13話 死に顔アルバムの呪い
新校舎2階、渡り廊下前の階段で、タケルは、職員室組と合流した。
「おい、じゅんぺい!どうよ。取ってきたぜ。人体模型の内臓!」
タケルは、自慢げに胃を見せびらかす。
「へー。」
あまり興味を示さないじゅんぺい。
「なんだよ。欲しいのか?欲しいんだろ?やろうか?やろうか?」
タケルは、そう言ってじゅんぺいの頬に胃を押し付ける。
「いや、いらねー。」
払いのけることもしない。そっけない態度のじゅんぺい。
「なんだよ。冷てーな。じゅんぺい…。」
タケルは、くちをとがらせて言った。スネた自分を見せたい時のリアクションだ。
「あーあ、逃した魚はでけーなぁ。」
じゅんぺいはため息とともに言葉を吐いた。
まだ死に顔アルバムが消えた事を悲しんでいるみたいだ。
「なぁ、ヤマト。コイツどうしたんだ?」
タケルはヤマトに聞く。ヤマトは、一から説明するのも面倒なので、
「…まぁ、色々あったんだよ。」
とだけ言った。
赤マントは、そんなやり取りを見つめていた。彼女は、あのトイレで1人だった。いや、記憶はないが、その前からずっと1人だったような気がする…。しかし、それよりもっと前、自分もこの輪の中にいたような気がした。そんな彼女の心に芽生えたのは、懐かしいという感情だったが、彼女にはわからない。ただ、暖かかった…。
タケルは相手をしてくれそうなヤツを探す…。そして、カゲルを見つける。
「うえっ!?カゲル?なんでいるんだよ?」
タケルは驚く。しかし、
「もう良いって。そのリアクション…。はぁ…。」
職員室の出来事で疲れきったカゲルも反応が薄い。タケルはまた口をとがらせた。
「で、これからどうするんだ?」
みんなに聞こえるようにタケシは言った。
「体育館に戻らないのか?」
タケルは不思議そうに質問する。
「…いや、体育館は…、な。ちょっと…。」
タケシは慌てる。来た道を戻るのは勘弁して欲しい…。
「まぁ、そうだよな。タケシは紫鏡に取り込まれそうになったんだし、戻るのは嫌だよなぁ。」
カゲルが言う。
「え!そんなことがあったのか?」
タケルは、驚く。もしかして、殺人鬼のホルマリン漬けも夢じゃなかったんじゃ…?急に怖くなるタケル。
「…今は、早く外に出る事が先決だと僕は思う。そんなこと…が、また起こらないとも限らないからね。とにかく靴箱のある玄関まで行って、そこから出よう!」
ヤマトは言った。みんながその意見に深くうなずいた。
足早に階段を降りていく6人と赤マント。そして、一行は、玄関へたどり着く…。
「ハァハァ…。なんだかやけにしんどいんだけど…。」
かなり息の上がっているタケシ。
「お、俺も…。」
じゅんぺいも疲れているようだ。
「どうした?具合でも悪いのか?」
タケルは、2人を心配して言った。
「もうそこだよ!頑張って!」
ヤマトが励ます。ツトムも心配そうに見ている。靴箱を抜ければ扉にたどり着く。タケルはスピードを上げ、ガラスの扉に近づく。外は真っ暗だ。
「待ってろ!今、鍵開けるからな!」
そう言って、鍵に手を伸ばす。開け方は、居残りさせられたやつならだいたい知っている。ノブ付近と扉の上下に付いている鍵の計3つを開ければ扉は開く。その時、ドサッと音がする。それは、カゲルが倒れた音だった…。
「!!」
タケルは、心配よりも先に目の前のカゲルの変化に驚く。なんと、カゲルの髪が、まるで花に色水を吸わせる実験のように、黒から白へと変わっていく…。
「なんなんだよ!これっ!」
タケルは叫ぶ。と、同時にドドッと連なり響く鈍い音。それは、タケシとじゅんぺいの倒れた音だった…。2人の髪もカゲルと同様にその色を白く変えていく…。
「これは…!」
ヤマトは驚く。
「3人とも、自分の死に顔を見てしまっていたんだ…。」
ツトムもつぶやく。タケルには、何がなんだかわからない。でも、なんとかしなければいけないのはわかる。
「とりあえず、鍵を開ける!もしかしたらここから出れば治るかもしれないだろ!」
タケルは、言葉より先に鍵を開けにかかっている。背伸びして上の鍵を…。しゃがみ込んで下の鍵を…。そして、ドアノブ近くの最後の鍵をひねる。
パチンッ。
開いた!
「よし、出るぞ!」
タケルはノブを回した。
「………。」
ガチャガチャ…。
「………?ん?」
扉が開かない。鍵は開けた。ノブもちゃんと回る。しかし、扉はビクともしない…。
「くそっ!」
タケルは少し下がり、勢いをつけて扉にタックルする。
ドンッ!
ビクともしないどころか、タケルは扉に押し返され、床に倒れこむ。
「いってー!」
タケルは叫んだ。
「どうしたんだタケル、大丈夫か?」
ヤマトは、タケルに駆け寄る。
「扉が…、扉が開かないんだ。」
「なんだって!?」
「ハハハハハハハハ…。」
その時、聞こえる抑揚のない笑い声。
「その声は、死に顔アルバム!!」
赤マントはそう叫ぶと、ヤマトを守るように前に出る。すると、玄関の6つあるガラス扉のガラス一面に、巨大なガイコツ先生の顔が浮かぶ。
「そうだよ。私だよ。」
「うわぁっ!なんだよこれ!!」
タケルは怯える。
「これは幻だ。」
赤マントが言う。その声が唯一聞こえるヤマトは、
「大丈夫。これは幻だよ。僕たちに手出しは出来ない。」
とみんなに伝える。そして、床に倒れるタケルに手を貸して起き上がらせ、みんなのいる靴箱辺りまで戻る。ガイコツ先生は口を開く。
「…その通り。私は手出しできない。でも、どうする?死に顔アルバムの自分の写真を見たその3人は、死ぬのが運命だ。私が何もしなくてもね。ハハハハハハ。」
「死ぬ…?」
タケルはつぶやく。そして、タケシ、じゅんぺい、カゲルの顔を見る。コイツらが死ぬなんて嫌だ…!それを感じ取ったように、ガイコツ先生は再び話し始める。
「…死なせない方法はあるんだよ御堂。それは、御堂が言ったように、学校から出ること。そうすれば、私の呪いは届かない…。」
なら、どうしても学校から出なきゃいけない!タケルはもう一度扉にタックルしようと構えた。
「でもな、御堂…。この学校に外なんてもんはないんだよ御堂…。なんせこの学校はな、御堂…。お前たちの知っている学校じゃあないんだからな御堂…。」
「なんなんだ一体…。」
名前の連呼がタケルの恐怖心をあおる。
「…タックルの前に、もっと良く見たほうが良いんじゃないか?御堂…。ほら、扉の外だ、御堂…。」
ガイコツ先生は、そう言って消える…。
タケルはその言葉が気になり、ガイコツ先生が消えて見えるようになったガラスから外を見る。
「………………ッ!!」
タケルの顔が青ざめる。
「…どうしたんだ?タケル…?」
ヤマトはタケルに声をかける。ヤマトからはタケルの背中しか見えないが、何かがあったのはわかる。タケルは恐怖で狭まる喉から無理やり声を絞り出す。
「外が…、ないんだ…。」
「えっ?」
ヤマトもタケルに近づき、扉の外を眺める。
「!!」
外を見てヤマトは絶句する。それまでヤマトは、外が暗いのは夜のせいだとばかり思っていた…。しかし、ヤマトが見た扉の外は………暗黒。月や星もない。周りにあるはずの建物もない。闇の中に学校だけが浮かんでいる。
「ハハハハハハハハ…。せいぜいあがくんだな…。」
その声を残して、死に顔アルバムの気配は完全に消えた…。