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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
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24話 壁一面の赤い文字と予想外の都市伝説

 たすけて……ごめんなさい……もうしません……ここからだして……ここからだして……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……もうしません……ここからだして……ここからだして……もうしません……たすけ……て……


 女子トイレの壁を覆い尽くす赤い文字。それは床のタイルの部分にまで侵食している。

 いや、それだけではない。その赤い悲痛な叫びは、個室のドアや内部など女子トイレの隅々、至る所にまで及んでいた……。


「うぅ……。何なんだよこれっ!頭が痛い……おかしくなりそうだっ!!」


 タケルが頭を押さえてうずくまる。


「タケルッ!」


 花子はホルマリン漬けの殺人鬼の腕を離してタケルに駆け寄ろうと一歩踏み出す……。

 しかし、その細い腕を逆にガシッと掴まれてしまう。


「おっと。俺と戦うって言ったのはお前だろ?」


 掴んだ手に力を入れるホルマリン漬けの殺人鬼。


「……それと言い忘れてたけどなぁ。その部屋に入った生徒は、今も精神を病んで病院に閉じ込められてるらしいぜぃ!キヒヒヒヒヒ!!」


「タケルッ!逃げてっ!!」


 叫ぶ花子。

 タケルは割れるような痛みの中、この道しかないと判断する。


「……花子っ、使うぜ……」


「駄目よタケルッ!こいつは107体もの都市伝説を支配するほどの精神力の持ち主なのよ!あなたが取り込まれるかもしれないわっ!!」


「……でも……やるしかねぇっ!」


 タケルは息を深く吸い込み、あの能力の名前を叫……!!


「マ……ママ……マ、マトリョ…………ッ!!」


 ……叫べない!!!!

 赤い文字のせいではなく、別の理由でガクガクブルブルと体が震え出すタケル。


「く、くそっ!も、もう一回っ!」


 無理矢理言葉をひねり出そうともがく。


「もう良いのよタケル!それを分かっていて私は、あなたの能力にマトリョーシカと名付けたんだから。」


 花子は知っていた。

 なぜタケルが震えているのか?なぜマトリョーシカと言えないのか?

 花子は知っていた。

 タケルのトラウマを……。

 タケルはマトリョーシカが怖かった。



 ……それは幼少期の頃。5〜6歳の頃だろうか。両親が用事で家を空けることになり、祖父母の家に預けられた時の他愛の無い話……。


 タケルの祖父母は海外旅行が好きで、祖母は行く先々でお土産として現地の人形を買って帰って来ていた。そして、祖父母の家にはその大量の人形を飾るためだけの部屋が一室用意されていた。

 その日、タケルの両親の用事が長引き、タケルは祖父母の家に泊まる事になる。

 そして、タケルの布団が敷かれたのが、例の人形の部屋だった。

 これは本当に他愛のない話。

 人形の部屋で寝る事になったタケル。人形達の目線が気になってなかなか寝付けない。

 その大量にある人形のなか、一際気になるのが他の人形よりも頭一つ分以上大きなマトリョーシカ。

 タケルにはどこまでが現実でどこからが夢なのかわからないし、確認のしようもない。が、その時、当時のタケルには見えたのだ。マトリョーシカの上半身と下半身の隙間から何かがこちらを覗いているのが……!

 慌てて布団を被り、マトリョーシカを見ないように必死で目を瞑るタケル。

 そんな時、耳はいつも以上に良く聞こえるもので、何かがズリ……ズリ……と近づいて来る音が聞こえる。


『頼む!消えてくれーっ!!』


 心で願うタケル。すると、タケルの手前で音は消えた……。


「助かった……。」


 タケルが安堵の溜息を吐いたその時!!


「まだだよ!」


 布団を剥ぎ取られたタケルが目にしたのは、あの大きなマトリョーシカ。そして、マトリョーシカの上半身と下半身の隙間から覗いていたのもマトリョーシカ。さらにその中のマトリョーシカの上半身と下半身の隙間からもマトリョーシカ……マトリョーシカ……マトリョーシカ……マトリョーシカ…………


「ギャーッ!!」


 そこでタケルは布団を蹴り上げ目を覚ました。パンツが少し濡れていたのは誰にも言っわなかった……。



 それからマトリョーシカは、タケルのトラウマになった。

 タケル本人も90パーセント夢だとは思っている。しかし、理性ではどうにもならない……。

 怖いのだ。とてつもなく怖いのだ。

 でも……。


「……怖いからって、助けられる力があるのに……。そんなの助けない理由になるかよっ!!」


 タケルの額に玉の様な汗が浮かび、それがこめかみを伝って床に落ちる。

 落ちた先の赤い文字が滲む……。

 タケルは眉間にシワを寄せ苦悶の表情のまま、再び口を開く。


「マ……」


「ト…………」


「リョ……」


 一文字づつ絞り出すように発音していく。

 一文字発音される度にタケルの中からとてつもない力が溢れ出るのがわかる。

 ホルマリン漬けの殺人鬼の表情が変わる。


「おいっ!何をするつもりだ!!」


 ホルマリン漬けの殺人鬼は、タケルへと手のひらを向ける。すると、部屋中の赤い文字が声となり、タケルの脳へと直接襲いかかる。


「ぎゃぁああっ!!」


 タケルは悲鳴を上げ、頭を抱えて膝を折る。


「タケルっ!」


 花子はタケルへ駆け寄りたいが、ホルマリン漬けの殺人鬼に掴まれた腕はビクともしない。


「タケルッ!聞きなさい!!マトリョーシカを使って欲しい時は、例えタケルが拒否しようとも使わせるわよっ!!でも、今はその時じゃないっ!!今は逃げるのよタケルっ!!そして、あなたの世界で花子の鏡を復活させてっ!!」


 タケルに聞こえるよう出来る限りの大きな声で叫ぶ花子。


「あんな正体不明な力を見せられて逃がすわけないだろっ!あいつは邪魔になるっ!!」


 ホルマリン漬けの殺人鬼も叫ぶ。


「俺の使う都市伝説の力は、その都市伝説が消化されれば使えなくなる。だから先に消化させる用にザコの都市伝説も取り込むのよぅ。だけどな、稀にそんなザコにもかなりの力を持つものもいるんだよなぁ!この、落とした消しゴムが見つからないっていうザコ中のザコ都市伝説の能力がそれよぅ!しかも、その中でもズバ抜けててよ!カードゲームならレジェンドレアに格上げもんだぜ!!」


 そう言ったホルマリン漬けの殺人鬼の、タケルに向けてかざした手のひらに黒い穴が開く。

 風がその穴に向かって吹く。いや、吸い込まれていく。


「……その消しゴムはどこに消えたと思うよ?ブラックホールに飲み込まれたんだよーーーーっ!!!!」


「うわぁああああああああああああっ!!」


 タケルの魂で出来た体は、霧のように散り散りになり、ホルマリン漬けの殺人鬼が言うブラックホールの中へと回転しながら吸い込まれて行った……!!!!



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