プロローグ
瓦礫の下敷きになっていた戦車からようやく這い出た俺は思わず息を吐いた。
そして先程まで戦場であった市街地を見回す。目に入ってきたのはこの国自慢の綺麗だった街並みが見事に崩壊していた姿だった。瓦礫と化すのを免れた建物からも火の手や煙があがり、人々が逃げ惑い、あちこちから悲鳴や怒声が聞こえてくる。
俺はもう一度息を吐き、思う。この惨状をたった一人で引き起こした人物を。憂いに満ちた表情で、悲しみを宿らせた瞳を持つ少女の事を。
手に持っていた無線機からは雑音に混じって参謀本部の要請が虚しく響く。
『こ…ら参……部……ちら…謀………全…隊に告……担…している………の被害状況……明せよ…繰り返………』
もっとよく聞こうとして耳に無線機を近づけようとした途中、銃声、直後にバチッと嫌な音がして衝撃と共に派手に火花を散らして無線機が壊れた。見事に撃ち抜かれたようだ。正確に無線機の真ん中に風穴を空けた人物に向かって俺はゆっくりと顔を向ける。
瓦礫の山の上にその少女は立っていた。
あまりにも雰囲気が儚げだったので、夕焼けと背後の煙に今にも溶け込み消えてなくなりそうなその少女は俺に銃口を向ける。その一連の動作でさえ絵になりそうだった。
「……よう。……やってくれたじゃねえか」
苦々しく声をかける。
少女は言葉を選んでいるのか考えている様なそぶりを見せ僅かに首をかしげた。
「そう、ですね。あなたは強かった。私もここまでとは思いませんでした」
可憐な声音は儚げな雰囲気に反してよく通った。
「だから破壊しました」
少女は自分が行った結果を確認するかの様に崩壊した街を見回した。それらを映す瞳は哀しみのためかゆらゆらと揺れているかに見える。
万人がその様子に溜め息をつくだろう。今の少女の姿形はそれくらい美しかった。
だからこそ俺は許せなかった。
「言い訳してんじゃねえよ。アンタは楽しんでる――。破壊と殺戮、そして戦争を。いい加減隠してるんじゃねえ。バレバレな嘘は見てて痛いんだよ」
「私は楽しんでなんかいない……。 こんなにも悲しいのに、どうしてわかってくれないの?」
俺は少女を真正面から見据える。
その眼に思わず引き込まれそうになるがなんとか踏みとどまる。
「絶対にわかってなんかやらない。俺はアンタの事が大嫌いだ」
俺の断言で少女は目を細めた。引き金に指をかける。
「私もお前の事が大嫌いだよ。……草薙 恭一」
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時刻は数時間前に遡る。
架空の世界ですがイメージとしては第一次世界大戦から第二次世界大戦の間の世界観を想像しています。
ファンタジーかどうかは微妙です。