16話 相名勝馬
異世界の通路にはいると、真っ暗なトンネルが続いていた。一行はそこを真っ直ぐ進む。
トンネルを抜けるとそこは、Aマートだった……。
Aマートは、タケルの家の近くにあるスーパー。雨は降っていないが、空を黒い雲が覆っている。不安をあおるような空だ……。
黒板の目は抱えていた3人を降ろす。タケルの母ちゃんは、まだ気絶している。
Aマートに到着して、まずタケルが感じたのは人の少なさだった。少ないどころか人っ子一人いない。この夏休み前の短縮授業中にもかかわらず、ガチャガチャの前に子供が1人もいないのは明らかにおかしい……。
「君たち、こんな所で何をしているんだ!」
駐車場の方から声がする。
タケルが振り向くと、パトカーから降りた2人の警察官がこちらに向かって来ていた。
「えっ?また?」
タケルは、偽の警察官を思い出し、苦い顔をする。
警察官のうち、若いほうが口を開く。
「まさか、君たちが殺人犯?…………なわけないよな。」
ベテランそうなもう1人が、落ち着いた声で話しかけてくる。
「このAマート付近で殺人事件が起こったんだ。今、住人の皆さんには、家に帰って家から出ないように呼びかけている。この付近は警戒態勢に入っていて、全ての道路は封鎖。検問を行なっているというのに、君たちはどうやってこのAマートに入って来れたんだ?」
「はは…。」
タケルは、笑うしかなかった。
その時、パトカーの方から声が聞こえる。
「おい、ポリ公!こんなとこで休憩か?サボってんじゃねーよ。」
タケル達も、警察官も慌ててパトカーの方を見る。すると、パトカーのボンネットの上に真っ赤な特効服を着て木刀を持ったリーゼントの男が腰掛けている……。
「何だおまえは!」
若い警察官が怒鳴り、近づこうとする。
すると……
「やめろっ!」
ベテランの警察官が、そう言って若い警察官の腕を掴む。
「いや、でも先輩!アイツ、パトカーにあんな事して、公務執行妨害で逮捕してやるっ!」
血気盛んな若い警察官は憤る。
「やめろと言っているっ!」
ベテラン警察官は、若手を一喝した。が、様子がおかしい。ガチガチと歯が噛み合わず、震えているように見える。
「……先輩。あの鬼のヤマキと恐れられたあなたが、何故震えているんです?あの暴走族風の男にビビッてるなんて事、ないですよね?」
ヤマキは答えない。
「おーい、ヤマキ!老けたなぁ。俺とタイマン張る度胸もなくなったか?」
赤い特効服の男がニヤつきながら言った。
先輩をディスられた若い警察官は、
「あんな、20代前半くらいの男に言わせといて良いんですか!ヤマキ先輩っ!」
とヤマキに詰め寄る。すると……
「……アイツは、20代前半なんかじゃない。それどころか、生きてすらいない……。」
ヤマキは恐怖にひきつった顔で答えた。
「え?冗談ですよね?」
「俺は本気だ。……相名勝馬。それがアイツの名だ。」
都市伝説事典がパラパラとめくれ、相名勝馬の名前が記される……。
タケルの脳にダウンロードが始まるが、説明はこのままヤマキに頼むとしよう。
「相名勝馬は、昔ここらで名の知れた暴走族、クリムゾン雷Nの総長だった男だ。忘れもしない。俺が25の頃。アイツは、パトカー殺しの異名を持ち、パトカーをあおってはその巧みな運転技術で事故を起こさせていた。しかしある日……。その日もアイツはパトカーをあおりながら、自慢の改造バイクで国道を走っていたんだが、アイツは何故か運転を誤り、電柱に激突。死亡した……。アイツのトレードマークだった真っ白な特効服を自らの血で真っ赤に染めて……な。」
「あっ!それ、聞いたことありますよ!あの、族の総長だったにも関わらず、素行が悪すぎて葬式に族のメンバーすら1人も来なかったっていう伝説のワルですよね?……たしか、事故にあった時のパトカーに乗ってたのって……?」
若い警察官が思い出したように言う。
「ああ。オレだよ。」
「じゃあ、あそこにいるのは死んだ人間って訳ですか?ははっ!そんなことあるわけ……」
若い警察官がヤマキの言葉を笑い飛ばそうとした時、ヤマキはその言葉をさえぎる。
「あるんだよ!相名勝馬にはな!」
「え?」
「あの事故の後、クリムゾン雷Nは解散。その理由は、メンバー全員が死亡したからだった。しかも、全員が何者かに体の一部分を切り取られた状態で発見されたんだ。そして、俺は見た……。最後のメンバーの体から一部を切り取る赤い特効服姿の相名勝馬をな。アイツは仲間の体の一部を集めて、自分のなくなった体の痛みを埋める……とか何とか言っていたよ……。」
若い警察官は、ゴクリとツバを飲み込む。ヤマキは、更に話を続ける。
「それからだ。オレがパトカーを運転する度に、アイツはオレのパトカーをあおってくるようになった…。死んだにもかかわらず…な。しかし、それでも若かったオレは気にも止めなかったんだ…。運転に自信もあったからな。しかし、ある日…。オレは、アイツのせいで周りを巻き込むほどの大事故を起こしそうになった。自分の身の危険もそうだが、このままでは周りの誰かを巻き添えにしてしまうと感じたオレは、極力パトカーに乗る事を控えるようになり、もし乗ったとしても自分では運転しないよう助手席に座るようになったんだ。そして、それからというもの、アイツは現れなくなった……。もう終わったと思ってたんだが……。」
「……終わってねぇよ。」
パトカーのボンネットの上で、ヤマキの話を聞いていた相名勝馬がつぶやく。
「待ってたんだ。お前が運転するのをずっと楽しみになぁ!」
「あっ!」
突然、若い警察官が声を上げる。ここAマートに来る途中の事だ。突然道路わきから子犬が飛び出して来た。運転していた若い警察官は、慌ててブレーキを踏んだが間に合わない。ヤマキはとっさの判断で助手席からハンドルを取り、見事子犬を回避したのだった。が……。
「まさか、あれが運転したことになったと……?」
ヤマキが言う。相名勝馬はニヤリと笑う。
「あの時、すぐに出て行ってお前をあおり運転で殺してやろうと思ったが、……やめた。今日は力が有り余ってんだ。パトカーでも運転してやろうと思ってなぁっ!!」
相名勝馬は、そう叫ぶと、パトカーのボンネットに溶け込んでいく……。
「うわっ!バババケモノだっ!ヤマキさんの言ったことは本当だったのか!!」
若い警察官は慌てふためく。すると、パトカーの助手席のドアが開き、中から赤い手が伸びる!
「わわっ!や、やめろっ!!」
その手は若い警察官をつかむと、パトカーの中に引きずりこんだ。
「うわぁぁぁぁっ!」
バタン……。
ドアの閉まる音。若い警察官は、内側からドンドンと窓を叩く。しかし、窓もドアもビクともしない。
ブルンッ!
パトカーが動き出す。ヤマキに向かって襲いかかる。
中にいる若い警察官は、慌ててハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりしているが、効果はない。
それどころかスピードを上げるパトカー。
ヤマキは逃げない。もう震えは止まっていた。まっすぐパトカーを見据える。
そして、もう腹は決まったというように、彼は叫んだ。
「やるなら、オレだけにしろっ!さぁ、オレは逃げも隠れもしないぞっ!!」
パトカーは、更にスピードを上げ、ヤマキに突っ込んだ!
「やめろーっ!」
若い警察官は、パトカーの中で叫び、最後の手段のサイドブレーキを思いっきり引いた。
キキーッ!
なんと、パトカーはヤマキの鼻スレスレの所で止まる。
「……良かった。」
と言った若い警察官の手が、無意識にヘッドライトのスイッチに触れてしまう!
パチッ……。
パトカーのヘッドライトがヤマキを照らす。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」
ヤマキの悲鳴。タケル達も含めて、その場にいる全員が絶句する。
ライトの当たったヤマキの姿が一瞬で骸骨へと変わり、その場にバラバラと崩れ落ちた。若い警察官は、車の中で気絶している。
「はははははははははは……!」
パトカーのサイレンの代わりに、スピーカーから相名勝馬の笑い声が鳴り響いた……。




