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都市伝説事典  作者: ニカイドウ
幽体離脱編
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2話 幽体離脱道場

 じゅんぺいとはその日の放課後、幽体離脱道場へ行く約束をした。

 タケルがそのいかがわしい道場へ行くと決めた理由は、じゅんぺいの言葉だった。


「……じゃあ、体から離れた状態で記憶を戻せば良いんじゃね?」


 タケルは、その言葉に希望を見出した。

 もし、幽体離脱すれば脳の事を考えずに記憶を取り戻す事が出来るなら、幽体離脱の方法を探すべきだ。道場があるなら何か得られるかも知れないと……。

 いかがわしいのはこの際少しだけ目をつぶろう……。



 そして放課後……。


「ここだここだ!」


 そう言ってじゅんぺいが指差す先には、言われなくてもわかるくらいの大きな看板が立っている。

 看板には、でかでかと幽体離脱道場の文字が並ぶ……。

 しかし看板の奥の建物は、看板と比べると小さくみすぼらしい印象の道場だった。

 タケルとじゅんぺいは普通の家にあるような門の前に立つ。インターホンがなかったので、タケルは声をかけてみる。


「すいませーん!」


「はーい。」


 すると、すぐに作務衣姿の30代くらいの綺麗な女性がこっちへやって来る。


「すいません。幽体離脱道場というのはここで合ってますよね?」


 タケルはそう言ったが、合ってるも何もあれだけ大きな看板が出ているのだから間違うわけはない。


「あっ!入会の方ですか?どうぞ。」


 女性は割と簡単にタケル達を中へ入れてくれた。そして2人は小さな応接室へと案内される。


「少しここでお待ち下さい……。」


 そう言うと女性は退室する。

 タケルは室内を見回す。本棚がある。そこには、同じ本がズラリと並んでいる。幽体離脱入門と書いてある。作者は……


「……高そうなソファだな……。」


 急にじゅんぺいの声がタケルの耳に入ってくる。タケルがその声に釣られてじゅんぺいの方を向くと、彼はガラスのテーブルの向こう側にある2、3人用のソファの触り心地を確かめていた。


「すげーふかふか!」


「やめとけよ。」


 タケルはじゅんぺいを止めようと声をかける。しかし、じゅんぺいは、


「何でだよ!こんなふかふかなソファめったに座れないぜ!」


 と言ってソファに飛び込むように腰を下ろす。


 ボフッとじゅんぺいを吸い込むようにソファが沈む。


「うわー。極楽……。」


「おっさんかよ!ってか、人が来たらどうすんだよ。怒られるぞ!」


 タケルは、じゅんぺいの常識のなさに少し怒って言った。

 その時。


「はっはっは。良いネ良いネ。」


 扉が開き、変なイントネーションの男が入って来た。


「君モ座テ。ほラ、座テネ。」


 タケルは男にうながされてじゅんぺいの横に座る。タケルもじゅんぺいと同様にボフッとソファに吸い込まれる。

 しかし、タケルはさっき部屋を見回した時に気づいた事があり、それを気にしていた。

 大体の応接室には机を挟んで対称的に並ぶようにソファが配置されているものだと思っていたのだが、この部屋には今タケルとじゅんぺいが座っているソファ1つしかない。

 つまりはその男の座るソファがない……。

 しかし、そんなタケルの心配をよそに、男は会議室にあるような折りたたみの椅子を持って来ると、タケル達と机を隔てた向こう側に座った。


「どうモどうモ。ワタシ(チン)と言いまス。幽体離脱道場ノ代表の珍法蓮(チンホウレン)でス。」


 タケルは、さっき本棚で見た幽体離脱入門の作者名を思い出した。

 たしか珍法蓮だった。

 あの本は、きっとこの人が書いたんだ……。


「デ、君たチ、幽体離脱シたいノ?」


「そうなんだよー。おっさん!」


 やけに馴れ馴れしく答えるじゅんぺい。


「おいっ!すいません。」


 何で俺が謝らなきゃいけないんだっ!

 心地よいはずのソファは、タケルにとってはかなり居心地が悪い……。


「ははっ。良いヨ良いヨ。デ、普通、幽体離脱トいうノハゆっくリ時間ヲかけテ仕上げテイクモノだからネ。早クテも1ヶ月。遅カタラ何年モ出来ナイ人いるネ…。」


「えっ!そんなにかかるんですか?」


 タケルは慌てて立ち上がってしまう。


「……普通ハだヨ。まぁ座テ。」


 タケルは再びソファに埋まる。


「デモ、ココノ道場、特別コースあるヨ。今日一日で幽体離脱出来ルか出来ナイか?2つ二1ツのコースネ。」


 珍さんは親指と人差し指で丸をつくる……。

 それがOKのサインなのかお金のサインなのか判断出来ずタケルは質問する。


「……で、その特別コースはいくらくらいするもんなんでしょうか?」


 珍さんは驚いたようにこう答える。


「え?お金?いらナイよー。こノ道場ハ金モウケじゃナイネ。幽体離脱広めルのが目的なのヨ。」


 本当かよ?

 タケルは、何か裏があるんじゃないかと疑う……。


「だいじょブよ。お金いらナいの理由ありまス。一緒に来たラ分かルネ。特別コース案内すルヨ。」


 珍さんはそう言いながら折りたたみの椅子を片付けると扉へ向かう。

 タケル達は、珍さんがドアノブに手をかけるのを眺めている。


「どした?行かないノ?」


「……どうするじゅんぺい?」


 タケルはじゅんぺいに意見をもとめる………

 …

 …

 …


 グーーグーー……。


 なんと、じゅんぺいはソファに埋もれてイビキをかいていた。

 タケルはあっけに取られる。

 ……もう何でも良いや。


「行くぞじゅんぺい!」


 寝ているじゅんぺいの耳を思いっきり引っ張り連れて行く。


「痛てててててっ!」


「わかったわかった!いや、わかんねーけど自分で歩くから!」


 応接室から出ると、じゅんぺいはタケルの手を振りほどく。


「あー痛て……。」


 耳をさする。


「早ク来なイト置いてくネ!」


 珍さんの声。せっかちだなーと思いながらも……


「行くぜじゅんぺい。幽体離脱道場の特別コースだ。何が起こるかはわかんねーけどな!」


 タケルは少し高揚していた。



 タケル達は、プールの更衣室のような場所に案内される。


「君たチ、そのシャワールームに一人づツ入っテね……。」


 入るべきか……?

 タケルは迷いながらじゅんぺいを見る。が、彼は何の迷いもなく服を脱ごうとTシャツに手をかけている。


「アーッ君ッ!服のママで良イネ!」


 珍は慌ててじゅんぺいを止める。


「服脱いでたラ 向こうデ恥ずかシイネ……。じゃア入ったラ カーテン閉めルの事ヨ。」


 ガラガラと迷わず閉めるじゅんぺい。その音を聞いて、タケルもカーテンを閉める。


 コンコン コンコン


 壁を叩く音が聞こえる。カーテンでわからないが、多分珍さんだ。


「あレ?どこだっケ?」


 珍さんの声。さらにコンコンは続く。


「何してんだあれ?」


 隣からじゅんぺいの声。


「さぁ……?」


 と、誰にも見えていないが首をかしげるタケル。


「おっ!あったネ!行くヨ 二人トモ!」


 珍さんはそう言って、何も……接ぎ目すらなかったはずの壁を押す。すると、珍さんの指の辺りの壁がスッと内側に引っ込む。

 カーテンのせいでタケルにもじゅんぺいにも何が起こっているのかはわからない。が、ただガタガタガタガタと大きめな機械音が聞こえてくる……。

 そして、バンッという何かが開く音!

 タケルの足元……靴底を通して足の裏に感じていた床の感触が不意に消える。


「ギャーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 タケルは、床の消えたシャワールームから真っ逆さまに落ちていった……。


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