ユナの気持ち
共和国から帰還したリリアナ達を待っていたのは、同盟成立の報告を聞き開かれた宴であった。
長らく苦汁を飲まされてきた皇国に対し遂に攻勢に出れると王都中が歓喜に満ち溢れていた。
だが功労者であるシンとナナは素直に喜ぶ事が出来なかった。
王都に戻った際ナナの元に訪れたクレアから聞かされたユナの敗北とノエル死亡の報告が2人に重くのし掛かっていた。
(あのユナが負けるのか)
ユナの本気の戦闘は見た事がなかったが、その能力の高さは底が知れないと感じていたシンはその事実が受け止められなかった。
「序列4位の風帝ニグルか」
「ゆるさない」
ぽつりと呟いたシンの言葉に隣にいたナナが答える。
その言葉からニグルに対する思いがにじみ出ている。
「ああ」
それにシンも答える。
ノエルという女性の事は知らなかったが、ユナとナナには何度か助けられている。
その仲間が殺された事に普段のシンからは考えられない表情をしている。
「シン、そのニグルの事なんだが」
近くに来たエルリックがニグルについて話をした。
今までは皇国が優位にいたので参加して来なかったニグルに率いる風帝隊がこれからは参加するであろう事。
共和国との同盟で戦力の差はこちらが優位に立っているがこそ風帝隊には王国軍では太刀打ち出来ないであろう事。
そしてニグル本人はこの砂の世界で最強の存在でもありもしかしたらミリアスの代行者の可能性がある事。
「これは君に負担をかけてしまう事になるのだが」
そしてそのニグルにはシンが対応して欲しいと伝えてきた。
自分では勝てないと語るエルリックは無力さを嘆いていた。
彼も赤姫に恩を感じているのでニグルには敵対心をあらわにしている。
「わかった、俺に任せろ」
エルリックにはシンの実力がわからなかったがこの男しかいないと確信が何故か持てていた。
リリアナにも相談した所賛成の意見が出た。
共和国の一件以来リリアナのシンに対する信頼は不動のものとなっていた。
「あとはユナだな」
ユナは王都に戻ってから部屋に閉じこもってしまっていた。
ノエルを失った事がショックとなりまだ立ち直れていないのだ。
宴の主役の空気は重いまま、夜がふけていった。
*******
翌日レベッカの酒場に寝てしまっていたシンをレベッカが叩きおこす。
「ほら、朝だよ」
そう言いながら朝食を用意していたレベッカに感謝を言い食べる。
レベッカにはユナの事を昨日相談もしていたが「難しいね」とレベッカも答えが出せないでいた。
「あたしはユナちゃんの事が詳しくないからねまさかそこまで鬱ぎ込むとは思っていなかったよ。強いと言われているからみんな忘れちゃってるけどユナちゃんは女の子なんだ、期待も大きかったし辛いんだろう」
そう言ったレベッカだったがシンにはどうしたらいいのかわからなかった。
今まで生きてきてこういった経験はなくどう励ませばいいのかわからないのだ。
「あの子あんたには気を許していたからね、ちょっと会ってみたらどうだい?話すだけでも違うだろうから」
ユナに会う事を決めたシンだがどうしたものか考えていると
「ほら、あんたに来客だよ」
店の入り口に目を向けるとそこには銀色の髪をお団子状に纏めている女性が立っていた。
「シン殿でございますか?副長からこちらにいると聞き参りました。私は赤姫のクレアと申しますお話をさせて下さい」
するとレベッカがクレアを案内し店の奥に入っていく、気を利かせ離れてくれたのだ。
「すみません、お時間を割いて頂きありがとうございます」
クレアが来た理由はわかるが、ここは話を待つ事にする。頷き先を促す。
「本日はシン殿には、私達赤姫の団長ユナの事でお話をしに来ました」
予想通りユナの事であった。会う事は決めていたし丁度良かった。
「情けない話ですが私では団長を立ち直らせる事が出来ないようです。これまで何度も部屋を訪れているのですが」
あれ以来毎日ユナの様子を見に行き励ましていたクレアだったがユナを立ち直らせなかった。その手は固く握りられていた。
「副長からもあなたは信頼させている様子ですし団長も信頼していました。どうかお力を貸して頂けないでしょうか?」
頭を下げるクレア、もともと気の強いクレアは今まで頭を下げた事は赤姫への入隊を頼んだ時ぐらいしかなかった。だがそんなプライドなどどうでも良かった、元気なユナを取り戻すため彼女も必死なのだ。
「正直、俺にもどうしたらいいかわからない、こんな経験は無いからな。だけどそこまで頼まれたら断る訳にはいかない、ダメかもしれないがユナと話をする、場所を教えてくれないか?」
「ありがとうございます」
再度頭を下げたクレアは涙を流しシンに感謝を言っている。
*******
王都の高級宿屋の最上階でユナは椅子に座っていた。
王都に戻ってからというもの、ずっとこうしているクレア達団員が部屋を訪れてくれているが話す気になれなかった。
あの時の自分の行動への後悔がユナの気力を奪っていた。
このままではダメなのはわかっている。
こうしてる今も戦争の準備がされているはずだ、そしてそれには赤姫が参加する、守らなきゃいけない。
だが気力が湧いてこない、自分の分身でもあった愛剣は折られてしまった自分の力が無いせいだ。
強くなりたい、何度も思っている事だ。
自分がもっと強くなればみんな守る事が出来るそう思っているのだがユナにはわかっている事がある。
(私はこれ以上強くなれない)
自分の事だ、自分が1番わかる、もうユナの器はいっぱいなのだ。
これ以上力が入り込む事は出来ない。
それがわかっているためさらにやりきれない気持ちでいっぱいだ。
鬱ぎ込んでしまっていたユナの視界に何かが映り込む。
窓から部屋に入ってきたその人は黒い髪をしていた。
その人は普段からは考えられない真剣な表情をしている。
「よぉ、元気か?」
あの時はこの声を聞きたかった。
あの時はこの姿が見たかった。
あの時はまたこの人と一緒にいたかった。
だがあれほど逢いたかったはずのこの男には今は別の感情が浮かんでしまう。
「何で来るのよ」
つい文句を言ってしまう。
逢いたかったはずなのに、その声が聞きたかったのに。
「何でって言われてもな、お前が心配だから来たんだ」
「何で今頃来るのよ!何で!」
そんな事が言いたいんじゃない、そう思っているのになぜかユナの口は違う事を言ってしまう。
「あの時!あの時ナナじゃなくて私を連れてってくれたらこんな事にならなかったのよ!何で今更私のところに来るの!」
あの時、そうシンが共和国に旅立つ時だ。
その場にユナはいた、ユナを連れて行ってくれたらノエルは死ななかったかもしれない。
シンが悪くないのはわかってる。
自分の力が足りないからこんな事になっているのだから、そんな事わかっているのに。
「あんたのせいで!ノエルは!」
思ってもいない事が口から発せられる。
最低だ自分は最低の女だ、でも止められない。
「そうだな、俺のせいだ」
だがシンはそんな自分を責めない、俺のせいだと、そんな事はないのに。
「なら!何で私を連れてってくれなかったの?」
もう耐えられない、涙が溢れてくる、あれだけ泣いたのにまだ涙は枯れる事を知らない。
「私も、守ってよ」
そう言ってまた涙を流す、こんなところ見られたくない。
「ああ、俺が守ってやる」
こんな自分にシンはそう言ってくれる。
八つ当たりされてるのに、嫌な顔をせずただユナの事を見つめていた。
「うそよ、私なんか誰も守ってくれない」
自分は1番強かった、だからみんなついて来てくれたしみんなも守れた、けど違った。
手加減してる相手に無様に敗北し今生きているのだって相手の気まぐれだ。
負けた挙句部屋に引きこもり関係ないシンにまで八つ当たりしている。
そんな自分を守ってくれる人なんかいるはずがないそう思っている。
だがシンはそんなユナを見捨てない。
「関係ない、そんなユナを俺は守る、もう決めたんだユナが嫌がっても絶対やめてやらないからな」
信じられなかった。
こんな自分がそんな事を言われるはずがないなのにシンは続ける。
「ユナは背負い過ぎだ、みんな守ろうなんて誰も出来やしない、ユナだって人間なんだ。序列4位だろうが普通の女の子なんだ、だから俺はユナを守る。周りをもっとよく見ろ誰かユナを見捨ててるか?赤姫のやつらだってみんな今のユナを守ってるだろ」
「ユナは守られてもいいんだ。もっとこう、そうだな気楽に行け気楽に、なんとかなるもんだぞ?」
そう言って笑うシン、それを見るとなぜだか気持ちが晴れる気がした。
(そっか、そうなんだ、私シンが好きなんだ)
自分の気持ちに気が付いたユナはなんだか恥ずかしくなってしまう。
情けない姿を見られたしよく考えてみれば部屋の中で2人っきりだ。
こういう事は苦手だった、今まで異性の人とこんな状況になった事なんて1度もなかったのだ。
言葉が出ない、どうしたら良いのかわからなくなってしまったのだ。
顔が熱を帯びていくのがわかる、もう恥ずかしくて顔を見る事が出来ない。
うつむいてしまったユナを見てシンは考え込んでしまう。
(無理だったか?)
どうやらまた黙り込んでしまったユナを見てそう考えてしまう。
また出直そう、そう考え部屋を後にしようとするが
「待って、今日は一緒にいて」
このままシンが行ってしまったらもう会えないかもしれない、そう思ったユナはシンを呼び止める。
ユナに止められ部屋に留まる、しかしシンにもどうしたらいいかわからない。
「もう寝る」
そう言ってベットに倒れこむユナ、どうしたものか、暫く固まっていたシンだったが
「そばにいて、そんなに言うなら今日は私を守ってよ」
ベットの横に座りユナを見守る事にした。
雰囲気にのまれそうになるが、ここで手を出したらいけない、そんな気がした。
そっとユナが眠るのを待った。
眠るユナの顔は今までに会ったどんな女性よりも可愛らしく見えた。
眠ったのを確認したらそのままシンも眠りについてしまった。
朝その事に気が付きハッと顔を上げだシンの目に映ったのは、記憶にあるユナの元気な姿だった。
「ふう、時間を無駄にしちゃったわ!頑張んなきゃ!」
元気な声を出し、部屋から出るユナはとても嬉しそうだった。




