家族 3
八月頭のある日、神神飯店に出勤した俺は満面笑顔の玉爾さんに、風呂敷包みを渡された。中に入っていたのは……
「浴衣……」
「コレ、タイサクの分ね」
「えっ、これ俺の分っすか」
自分の分だという浴衣を手渡されて俺が首をひねっていると、
「気遣わないでいいよ。コレオンマの手作りだから」
とテンテンちゃんが付け加える。テンテンちゃんは既製品を買うほどけコストがかかってないと言いたいのだろうが、確かに既製品よりは安いのかもしれないが、生地代は絶対必要だし、何より玉爾さんの手間は何十倍もかかっている。ただのバイト学生にそこまでしてもらっていいものだろうか。それに、正直もらっても……
「浴衣なんて着るところないっすよ」
俺はつい口を滑らせて本音を言ってしまった。
「花火大会・祭り着るあるよ」
すると開さんがにこにこ笑って言う。
「皆で行くアルよ。花火大会日は、店早仕舞いね。
みんな花火見るからね。店開けても人来ないアル」
だから4人で行こうという開さんに、
「あ、ごめん。あたし花火大会ダメ。専門学校の子と見に行く約束しちゃった。すし詰めのバスに乗るより希望が丘駅から歩いた方が良いよって言ったらナビ任されちゃって」
テンテンちゃんがそういって俺たちにに手刀を切りながら舌を出す。えーつ、テンテンちゃん一緒に行かないのか……
「じゃぁ、俺はサークルのメンバーと一緒にいきますよ」
それを聞いて俺はそう言った。それは天衣ちゃんと一緒にいけないからじゃない。俺1人で行くことになればあのツンデレボケツッコミ夫婦の王夫妻の大量の砂の餌食になることは間違いないし、花火が終わったあとは、商店街の男たちは共は示し合わせてその日も開いている「居酒屋とうてつ」になだれ込むに決まっている。巻き込まれたらつぶれるまで飲まされるのは火を見るより明らかだ。そうなれば当然、神神飯店で泊まることになるだろうし、そんな醜態をテンテンちゃんに見られたくない。
「そか、じゃぁ、私オッパと二人で見に行くね」
そして、俺の言葉を聞いてそう返した玉爾さんの表情はなんだか嬉しそうで、俺は(ああ、一緒に行くと言わんで良かった。やないと馬に蹴られるとこやで)と思ったのだった。
「祭りも屋台毎年二人タイジョブね。祭り楽しむ良いよ。
それに、中華点心浴衣変ね」
と、祭りの日も屋台を手伝わなくても良いという玉爾さん。
当日開さんはいつものコック服、玉爾さんはチャイナドレスを着て屋台に立つそうだ。メニューは唐揚げ串と春巻と揚げ餃子。それにトッポッキ。やっぱり韓国料理が入ってくるのが神神らしい。『屋台って言えば、トッポッキ』と玉爾さんが譲らないらしい。ま、唐揚げ串と同じ紙コップが使えるので、容器をいろいろ用意しなくていいというのもその理由らしい。
とにかく、手伝うことがなくなった俺はならばと、
「じゃぁ、テンテンちゃん、俺と祭り回らない?」
と、テンテンちゃんを誘った。
「ダイサク君と回るの……うーん、どうしようかな」
すると、テンテンちゃん少し迷った後、
「別に、良いけど?」
と言ってくれた。でも、
「良いね、ダイサク、小天デートしてくるアル」
とニヤニヤ笑いながら開さんが言うので、
「で、デートってそんなんじゃないよね。あたしとダイサク君は家族……そう家族みたいなもんでしょ!」
テンテンちゃんはムキになって開さんに反論していた。
家族というのはちょっと残念だけど、ともかく祭りは一緒に回れる。
それから、大輔に花火大会の打診をした。
「こっちも杜さんの邪魔するなオーラがハンパないんだよ」
と大輔も苦笑する。こっちはマスターの甥っ子である透さんとBlue Marrowの璃青さんのことだけど。どっちも似たような苦労をしてるよなと、笑いあって、花火大会に行く約束をとりつけた。だが、
「けどさ、野郎二人のツーショットはちょっとな」
と言う大輔に、
「なら、法学でも呼ぶか?」
と俺が言う。法学というのは、所属するサークル仲間の御法山学のことだ。
そして、このとき法学を仲間に引き入れたことで、俺はこの後、いろんな意味で翻弄されることになるが、この時はテンテンちゃんと一緒に祭りに行ける幸せで完全に舞い上がっていた。




