開戦
1か月の準備期間が終了し、ラピス王国・ウェンズ共和国連合軍はグラータル荒野の北側へと陣取っていた。
ラピス王国軍5万とウェンズ共和国軍1万と3万の傭兵団が整列をし総大将リリアナの言葉を待つ。
音声拡大の魔導具を手にしたリリアナがお立ち台に登り全軍の前に立つ。
ここにいる9万の命がリリアナが握っている、そう思うとリリアナの体が強張ってしまう、だがリリアナは深呼吸をし声を張る
「こっこれまでこの砂の世界デゼルトはミリス皇国が中心となり、その他の国は苦汁をのまされてきました。ですがその苦しみから解放される時が訪れました。かの偉大な皇帝は死に我々に立ちはだかった守帝はいなくなった、今の皇国にかつての力はありません!今こそ長年の屈辱を晴らす時!ラピス王国、そしてウェンズ共和国の平和の為この世界の覇権を手に入れるのです!この戦いに勝利する為私の力となって下さい!」
荒野に轟音が響き渡る、初め声が裏返ってしまい恥ずかしくなってしまうリリアナだが、その容姿ゆえ逆にこの総大将を守る為9万人の男達は自らを奮い立たせる。
その雄叫びは荒野に響き敵国に威圧を与えていた。
「見事な演説です、これほどの士気の高さは初めて感じます」
リリアナから魔導具を受け取りエルリックは言う。
彼はこのリリアナの守護を任され今まで以上に責任を感じていた。
「声が裏返ってしまいました、人の前に立つのはなかなか慣れないものです」
王族として生きてきたリリアナは何度も国民達の前に立った事はあるが、大勢の前に立つのは苦手としていた。
「いやそう言うでない、ワシではこうもいかない」
ウェンズ共和国国王デウメスは轟音を聞き、自身も血が滾るのを感じていた。
確かにここまでの士気の高さはリリアナでなくては出せなかったかもしれない。
「開戦までお休み下さい、リリアナ様」
心労を察しエルリックが言うが、リリアナが手で制し本陣に作った作戦会議室に向かう。
まだ始まってもいないのに疲れていては総大将は務まらない。
作戦会議室には将軍や隊長達、赤姫からはクレアが集まっている。
作戦の最終確認を行っている最中だ、リリアナが入ると話が止まったが続けてと言い席に座る。
「この士気です、やはり最初は攻勢に出ましょう」
席に着いたリリアナは予め話しておいた作戦のうち初めから攻勢に出る作戦を選択した。
「では先駆けとなるのはリーグ将軍の部隊でよろしいですな?」
「ええ、後続に共和国からの砂塵を中心にした部隊が向かいます。リーグ将軍、彼らと共闘し初戦を勝利して下さい」
リーグがうなづいた事を確認し、話を続けるリリアナ。
リーグと砂塵達であれば負ける事は考えられない。
「ナナさんは予定通り荒野を迂回して敵の補給線を襲撃して行って下さい」
ナナはその鼻の良さから食料の発見が得意だ。
それを利用し戦において重要な補給線の破壊をしてもらう、ナナとしても戦闘後すぐに敵の食料を食べ、デメリットの食事の多さをカバー出来る。
「やはり風帝隊の動向ですな」
将軍の1人が発言する、皇国の最大戦力の集団が連合軍にどう対応するか、これがこの戦争の勝敗を分けるだろう。
「彼らが守りに入るとは思えません、殲滅部隊の名の通りどこかを攻めるでしょう。彼らは人数が10名なので各地に分散するか纏まるかで対応を変えます」
事前の打ち合わせでは、分散した場合赤姫のメンバー2人以上で対応し、纏まった場合はクレアを中心に赤姫の団員を全て導入し一気に決着をつけるつもりだ。
「敵は本陣を隠すつもりはないようだ、偵察の報告ではバザの渓谷に布陣したとあった」
地図に駒を置き説明する、バザの渓谷はこのグラータル荒野の皇国側の領土にある。
だがどうやら完全には渓谷に入らず平地部分に布陣したようだ。
「背後からの奇襲は厳しいですね、少数なら可能ですが本陣の守りを崩すのは難しいでしょう」
皇国の本陣は大半が抜けたとはいえ守帝のメンバーが守る。
ユナぐらいの力がなくては本陣を攻め落とせない。
「やはり正面から叩きましょう、数では負けていますが、赤姫など個々の質の高さはこちらが上です」
皇国は11万の兵を導入している、だがこちらには1個人でありながら千の軍勢に匹敵する赤姫が17名存在する、同じぐらいの力の風帝隊は10名な為単純な駒の差は連合軍が勝っているだろう。
「では布陣を開始して下さい」
リリアナの号令で連合軍は動き出す、それぞれが負けられない戦いに向け足を進める。
赤姫のメンバーはクレアに従い本陣に残っている。
彼女達は各々軍用バイクを整備しリリアナの命令を待っている。
「エルリック」
リリアナの隣を歩くエルリックに赤姫の暴君アニーが話し掛ける。
彼女はすでに戦闘態勢だいつもの気の弱そうな彼女は嘘のようにギラギラと瞳を獰猛に輝かせている。
「お前はまだまだ甘ちゃんだ、だがそんなんで王女は守れない戦いを楽しめ、これは油断しろと言っているんじゃない、王女の盾となり守り抜いた時にお前の戦争は終わる。それを成し遂げる為鬼となり歓喜の瞬間を味わうんだ」
「はい、心得ました」
この1か月アニーに鍛えられ続けたエルリックは師匠と言うべき少女の言葉を胸に刻む。
王女の盾、それがこの戦争でのエルリックに与えられた使命であり親友シンの頼みでもある。
9万人の命を預かるリリアナを守護はエルリックにしか出来ないのだ。
「ところで、シンはどこにいるんです?」
リリアナそしてユナに問いかけるエルリック、そうこの戦争で1番中心に来るはずの青年の姿が見えないのだ。
「わかりません、ユナさんはご存じなくて?」
「私も知らないわ」
シンの事を1番心配してるはずの2人が行方を知らない。
そんな事態にエルリックや赤姫のメンバーも慌て始める。
「あいつなら大丈夫」
短くユナは言い切った、絶対の信頼を感じさせるユナの姿に全員落ち着きを取り戻す。
(ほんとどこ行ったのよ!)
信頼をしてるが、それでもやっぱりシンの事が心配なユナ。
自分を守るとか言っときながら放置されてる事に怒っているのだ。
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「さて、覚悟は出来たかい」
「ああ」
そんなユナ達の心配をよそにシンとノアは荒野の岩山の頂上にいた。
シンはノアの代行者としてミアリスの代行者に勝利し砂の証を手にする為、ノアはかつて封じられたミアリスに勝利し、全世界の神となる為、その第一歩となる砂の世界での最終決戦が始まろうとしている。
無の神ノアと無の代行者シンの伝説、未来永劫語られる事となる伝説の序章が幕を開ける。




