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プロクラトル  作者: たくち
砂の世界
30/205

行方不明

「何やってんのよ!あのバカは!」


 燃えるような赤い髪の女性、ユナが大声で叫ぶ。

 その声に同じテント内にいた赤姫のメンバーが一斉に静かになりその叫びの原因となった人物に目を向ける。


「ホントなの?ウソだったら承知しないわよ!」


 報告に来たリリアナを睨みつけユナは問い詰める。


「いえ、まだ確定した訳ではありません。シン様の遺体は見つかっていないので行方が分からないだけです」


 リーグ達初戦を任された部隊は敵の部隊を見事に撃ち倒した。

 巧みな連携で皇国軍を混乱させ、念の為出撃させた赤姫のメンバー、アーニャ、アリサの後方支援と”暴君”アニーがトドメを刺した。


 リーグ達により混乱させられた皇国軍に”暴君”アニーがさらなる混乱を巻き起こす。

 異名通り暴力で支配するアニーの作った隙にアーニャ、アリサの正確な弓矢が皇国軍の指揮官を射抜き敵を撤退させた 。


 味方の被害も少なくまさに完勝といえる勝利に連合軍は歓喜した。

 長らく先手を取られ続けた皇国軍に初めて一矢報いる事が出来たからだ。


 連合軍が有利なのはわかっていたが、それが事実となると兵隊は互いに抱き合い勝利の雄叫びを上げる。まだ初戦だが完璧に先手を取った事が連合軍にさらなる士気をもたらした。


 夜襲を警戒し見回りの部隊を多数出し戦いに備えていたが、リーグ達の部隊は陣地に戻るなり肩を叩かれ続け質素で地味なはずの食事は美味しく感じられた。


 だが、同じく喜び会議に参加していたリリアナ達に一つの伝令が告げられる。


【黒髪で黒い長衣を来た青年が皇国軍との交戦のあと姿が見えなくなった】


 開戦から姿の見えないシンの行方が気になったユナとリリアナは捜索の為、捜索隊を出していた。

 本当の目的は敵の動向を知る為の諜報だったのだがユナが心配していた為黒髪の青年の姿も確認するよう指示していたのだ。


 主戦力であるユナが他の事に気を取られるのも嫌であるので、その心配を打ち消す為捜索隊に命令した、だがそれが裏目に出てしまった。


 黒髪の青年の行方不明の一報を聞いたユナは今にも陣地を飛び出そうとしているがクレア達がなんとか抑えている。


「離しなさい!団長命令よ!」


「そんな命令は聞けません!」


 ユナを取り押さえる為5人で抑え込んでいるクレア達だがユナは落ち着かず未だジタバタしていた。

 だが、ユナを落ち着かせる為一つの通信が入る。


「私がシン君を探す、私なら自由に動ける」


 副長のナナが通信で伝えてきた。彼女は作戦通り皇国の補給線を潰しそこで食事を取っていた。モグモグと食べながら通信していた。


 確かにナナならば遊撃であり、自由に行動出来るそれにシンの顔もわかる。

 たまたま同じ格好の青年がいただけかもしれないが、兵士は鎧を統一させている。それに戦地に一般人が立ち入る事はない。


「団長命令よ、必ず見つけなさい」


 ナナならば実力も自分に近いので敵に倒される事もない、ユナはひとまず落ち着きを取り戻す。


「団長、そこまで想っているのならシン様が見つかりこの戦争に勝利したなら付いて行っても良いのですよ?」


 シンの事で取り乱すユナにクレアは言う、もう明らさまな事なので団員達の前では隠さない。

 他の団員もユナに同じような事を言っていた。


「うるさい!」


 再度ユナが一喝しその場は収まる、だがユナの気持ちはまだ収まっていなかった。


(何よ!あのバカ!私を守る何て言いながらどこ行ったのよ!)


 布団に入りうつ伏せでポカポカと枕を叩きながら文句を言うユナ。


 戦争は連合軍の勝利で幕を開ける。


*******


「昨日は勝利しましたが、風帝隊は現れていません。昨日の敗戦で皇国は慎重になるはずです。守りが堅くなるのが予想されるのでこちらも無理に攻め入りません。まだ戦争は始まったばかりですが、こちらにはナナさんがいます。皇国軍の補給線を断ち士気を削ぎ落とします。長期戦になればなるほど連合軍は優勢になります」


 通信用魔導具にて各陣地に連絡を入れる。

 王国はその豊かな財政でこの戦争の為高価な通信用魔導具を取り揃え各陣地との連携をスムーズに行っていた。


 これにより諜報も速やかに連絡出来る為皇国軍の動向も掴みやすくなっている。

 一定時間で連絡を入れる事を徹底している為、もし連絡が途切れても何が起こったかはすぐにリリアナにはわかる。


 ナナは既に皇国軍の補給線を5分の1ほど壊滅させていた。

 恐るべき速度で敵を殲滅するナナだったが、彼女も友達のシンが行方不明と聞き戦場を駆け巡っていた。


 だが、皇国軍はリリアナの予想と違う行動に出た。

 そう慎重になるどころか兵を進軍させてきたのだ。そこには風帝隊のメンバーも含まれていた。


「赤姫の皆様は出撃を、ドナート将軍の隊に援軍に向かって下さい!」


 ユナは赤姫5人を引き連れ戦場へと向かう。

 やはりシンの事が気になりジッとはしてられなかった。


 そして戦場に辿り着くなり、その圧倒的な力で皇国軍に襲い掛かる。すぐさま風帝隊を一撃で葬る。

 皇国軍に包囲されたユナだったが真紅の刀は斬れ味が落ちる事を知らない。

 連れて来た赤姫達と共に戦場を蹂躙する。逃げ出す皇国軍にも容赦はしない、追い討ちをかけさらに死体の数を増やす。


 だが、そんなユナから逃走する生き残った風帝隊の1人が大声を出す。


「おい、あの黒髪が現れたらしい、場所はここから遠いが西の山岳地帯だ!」


 それはユナに言った言葉ではない、通信を受けたらしい風帝隊の1人が残りにの風帝隊に向け放った言葉だ。


 だが、その言葉をユナは聞いてしまう。一緒に来ていた他の仲間の制止を振り切り走り出す。

 初めて好きだと想った青年を助け出す為。


「ユナさんが戦場を離脱しました、作戦を変更します」


 ユナの離脱を知ったリリアナは作戦の変更を余儀なくされる。

 これまではニグルの出現に備えユナを待機させていたが、彼女の動向がわからなくなった以上仕方がない。


「クレアさんには中央を抑えていただきます。風帝隊の存在が確認出来ました、これを殲滅して下さい」


 リリアナの言葉にクレア頷き出撃する、数人の赤姫を引き連れ戦場へと向かう。


「残った赤姫の方々は各陣地に援軍として向かって下さい」


 攻勢に出てきた皇国軍に対抗する為赤姫を導入する。

 皇国軍はナナの与えた補給線へのダメージから長期戦は無理と踏んで短期決戦に出て来たのだ。


 焦りから素早く補給線を潰したナナの行動で敵の総大将は決断したのだ。


「リーグ将軍、中央の敵の背後に回り攻撃を、クレアさん達と挟み討ちの形を作って下さい」


 的確に指示を送るリリアナ、小さな手を固く握り締め負けられない戦いに挑む。


「あと少し、あと少し」


 誰にも聞こえない小さな声でリリアナが呟く、この戦争を描いた図面は彼女しかわからない。


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