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ディスクワイエット

 イフロア遺跡までの道中、野営地が決まった。荷物持ちのゴジップが野営の準備を始めた。


 ここは“野営地場”として、旅人たちに広く使われている場所だった。水源地でもあった。


 ほかの旅人たちもテントを張ったりしていた。女剣士ジーベラと芸人スポンは、見回りに出かけた。


 ガミカは二人を見届け、ゴジップとの距離を確認したあと、オレに話しかけてきた。


 「きのうの漁夫だがな。死亡した漁夫だ」


 「ジーベラが助けた……あの?」


 「ああ。船を降りたあと、メディックと話をしてな。事故の様子をくわしく聞いたんだ」


 「なにかと衝突して……とかなんか?」


 「漁夫もなにと衝突したのかはわからないと言っていた。場所はビイービの沖だ。沖にはなにもないはずなんだ」


 「クジラとかじゃない?」


 「クジラがいるような水深ではない。話によると、船の下からものすごいスピードでなにかがやってきてぶつかり、船は大破して船員は数十メートルもの高さまで突きあげられたという。なにかがいたのはまちがいないが、生き残ったその漁夫はそれを目撃することはなかった。じつはあの沖は、たまに事故が起こるんだ。きのう図書館で過去の海難事故の記録を調べた」


 そうか、そのために図書館に言ったのか。


 「原因は?」


 「やはり、沈没か大破だ。生き残りはほとんどいないので、海賊かなにかに襲われたという報告で済まされている。今回は貴重な生き残りだったのだが、死んでしまった。だが奇妙な偶然がある。あの沖はザンゲツブルグから一番近い沖でもある。そして事故が起こるようになったのは、魔王がザンゲツブルグにやってきてからだ」


 「たまたまじゃないの?」


 「そもそも、魔王はなぜザンゲツブルグをめざしてやってきたのかは不明だ。魔族の者に聞いても、ただリーダーに従っただけだと言う。本拠地にするなら、べつにザンゲツブルグじゃなくても、もともと魔王がいた場所の近場の都市でもよかったはずだ。なのになぜ国境を越えて、はるばるザンゲツブルグまで来たのか」


 「あの沖には、魔界に通じるなにかがあって、魔王はそこからなにかをなんかして……じゃないか?」


 まじめに話すガミカには悪いが、適当に言わせてもらった。


 「そうか……! 巨大な魔族のモンスターか……! 魔王は魔界のモンスターを召喚しようとしているのか!」


 こいつ、結構単純な男だな。


 そのとき、一台の馬車が遺跡に向けて走っていった。ガミカはその馬車の向けて言った。


 「おい、もう日が暮れるぞ。まだ進む気か?」


 馬車の御者ぎょしゃは無視して進んでいった。


 「なんでえ。親切に言ってやったのに。この先は森もあるけもの道だ。死に行くようなものだ」


 「さっきの馬車、やっぱり進んだんだな?」


 ジーベラがうしろからやってきた。そのうしろにはスポンもいる。


 「わたしも止めたのだが……」


 どうやら、ジーベラも御者に夜明けを待つように忠告したらしい。


 「あいつらも死ぬな……」


 スポンがぼそりと言った。そういえば、こいつは船のときも漁夫の死を予言した。


 「スポン、なんでお前は他人の死がわかるんだ?」


 と、オレは聞いた。


 スポンは「寿命だよ」と冷たく言った。


 その言葉を聞いて、思い出した。


 そうだ。オレにも寿命がある。あと40日ちょっとでオレは死ぬのだ。死神が迎えにくるとか。


 元気だったやつが、つぎの瞬間に死ぬことだってある。無謀なことをして、ムダに死ぬことだってある。


 あの御者もそうだ。危険をかえりみず、夜の森へと向かう。人間の行動も、スポンの言うとおり寿命にもなるのかもしれない。 


 ガミカやジーベラやゴジップも、かならずいつか死ぬ。いつかはわからないが、それは絶対だ。


 余命40日って言われたら、ふつうの人間だったらどう思うだろうか。


 オレはいまも、夢の世界にいるような気がしている。だからこそ、あと何日で死のうが、それは他人事のように思う。実際、この体は他人なのだから。




 早朝、イフロア遺跡に向けて出発した。


 森の中で、きのうの御者と馬の死体をみつけた。どちらもほぼ骨になっていた。オオカミかなにかの餌食になったのだろう。その隅々にウジ虫やアリなどがくっついていた。


 気持ちは悪いが、最後は昆虫が死体を処分するのだ。これが自然の摂理というものか……と冷静に思った。


 「この御者は、なにかに取り憑かれて馬を走らせていたようだった」


 女剣士ジーベラがボソっとつぶやき、続けた。


 「こいつもプロの御者だ。夜の森の恐ろしさを知らないはずはない。なにか不吉だ。おとといの漁夫だってそうだ。いきなり死亡した」


 沖の漁船衝突事故となんらかのつながりがあるのだろうか。不吉ななにかが、動き出そうとしているのだろうか。


 一同は沈黙したまま、森をあとにした。

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