4話 弾むバスケットボール
「とりあえず、体育館の中に入れば大丈夫だろう?」
タケシは言った。
「登り棒も見えないしね。」
ツトムも続く。先程より少しは表情が戻っていた。
「暗いなぁ。電気つけようぜ!」
じゅんぺいが、スイッチのある体育館入り口に向かおうとする。
「待て待て待てっ!」
みんなに止められるじゅんぺい。
「電気を点けたら、学校に侵入したのがバレるだろっ!」
タケシが怒って言った。
「ははっ。そうかそうか。」
じゅんぺいは、笑っている。
「ま、遮光カーテンが開いてるし、月明りでもある程度は明るいでしょ。」
ヤマトは言った。そして、タケルを見る。
「…まずは、理科室までのルートの確認だな。」
タケルは言った。それを受けて、ヤマトがルートを説明する。
「まずはこの体育館の2階から、渡り廊下を渡って旧校舎の3階に。旧校舎はコの字になっていて、そのまま字を書くように真っ直ぐ進むと、正面に階段、右に廊下が続く。右に曲がって真っ直ぐ進むと、さらに廊下は右に曲がっている。その曲がり角の手前、左側に旧校舎と新校舎を繋ぐ渡り廊下があるんだ。そこを通って新校舎に入ったら、渡り廊下を出た真正面の階段を降りて、左へ行けば理科室だね。」
「で、理科室から何を取ってくるんだ?」
じゅんぺいがワクワクした目で聞く。
「…チョークとか?」
タケシが言う。タケルは、じゅんぺいを見る。かなり不満そうな顔をしている。タケルは口を開く。
「次は俺の番だろ?じゅんぺい、持って来てやるよ。」
「え?何を?」
「決まってるだろ?理科室に行くんだ。夕暮小学校七不思議の一つ、動く人体模型の内臓だよ。」
そして、タケルの肝試しは始まった。
全員で体育館の2階に上がり、渡り廊下に続く扉の前で立ち止まる。ヤマトが扉を確認すると、ノブの真ん中の出っ張りを押すと鍵がかかる方式の扉だった。
「これなら、学校のトイレと同じだから、ノブを回せば開くね。」
ヤマトは言った。タケルはノブに手をかける。
「じゃあ、行ってくるわ。」
タケルは、ガチャリと扉を開けて、渡り廊下へと歩みだした…。
渡り廊下から、運動場が見える。
「…アレは、作り話だから…な。」
アレとは、カシマユウコのことだ。しかし、登り棒は見ない。
「…みんなといるのと、一人じゃ、やっぱちがうな…。」
タケルはブルッと身震いする。彼は、もともと怖がりだった。非日常を求めるのとそれとは、別の話だ。いや、信じているから怖いのであり、興味をかきたてる。怖いもの見たさ…である。そして、タケルは、渡り廊下を渡りきる。旧校舎へと足を踏み入れる。
「なんか出て来そうだな…?」
ひとり言が多くなる。不安がそうさせる。
「いち、に、さん…」
無意識に歩数を数える。数える度にギシギシと床がきしむ…。
「よんじゅうよん…。」
ギシ…。その時、タケルは気付く。旧校舎とはいえ、木造というわけではない。歩く度にギシギシときしむ訳がないのだ…。タケルの額に脂汗が浮かぶ。しかし、逃げ出すわけにはいかない。
「音…、だけだろ?こんなんでビビるかよ…。」
タケルは、強がりを言った。すると、きしむ音はしなくなった…。
「ふぅ…。」
曲がり角に到着する。前に階段があるが、不穏な空気が流れて来ているように思えて、目をそらす。タケルは、慎重に角の向こうをのぞく。壁に、児童の描いた絵が何枚も貼ってある。ただの絵だが、恐ろしいもののように見えるのは何故なんだろう?と思いながら、タケルはその前を通り過ぎていく。絵が動いているような気がする…。だから、
「俺は見ないぞ!絶対に見てやらねぇ!」
タケルは、大声で言った。そして、新校舎へと続く渡り廊下の前へとたどり着く。しかし、タケルは、さらに奥、旧校舎のもう一つの曲がり角のその先が気になってしまう。
「この先はどうなっているんだ…?」
今いるこの場所よりも暗闇が深いように感じる。その暗闇へ、タケルは一歩踏み入れようとしていた…。
ブワァッ
急に風が吹く。閉じていたはずの渡り廊下の扉が開いて、風が入って来ていた。タケルは、我に返る。
「そうだ。肝試しの途中だった。俺が向かうのは理科室だ…。」
タケルは、そう言って渡り廊下を渡り、新校舎へと入っていった…。
所変わって、体育館。タケルを見送った仲間たちは、…まだ体育館の2階にいた。
「ヒマだなぁ〜。」
じゅんぺいは、そう言って体育館の2階を物色し始める。体育館の2階は、体育館上部の明かり取りの窓や、遮光カーテンの開け閉めに使う通路の他に、体育館内用の放送室。そして、体育用具室がある。もちろん 放送室も用具室も鍵がかかっていて開かない。その時、一階でダム…という音が聞こえる。バスケットボールのはねる音のようだった。
「今、なんか聞こえた?」
ヤマトが言った。
「聞こえた!聞こえた!」
じゅんぺいがはしゃぎ始める。
タケシは、耳をふさいで、
「聞こえない、聞こえない…」
と言っている。
「ね、ねぇ、もしかして、夕暮小七不思議って、体育館にもあるの?」
勇気と声をしぼりだしてツトムは聞く。
「ああ、あるぜーっ!弾むバスケットボールッ!!」
嬉しそうに言うじゅんぺい。そして、
「上からじゃ何にも見えねェなぁ。降りて見に行こうぜ!」
と言って階段へ向かおうとする。それをタケシとツトムが必死で止める。
ダム…ダム…ダム…ダム…
まるでバスケットボールをしているように、リズミカルに鳴る。そして、ファサッとボールがゴールに入る音…。
「うわーっ!」
タケシは、たまらず渡り廊下へと飛び出す。ツトムもそれに続く。ヤマトは、下に降りようとするじゅんぺいを引っ張って、無理やり連れて行こうとする。が、じゅんぺいのほうが力が強い。
「んん…、僕たちも行こ……!ほ…ら、理科室…、行きたいって…言っ…てただろ…う?」
「おっ!じゃあオレたちも行くか?理科室に!」
じゅんぺいを引っ張る力が急に軽くなり、ヤマトは、前のめりに倒れこむ。と、その腕を掴んだのはじゅんぺい。
「なにしてんだよヤマト!さっさと行くぞ!」
さっきとは逆に、じゅんぺいがヤマトを引っ張り、2人は旧校舎へと続く渡り廊下へと出て行った…。
ダムダムダンダンダダダダ…ン…。




