17話 赤マントたる所以
御堂宅の玄関前。倒れる押入れ女、ベッドの下の男、真夜中の少女の連続幼女誘拐殺人犯……。
そして、対峙する赤マントと偽の警察官。
「あとはあなた1人だけよっ!!」
「グフフフフフ……。本当にそうかな?」
偽の警察官が気持ち悪い笑い声をあげる。すると、倒れていたはずの3体が再び立ち上がる。
「ああぁあぁぁああ……」
「ガガガががががガガガが……」
「ウゴおぉォォオ……。」
3体が咆哮する。
「……都市伝説は、身の丈以上の負のエネルギーを取り込むと暴走してしまうと聞いたことがあるわ……。これがその暴走なの?」
赤マントが言った。
「その通り。そして、その負のエネルギーが続く限り、都市伝説は何度でも復活する!今、彼らの中にあるのは、暴走するほど大量の負のエネルギーだ。そして、それは私も同じ……。そろそろ……暴走が…………グワォォォォォォォォォォォ……!!!」
目前の偽の警察官の急な変貌ぶりに驚く赤マント。その隙をついて、連続幼女誘拐殺人犯が、ハンカチのようなもので赤マントの口をふさぐ。赤マントは、慌てて連続幼女誘拐殺人犯を振り払う。すかさず押入れ女が赤マントに包丁を振り下ろす。切ったはずの包丁の刃が元に戻っている。
「今度はその包丁、3枚におろしてあげるわっ!」
赤マントは自身満々にそう言うと、右手の包丁を押入れ女のそれに当てる。
キンッ!
先程のようにスパッと切れない。それどころか、刃こぼれすらしていない。……にもかかわらず、赤マントの包丁の方が刃こぼれを起こす!
「なっ!まさか、包丁が強化されているっ!!」
そう叫びながら、左手の包丁を押入れ女に向け、横一文字に振る。押入れ女は後方に飛び退く。ハラリと一房、彼女の前髪が落ちる……。
「…髪は強化出来なかったみたいね……。」
と強がりを言う赤マント。しかし、息をつく余裕もなく、押入れ女の背後から、ベッドの下の男が赤マントに向けて突撃して来る!
手にはもちろん新たな包丁が握られている。赤マントは、それを避けるため横に飛ぶ…………足に力が入らない!
「え?これってまさか…?」
先程の連続幼女誘拐殺人犯のハンカチ……。
あれにクロロホルムのような薬品が染み込まされていたのだ。
赤マントは力を振り絞り、刃こぼれした右手の包丁の柄でベッドの下の男の手首を打つ。
カランッ!
男は包丁を落とした。
しかし、男の勢いを止めることは出来ず、赤マントは、そのタックルを食らって背後に倒れる。ベッドの下の男は、赤マントに馬乗りになり、彼女の首を絞める。
「ぐぐ…。」
赤マントは、もうろうとする意識の中で、包丁を振り回す。すると、偶然にもベッドの下の男のまぶたにその切っ先がかする。
「があっ!」
両手でまぶたを抑え、男の上半身が上がる。赤マントはその機を逃さず男を跳ね返し、体制を立て直すために距離を置く……その時、何かが赤マントの背中に当たる。
「え?」
バチバチバチバチッ!!
雷が落ちた。体の感覚がない……。
カランッ、カランッと2本の包丁が地面に落ちる。
「フーッ、フーッ!!」
それは偽の警察官だった。彼は、赤マントの背中にスタンガンを当て、電流を流したのだ。
ドンッという鈍い音と共に地面に突っ伏した赤マント。意識が遠のいていく……。
「だ……め……。」
赤マントは、手探りで落ちた包丁を探す。左手に包丁が当たる。そして、迷わずその刃をグッと握った。
「くっ!」
痛い。左手から血があふれ出す……。
赤マントがそれを行った理由は2つ。1つは痛みで頭を覚醒させるため。赤マントは、フラつきながらも立ち上がる……。
そしてもう1つ。赤マントの左手からあふれ出した血が重力に逆らい、まるで意思を持つかのように左腕を上がってゆく……。
肩から背中へ向かい、その背中全体をジワジワと覆ってゆく……。
「……私が赤マントたる所以、見せてあげるわ……。」
ヴァサッ!
背中にたなびくそれは、真っ赤な血のマント。
「この状態で血液が減るのは、かなり辛いけどね……。」
満身創痍の赤マントだったが、その瞳は濁ってはいなかった。血のマントを得た今、彼女の瞳に敗北の二文字は映らない。
「……あなた達にも、赤いマント、着せてあげましょうか?」
赤マントは飛ぶ。スピードも滞空時間も先程とは桁違いだった。
まず狙いを定めたのはベッドの下の男。彼女はすでに男の頭上。回転しながら落ちる!
ザンッ!
彼女の包丁が、男の背中に傷を付ける。
すると、傷口から大量の血が吹き出す。血はうごめきながらマントの姿へと変化していく……。
男の背中を覆い尽くした血のマント。だが、なお成長を止めない。血のマントは、男の血を吸い出しながらどんどん広がっていき、遂には彼自身を覆い尽くすほどに巨大化する。
「普通なら、全ての血を吸い出して終わりなんだけど……。暴走するほど大量の負のエネルギーで、血もほぼ無尽蔵に再生されるみたいね……。なら、更にその先を見せてあげるわっ!」
赤マントがそう言ったと同時に、血のマントがベッド下の男の全身を覆ってゆく……。
マントは男を包み込み、大きな赤い球に変化。そして、だんだんとその直径を縮めていく……。
「ぎゃあぁぁぁああぁあぁ…!!」
ゴリゴリ…バキバキ…。
赤い球から、固いものが砕かれるような音が聞こえる。そして、それは足の小指の爪くらいの大きさまで縮まると、最後にパチンと音を立てて泡のように消えた……。
「ガァッ!!」
残りの3体の都市伝説も、暴走状態のまま恐怖を抱くこともなく赤マントに襲いかかる。
赤マントは、押入れ女の包丁をマントを硬化させ防ぎ、偽の警察官のスタンガンをマントでからめとる。
直後、つかみかかって来た連続幼女誘拐殺人犯に、マントから右手に持ち替えたスタンガンを威力を最大にして当てる。
バチバチバチバチッ!!
連続幼女誘拐殺人犯はその場に倒れ、ビクビクと痙攣をおこす。赤マントはそれを見る事もせずに次の一手を起こす!押入れ女と偽の警察官の目をマントで覆い隠すと、華麗に宙返りをして2人の背後にまわる。
マントの目隠しがハラリと取れると、2体の目前に赤マントはいない。
「チェックメイトね。」
赤マントは、そう言ったと同時に押入れ女と偽の警察官の背中を同時に切り付ける。
傷口から溢れる2体の血が混じり合って巨大なマントを形作り、それが2体を覆い1つの赤い球へと変わる。赤い球は、先程よりも早いスピードで縮小し、先程のように足の小指の爪くらいの大きさになると、パチンと泡のように消えた……。
「ひぃぃ……。」
か弱い女のような声が聞こえる。赤マントが振り向くと、スタンガンを当てられた連続幼女誘拐殺人犯が恐怖の表情を浮かべている。
「ひぃ……、た、助けてくれ!」
連続幼女誘拐殺人犯が懇願する。
「……あなた、暴走してないの?」
赤マントは言った。
「ああ。俺は都市伝説の本体じゃないからな……。頼む。もう悪さはしない。助けてくれよ……。」
土下座する連続幼女誘拐殺人犯。
「本体じゃない?それ、どういう意味よ!」
「俺の出て来る都市伝説のタイトルを思い出してくれっ!」
御堂宅の玄関から門まで続くタイルにおでこを押し付けたまま叫ぶ。
「確か、真夜中の少女……。はっ!まさか?」
「そうだっ!真夜中の少女の本体は俺じゃない。私の娘、山崎マリなんだよっ!!」
「そんなっ!」
赤マントは動揺し、連続幼女誘拐殺人犯から一瞬目をそらす。彼はそれを見逃さなかった。
「今、娘は標的の少女ミクを狙える位置にいる!気づいた時には、もう遅いんだよ!!」
そう叫んで、隠していた包丁の切っ先を赤マントに向ける!
それは、ベッドの下の男が落とした包丁だった。
「……アンタもね。気づいた時にはもう遅いのよ。」
ブシャァッ!!と、血しぶきが噴水のように上がる。それは、連続幼女誘拐殺人犯の背中から吹き出していた。
「え?痛みなんて少しもない……のに……?」
連続幼女誘拐殺人犯はつぶやく。その血しぶきがマントのように広がり、彼を包み、赤い球を形作る。
「や、やめてくれっ!!」
赤い球がどんどん収縮していく……。
「助け……。」
…………パチン。
「痛みもなく切るなんて、造作もない事よ。」
赤い球の消えた空間に向かって、赤マントは呟いた。
「急いでこの事を伝えないと!」
赤マントは飛んだ。が、無理がたたり、2軒先の屋根の上で、力尽きてしまう……。
「ぐ……、ふぅ……。」
プツン。と彼女の意識は途絶える……。




