
「わかるよね?」
「はい。すみません、俺一文無しです。」
「わかるよね?」
「すみません。まじで何もないんです!」
「あるよね?」
「本当に!何も!ないです!聖剣すらありませんからっ!?」
「あるじゃないか。立派な体が。」
「・・・皿洗いでいいですか?」
「今回だけだからね?」
「はい。本当にすみません。ありがとうございます。」
とっくに日が暮れて、辺りは真っ暗だった。
俺は急いである場所へと向かう。それは、公園だ。
真っ暗な公園に人影はなく、あ、一人くらいはいたわ。散歩かな?
俺はまっすぐ目的地へと走った。それは一本の大きな木だ。この木に登れば、いつも俺の好きな景色が待っているが、さすがにこの時間ではその景色も見れないだろう。
「ポメラっ!」
「・・・」
上を見ても、暗くて様子が分からない。でも、きっとここにいるはずだと思った。喧嘩をした後は、いつもあいつはここにいたから。
「さっきは悪かった。勘違いさせるようなことを言って。別に、お前と離れてもいいと思って言った訳じゃない。ただ、今子供だからと言って離れたとしても、大人になってまた会えばいいだろって・・・1年や2年離れたくらいで、俺たちの友情は変わらねー・・・だろ?」
「・・・」
「ポメラ・・・何か言ってくれよ。」
「どこ見て言ってんのよ。」
「え?」
木の上から聞けてくるだろうと思った声は、すぐ後ろから聞こえてきた。
「もう、馬鹿なんだから。こんなに暗くなってるのに、いつまでも木の上にいるわけないでしょ。」
「それもそうだな。ははっ。」
俺たちはしばらく見つめ合った。そして、照れ臭くなって、俺は視線を外す。
「借金返しなさいよ。私たちの友情は、変わっちゃうから。」
「ひどいな。俺だけかよ、信じていたのは。」
「勝手に信じている方が馬鹿なのよ。ふんっ。もう遅いわ、帰りましょう。もちろん、送ってくれるでしょう?」
「仕方がないな。」
生意気にも大人っぽく笑ったポメラに手を差し出して、俺は苦笑した。




