12話 赤マントと死に顔アルバム
「…僕は、君を迎えに来たんだ。サトリ…。」
「え?」
赤マントは、その包丁を止める。
「どういう事だ?お前は、私を知っているのか…?」
赤マントは、動揺しながら言った。ヤマトは振り返る。壁と同化する彼女の下半身と、あまりにも近すぎる2本の包丁のその鋭い切っ先のプレッシャーに、めまいを覚える。が、倒れそうになる体を気合いで押さえ、ヤマトは口を開く。
「ああ…。君は…、槇村サトリだろ?僕は、結城ヤマト…。…覚えてないかい?」
赤マントは、包丁を持つ手をダラリと垂らし、話し始める。
「私は、自分が誰だかわからない…。記憶がないんだ…。ただ、赤マントとしてここに来た人間に血のマントを着せてやる…。それだけの存在…。だと思っていた。しかし、槇村サトリ…、その名前を聞いた時、私の体に何かが満たされた気がした…。」
赤マントの両目から、涙が流れた。
「あれ?なんだこれは…。」
赤マントは涙を拭う。そんな赤マントを見て、ヤマトはこう言った。
「帰ろう、サトリ。」
ヤマトは手を伸ばす。赤マントは、その手をつかむ。その手から包丁は消えていた。
「結城ヤマト…、1つ頼みがある。」
「ん?」
「サトリと呼ばれるのは慣れない…。しばらくは赤マントと呼んでくれ。」
「わかったよ、赤マント。僕のことは、ヤマトでいいよ。サトリには、そう呼ばれてたからね。」
こうして、2人は行動を共にすることになった…。そして、2人は、今、死に顔アルバムに魅了されたタケシたちを助けるため、職員室でガイコツ先生と対峙していた…!!
「たのむよ。赤マント。タケシくんたちと、死に顔アルバムの繋がりを切ってくれ!」
ヤマトが言った。赤マントは、ヤマトの前に出る。そして、全ての障害物をすり抜け、一直線に死に顔アルバムへ向かう。今、死に顔アルバムは、タケシの手の中、開かれようとしている…。そして、それから目が話せないじゅんぺいとカゲル。くしくも、3人の背中は、赤マントから死に顔アルバムを守るようにそびえ立っていた。赤マントは、飛ぶ。たなびくマント。彼女は、タケシたちの頭上から両手の包丁を振り下ろす。
スパッ!と空気が切れる。続いて、
「いってーっ!」
と叫ぶタケシの声。死に顔アルバムは、ドンッと桜田先生の机に落ち、パタンと閉じる。タケシの右人差し指の先が少しだけ切れて、血がにじんでいる。
「…切るつもりはなかったんだ。すまない…。」
赤マントは、申し訳なさそうにヤマトに言った。
「問題ないよ。ありがとう。」
ヤマトは、そう言うと、タケシたちに向き直り叫んだ。
「みんな、今だ!急いでこっちへ!」
タケシたちは、慌ててヤマトの方へ走る。
「待てっ!!」
ガイコツ先生は、そう叫ぶと彼らを追い、前に回り込もうと…!
その時、ガイコツ先生の鼻先にギラリと光る包丁が突きつけられる。
「そこまでよ。」
赤マントだ。
「あなたの本体はあのアルバムでしょ?そのガイコツのような姿で出来るのは、せいぜい人に恐怖を植え付け、その心を操りアルバムを開かせる…くらいのはず。なんなら、私と戦ってみる?」
「くぅぅ…。」
ガイコツ先生は悔しがる。どうやら図星のようだ。
「まぁ良い…。すでに死に顔アルバムはほぼ開かれていた。彼らが自分の死に顔を見ていなければいいがな…。はははははは…。」
ガイコツ先生は、その笑い声を残して霧のようになり、死に顔アルバムへと吸い込まれるように消えた…。
ヤマトは、フゥ…と一息つく。
「ヤマト!なんだかわからないけど、助かった!」
タケシが、そう言いながらヤマトに駆け寄る。じゅんぺいとカゲルも続く。
「桜田のやろう!今度会ったらブッ飛ばしてやる!」
じゅんぺいは、怒っている。
「いや、あれは桜田先生じゃないよ。僕たちを恐怖であやつるために、死に顔アルバムが作り出した幻だ。」
ヤマトは言った。
「そっかー。もともと悪いやつより、良いやつがいきなり襲って来た方が怖いもんな。」
じゅんぺいは妙に納得している。その解釈はあながち間違っていないとヤマトは思った。でも…。
「担任を良いやつって…」
少し呆れた声でつぶやいた。
「なー、ヤマト。カゲルが付いて来てたんだよ。知ってたか?」
タケシが言った。
「勝手に付いて来たみたいに言うなよっ!」
カゲルが反論する。
「勝手にコソコソ付いてきたんだろ?俺、全然知らなかったし!」
じゅんぺいが茶化す。ツトムは笑っている。
「カゲルくんが夕暮霊園にいたのは知ってたけど、学校まで付いて来てたのは知らなかった…かな?」
ヤマトは言った。
「お前もかよーっ!」
カゲルは肩を落とす。「どうせ俺なんか…」と、ブツブツ独り言を言っている。
「あ、そう言えば、タケシ、指切っただろ?大丈夫か?」
思い出したようにカゲルは言った。切り替えが早い。
「…そういえば、もう治ってる!」
タケシは、右手人差し指を見て言った。みんなにも見せる。
「切れ味良さそうだもんな…。」
タケルは、タケルにしか見えていない少女の、その手に握られた包丁を見てつぶやいた。
「すっげー!かまいたちだろ!それ!」
じゅんぺいが興奮して、タケシの指を舐めまわすように見ている。
「かまいたちだってさ。」
ヤマトは、赤マントに話しかける。赤マントは、フンッとソッポを向いた…。
ツトムは、それを見ていた。
「ヤマトくん?」
「ん?」
「さっきの、桜田先生が言ってた幽霊って何のこと…?」
ツトムは意を決してヤマトに聞く。
「…何でもないよ。」
と、ヤマトは答えた。
ツトムは納得出来ず、問い正そうと口を開く。
「でも…」
「あーっ!!」
ツトムの小さな声は、じゅんぺいの大声に遮られる。
「どうした、じゅんぺい?」
カゲルが声をかける。
「無いんだよ。死に顔アルバムが無くなってる!」
「あっ!ほんとだ!無くなってる!!」
桜田先生の机にあったはずの死に顔アルバムは、かき消えるようになくなっていた。
「そんなのもう良いよ!俺はもう見たくない!無くなってせいせいしたぜ!」
タケシは怒り気味に言った。
「そうだね。」
ヤマトはタケシに同意する。そして、
「さぁ、行こう。タケルとすれ違いになったら、さらにややこしくなりそうだしね。」
みんなも、その言葉にそれぞれの言葉で同意した。
職員室を出る5人。階段へと戻る。すると、向こうから足音が聞こえる。
「おーい。なんでこんなとこにいんだよ?」
その声の主は、理科室から出てきたタケルだった。タケルは5人を見つけて手を振っている。その手には、人体模型の胃が握られていた…。




