1話 花子の呼び声
しばらくの間、7時〜8時に1日1話更新していきたいと思っております。更新できない日は予約するかもしれません。今回新章1話という事で、初めての方も追って読めるように出来ればと思いますので、是非楽しんで下さい。ちなみに、闇章タイトルはギャンブラーリスペクト編です。愛情を持ってリスペクトしております。
宜しければ53部分〜55部分のあらすじなんかも活用していただいて、さらに宜しければ本編1話から読んでいただけると嬉しく思います。
都市伝説事典をどうぞよろしくお願いします。
タケルは夢を見る。
「タケル……タケル……。」
同年代の少女がこっちに向かって呼びかけている。
「……一体誰なんだよ?」
「良かった。気づいてくれたのね。私よ。タケル……。」
夢の中にいたのはトイレの花子さんだった。彼女は以前、吉川先生が乗り移った人体模型からタケルを助けてくれた都市伝説だ。
「花子っ!何度キーホルダーに話しかけても反応がないし、心配してたんだ!無事なのか?」
タケルはそう言ってから気づく。
「……と言ってもこれは夢なんだよな。」
タケルは眉間にしわを寄せる。そんなタケルに花子は答える。
「……ええ。ここは夢の中よ。でもタケル、あなたに話しかけてるのは私!本当の花子なのっ!」
「え?」
「良く聞いてタケル!私はそことは違う世界にいる。名前のない霊能師の作り出した異世界、夜の学校にね。」
「夜の学校……?」
「ええ。今、この世界とそっちの世界はかなり繋がりが薄いの……。私もこっちから何度もあなたに呼びかけていたのよ。でも繋がらなかったわ。こうして繋がった今でもいつ切れるか……。あなたと話せる時間は限られてるわ。だから、詳しく話す時間はないの。でもタケル、これだけは覚えていて!あなたは再びここに来なければならない!」
「待ってくれよ!夜の学校って何なんだよ!どうやったら行けんだよっ!」
「……13階段……1年前……。」
ガバッ!
タケルは起き上がる。そこは、自分の部屋に敷いた布団の中だった。
「はぁはぁ……。」
寝汗がすごい。タケルは、手で額の汗をぬぐう。
目覚まし時計を見ると深夜の2時……。
「何だったんだあの夢は…………ん?」
タケルは右手に何かを握っている事に気づく。右手を開くと、そこには花子からもらった鏡のキーホルダーがあった。
「花子!花子っ!」
タケルはキーホルダーに向かって花子を呼ぶが返事はない。
「……夢?現実?どっちなんだ……。」
その時、タケルのお腹が鳴る。
グウゥ……。
「腹へった……。」
タケルは、布団からはい出す。なんだか服がゴワゴワすると思ったら、ジーンズにTシャツのままだった。
「俺、なんで着替えずに寝てるんだっけ……?」
そこでタケルは思い出す。
「そうだ。俺、気を失ったんだ……。」
タケルは名前のない霊能師に言われた事を思い出す。
「一年前の事を思い出そうとすれば脳が壊れるだって?ふざけんなよ!俺の記憶なんだ。絶対思い出してやるからなっ!」
グウゥ……。
再び腹の虫の声。
「……ま、今は腹ごしらえが先だ!」
タケルは、父ちゃん母ちゃんを起こさないように階段を降りて台所に向かう。
「あっ!」
台所には、大皿に盛った大量のおにぎりが置かれていた。そして、大皿の隣には、母ちゃんの字で書かれた張り紙。
“病院で見てもらったけど、問題ないってさ。夜中にお腹が減ったら食べな。”
「サンキュー母ちゃん!」
タケルはおにぎりをほおばる。
「タケル、起きたのかい?」
母ちゃんが起きてきた。心配して来てくれたんだろう。
「母ちゃんごめん。起こしちまったか?」
タケルはすまなそうに言った。
「なに、トイレだよ。それより今日は学校どうする?休んでも良いよ。」
「いや、大丈夫だよ。行くわ。」
「そうかい。じゃあおにぎり食べたらもう一度寝るんだよ。」
「わかってるよ。ありがとな、母ちゃん。おにぎりとか……。」
「なに言ってんだい。晩御飯はお父さんとウナギだったんだよ。あんたはおにぎりで残念だったねぇ!」
「えーっ!ずり〜なぁ。」
「……とにかく元気そうで良かったよ。それと、台所で食べないで、居間に座ってたべなさい。」
「はーいよ。」
母ちゃんは階段を上っていく。
「……トイレ行ってねーじゃん。」
タケルは呟いた。その顔は、幸せそうに笑っていた。
タケルはおにぎりを大皿ごと居間に持って行く。
「あ。」
タケルは居間の机の上に、あるものを発見する。
おにぎりを食べて部屋に戻ったタケル。机の上に人体模型の胃が置かれている。
「ジンタン……。」
タケルは名前を呼んでみるが、返事はない。
「そうか。また長い眠りについてるんだったな……。」
タケルは、ジンタンとの約束を思い出し、引き出しの中にそっと胃をしまった。そして、居間の机にあったものを自分の学習机に置く。
「起きたら食べろよ……。」
それはジンタンが大好物だと言った黄身あんの饅頭だった。
「……さてと、寝るか!後は明日だっ!」
その3秒後には、タケルはイビキをかいていた。
次の日。夕暮小学校。
1時間目の授業は算数。しかし、タケルは名前のない霊能師と一年前の記憶の事を考えてしまって授業に身が入らない。
キーンコーンカーンコーン……。
授業終了のチャイムが鳴る。待ってましたとばかりに席を立つタケル。
「おいモクメ!話があんだけど……。」
タケルはモクメに話しかける。
「来ると思ってたよ。屋上に行こうか……。」
モクメは言った。
ここは夕暮小学校屋上。
タケルとモクメはフェンスにもたれかかって話している。
「……で、話って一年前の記憶の事だよね。」
モクメは屋上の柵にもたれかかって、遠くを見ながら言った。
「ああ。教えて欲しいんだ。一年前と言えば、あの肝試しの事だってのはわかるよ。けど、あの時の事はほとんど思い出せねー。今まで何で疑問に思わなかったんだってくらいに思い出せねーんだよ。モクメ……おまえが知ってる事、教えてくんねーか?」
タケルは精一杯の誠意のこもった眼差しでモクメを見つめる。するとモクメはタケルに向き直り、じっと目を見るとこう言った。
「確かに僕は知っているよ。でも、君に教える事は出来ない。君の脳が悲鳴を上げているのを見てしまったからね。」
「それでも!……俺は知りたいんだ。記憶がなくてもわかるんだよ。思い出さなきゃならない事があるんだって!俺の脳ならどうって事ない!医者にも異常なしって言われたみたいだし!」
「ダメだよ。」
「なぁ、頼むよ!」
「……実はね、君が苦しむ姿を見たのは今回が初めてじゃないんだ……。以前にもあったんだよ。あの肝試しの日からまだ数日しか経ってないある日の事だ。その時も君は必死で記憶を思い出そうとした……。そして、同じように倒れたんだ……。僕が消したんだよ。その時思い出し始めていた君の記憶を。そして2度と思い出さないようにと記憶操作をして、一年前の肝試しに疑問が向かないようにした……。」
「何でそんな事!?俺は頼んでねーよなっ!」
「君に死んでほしくないからだ!そして、その記憶操作は今も有効……。2、3日すれば気にならなくなるよ……。」
モクメは真剣な顔で言った。
モクメのその言葉が……その行動が誰のためかタケルにはわかっている。しかし……。
「名前のない霊能師は言ったぜ……。1週間後に会おうって……。なぁ、俺たちには時間がないんだ!そうだろモクメ?今のままじゃ奴には勝てない。それだけはわかる!でもよ、少しでも記憶が戻れば何とかなるかも知れないっ!出来る事があるなら、俺はやりたいんだよっ!!」
「一年前の記憶を思い出そうとすれば、脳が破壊される。それは変わらない事実だよタケル。1週間を待たずに君は死ぬつもりかい?君は都市伝説事典を持ってはいるが、ただの人間だ。名前のない霊能師とは僕が戦う。君は必要ない。」
モクメはそう言い捨てると、屋上から出て行った……。
「何なんだよっ!都市伝説だって人間がいなけりゃ負のエネルギーを作れないんだろっ!じゃあ俺を利用すりゃ良いじゃねーかっ!俺を怖がらせろよっ!助けようとしてんじゃねーっ!なぁっ!!」
タケルの負け惜しみのような言葉は、モクメには届かなかった……。
しかし、屋上の入口の上から声が聞こえる。
「……記憶を戻せば脳が破壊されるだっけか?じゃあ、体から離れた状態で記憶を戻せば良いんじゃね?」
どうやら屋上には先客がいたようだ。そして、話を聞かれてしまった……。
「誰だ!」
タケルは叫ぶ。すると、盗み聞きしていた人物は、屋根のひさしの部分からひょっこりと顔を出した。それは、同じ6年3組のクラスメイト狭山じゅんぺいだった……。
「ごめん……。授業サボって昼寝してたらお前たちが話し始めるからさ……。聞いちゃった……。でも、一年前の肝試しなら俺にも関係ありそうじゃん?」
じゅんぺいは言った。そう。じゅんぺいは、一年前の肝試しのメンバーだった。彼もタケル同様あの肝試しの後3日間行方不明になっていた、関係ないとは言えない人物だった……。
「実は俺も気になってたんだわ。あの肝試しを良く思い出せない事……。だからさ、一緒に行かね?」
「行くってどこへ?」
「最終的には一年前のあの日だよ……。覚えてないなら見に行けばいい!だろ?」
タケルは意味がわからないといった表情をしている。
「でもまぁ、まずはここかな?」
じゅんぺいはポケットから折り畳まれた紙を取り出すと、開いてタケルに見せる。
タケルは声に出してそれを読む。チラシにはこう書かれていた……。
「あなたも臨死体験……。来たれ、幽体離脱道場……?」
タケルは思った。これは、怪しいニオイがプンプンするな……と。




