15話 モクメの正体
ドォン!
突然、大きな音とともに門が吹き飛ぶ。飛んだ門は、間一髪、タケルの横をすり抜けて飛んでいく。
柱だけになった門を通り、2人の殺人犯がタケル達の逃げ道を塞ぐ。そして後方には、包丁を持った男女がニヤリと不気味な笑みを浮かべ立っている。
もう外へ出る事も、家に逃げ戻る事も出来ない。
「……タケル、僕が逃げ道を作るよ。」
そう言ったのはモクメ。
「でも、どうやって?」
タケルは不安げにモクメを見つめる。モクメはまっすぐタケルの目を見てこう言った。
「大丈夫!異世界移動の応用で、異世界の通路を通って、この世界の別の場所に移動するんだ。でも……。」
「でも?」
「それを行うためには、もう一つの姿に戻らなければいけない。」
「もう一つの姿?」
「うん。……見せた方が早いね。」
モクメはそう言うと目を閉じる。すると、モクメの周りに水蒸気のようなモヤが現れる。モクメの色が薄くなっていく……。
モクメの体が細かな粒子に分解され、モヤに変わっているのだ。そして、そのモヤは上空に昇り、何かを形作っていく……。
「ひぃー。」
タケルの母ちゃんは、その上空の何かを見て卒倒してしまう。
「母ちゃんっ!」
地面に倒れた母ちゃんを助け起こすタケル。そして、上空に目を向ける。そこにあったのは大きな目。上空に浮かぶ大きな目が、ジッとこちらを見下ろしていた。
都市伝説事典がパラパラとめくれる。そのページに書かれていたのは、5年3組の黒板の目……。
ある日、児童が5年3組の教室の後ろの黒板に、大きな顔の絵をチョークで描いた。
しかし、黒板消しで消そうとしたところいくら消してもその目の部分だけが消えない。
しばらくするとその目は瞬きをするようになり、またしばらくすると今度は夜な夜な黒板を抜け出すようになったという……。
もしそれに出会って目が合ってしまうと、催眠術をかけられ操られる。または異世界に連れさられてしまうという噂もある……。
そこまでダウンロードされた時、タケルの脳にノイズが走る!
「ん!?」
都市伝説事典に何かが起こったと感じたタケルは、そのページを見つめる。
「えっ?こ、これは……?」
5年3組黒板の目の項目に、次々と新しい文章が書き加えられていく……。
「どうしたのですかタケル?」
タケルの頭に声が響く。黒板の目からのテレパシーだ。そのテレパシーには、感情も含まれている。タケルは、その巨大な目がモクメで、人間の姿の時の彼と心は変わらない事を読み取る。
「モクメ……。」
「おい、黒板の目。都市伝説事典のおまえの項目に、新しい文章がどんどん書き加えられていってるみたいだぜ。タケルには記憶のない、1年前のあの出来事もな……。」
タケルの肩のジンタンは、都市伝説事典のページを見ながら言った。
「い、一年前……?」
タケルは苦しそうに呟く。ノイズが大きくなり、頭が割れるように痛い。それでもタケルは都市伝説事典から流れる情報を処理しようとする。……が、流れてくる情報が理解出来ない。タケルの脳がそれを拒絶しているようだ。タケルは負けじと直接ページに向かい目を這わせる。しかし、目に映った言葉は文字化けしたように記号にしか見えず……意味をなさない。
……一体どういう事なんだ?
「……そろそろ殺し始めても良いでしょうか?」
話を切るように、偽の警察官は口を挟んだ。
そして、4体の都市伝説は、申し合わせたように同じタイミングで同時に襲いかかる!
その時、1人の少女が、空から舞い降りる。その両手には、一本づつ包丁が握られている。
少女は包丁を逆手に持つと、押入れ女とベッドの下の男の持つ包丁に自分の包丁をスッと当てる。すると、2体の都市伝説の包丁は、まるでキュウリを切るかのようにスパッと切れた。
「なっ!」「ぎゃあっ!!」
2体同時の叫び声。
少女はすかさず2階に届くほどの高い宙返りを見せ、偽の警察官と連続幼女誘拐殺人犯の後ろに立つ。そして包丁を持つ手を前でクロスさせ、目の前の2つの首筋に1本づつ包丁を当てる。
「黒板の目!早く行けっ!」
少女は叫ぶ。
「助かったよ、赤マント!」
タケルに黒板の目のテレパシーが聞こえる。
「赤マント?」
タケルはつぶやく。タケルから、赤マントと呼ばれた少女の顔が見える。
「あいつは……。」
タケルは、その顔に見覚えがあるような気がした……。
「さぁ、今のうちに行きますよタケル!」
黒板の目のテレパシーを受け、タケルは目の前の空間に開く穴に気付く。
頭痛はもう治っていた。それどころかタケルの脳からは、頭痛の理由である一年前の記憶が都市伝説事典に記されているという事実も消えつつあった。少しだけ頭がボーっとする。
「タケル、異世界の通路に入ってください。女の子たちとおばさんは、僕が連れて行きますから!」
そう言った黒板の目は、意識を失っているタケルの母ちゃんとミクちゃん、それにマリちゃんを見えない手で抱える。ミクちゃんは、優しい何かに包まれて浮かび上がるような感覚を覚えた……。
「タケルッ!早くっ!」
さらに黒板の目は、その穴に入るようタケルにうながす。タケルはハッと我に返る。
「わ、わかった!でも、あの子は?」
「大丈夫!赤マントは強いんです。彼女は絶対に負けない。だから、さぁ、早く奥へ進んで!」
タケルは、押されるように穴の奥へと入って行った……。
「……私には都市伝説を倒す力があるわ。さぁ、行きましょうか!」
赤マントはそう言って地を蹴った……。