1話 6番目の帽子
ひまわりの花畑の中、3人の人影。ひまわりと比べると小さめのそれは、子供の影だろうか?
「あれは…、ヤマト…と、オレ…。そして…。」
急に視点がオレへと変わる。
「!!」
「何驚いてるの?」
女の子の声がする。
そうだ。これは、小1のころの…。
あの子の名前は…。
そこで目がさめる。いつも見る夢だと思う。でも、すぐに忘れてしまう…。
「ふわぁ〜。」
俺は、大きくあくびをした。
俺の名前は、御堂タケル。夕暮小学校5年3組。
とうちゃんや母ちゃんに不満はないし、学校だって楽しい。
ま、勉強は嫌いだけど、新しいことを知るのは嫌いじゃない。好奇心旺盛!
でも…。
俺は、この日常をつまらないと感じていた。だから、この夏休み、肝試しを実行することにしたんだ…。
その夜。俺は、同じクラスの結城ヤマトとオレを含めた10人くらいで、この夕暮町一の怪奇スポット夕暮霊園に来ていた。と言っても、別に幽霊が出るので有名な…といった場所ではなく、ただこれといった怪奇スポットもないこの町の、唯一の墓地だからというだけだったのだが……。
霊園には、西入口と東入口の2つ入り口があり、クネクネと曲がる長い一本道で繋がっている。そして、両方の入り口には、5体づつお地蔵様が祀ってあった。
タケル達がいたのは西入口で、この肝試しは、東入口のお地蔵様にタッチして帰って来るといったものだった。
今、1人目のタケシが出発し、ほかのみんなは、西入口にいる。
みんなで怖い怖いとはしゃぎながら、多少罰当たりなことをしている。タケルは、とても楽しんでいたが、今、この時間も日常を超えていないと思う自分がいることにも気づいていた…。
そうこうしているうちに、タケシが帰って来る。
「行ってきたぜー!」
タケシは、勝ち誇った顔で言った。
「すげー!」
「さすがタケシ。」
そう言って、タケシを囲む5年3組の仲間たち。
タケシは、言わばクラスのリーダー的存在だ。肝試しの一番という嫌な役回りも率先して引き受けるような良いやつだった。
「でも、これって本当に向こうのお地蔵さんまで行ったかわからねーよな?」
誰かが言った。
「今言ったの誰だよ!」
「タケシを信じらんねーのかよ!」
「そうだそうだ!」
犯人探しが始まる。
「こんなとこでケンカはやめようよ。タケシくんはちゃんと向こうのお地蔵さんにタッチして来たって言ってるんだから、それで良いじゃないか。」
ヤマトが言った。
「そうだな。俺もタケシを信じるぜ。」
と、それにタケルも同意する。
「おぉ、心の友よ!」
タケシは言った。みんなゲラゲラと笑いだす。
「でも、今のままじゃあ面白くないかもな。次行くやつは、向こうの地蔵からなんか取ってくるってのはどうだ?」
タケルは言った。辺りは一瞬静まり返る。
「もちろん、ビビッてないんなら…な。」
と付け加える。
「だれがビビるかよ!」
「俺だって!」
「ビビッてんのタケルだろ?」
「そうだそうだ!」
しばらくビビるビビってないの話が続き、それが収まりを見せ始めた頃。
「じゃあ、次の人は、向こうのお地蔵さんから何かを取って来るってことでいい?確か、向こうのお地蔵さんは、ニット帽をかぶってたから、それなんてどうかな?」
ヤマトがまとめる。
「よし、それで行こう!」
タケシの言葉で決定した。
それから数十分後…。
肝試しはスムーズに進み、今、6人目がスタートした。西入口には、すでに4まいのニット帽が揃っている。
そして、再びたわいのない話、いたずら、ビビってる、ビビってないの言い合いが続き、楽しい時間が過ぎていく…。
時計は、もう夜の9時を回っていた。小学校5年生のタケル達にとって、それは深夜と呼べる時間帯だった。
「やべっ!もうこんな時間!オレ、帰るわ。」
「あ、オレも!帰ったら怒られるー!」
そう言って、2、3人が帰っていく…。
少しして、6人目が帰って来る。
「取って来たぜ!次!お前行けよ!」
そう言って、次のやつを指名する。7番目のツトムが出発する。ツトムの後ろ姿を見送った後、
「ん?」
タケルは不思議なことに気づく。
「あれ?地蔵って、入り口に5体づつじゃなかったか?」
「たしかにそうだよ、タケル。」
散々遊んだ後、飽きて放置されたニット帽を集めていたヤマトが言った。
「今、肝試しが終わってるやつって誰だっけ?」
タケシが言いながら、指を折って数えていく。
「オレ、佐野、山口、ミヤマ、じゅんぺいと、オマエ。」
「…タケシは地蔵にタッチだけだったけど、後の5人はみんなニット帽を持って帰ってきたはずだよな?」
タケルは考えながら話す。
「え?でも、俺が見たときは、ニット帽を被ったお地蔵さんがまだもう一体あったぜ。」
今、肝試しから帰ってきたやつが言う。
ヤマトは、手にしたニット帽を数え始める。
「1、2、3、4…。アレ?4枚しかない…。やっぱり向こうにまだ1枚残ってんのかな…?」
その時、
「フー、おつかれおつかれ。」
そう言ってお墓の影から出てきたのは、じゅんぺい。その場にいる仲間たちの目が、じゅんぺいの頭に集中する。
「じゅんぺ〜〜〜っ!」
全員が同時に叫んだ。その頭には、ニット帽が被さっていた。
「どこ行ってたんだよ!」
「いやー、ちょっと用を足しに…。」
「まさか、墓に引っ掛けたんじゃないだろうな?」
「…へへ。」
といった会話が続く。
コイツはかなり肝が据わってるな…。
と、タケルは思った。
「でも、これでニット帽は5枚。」
ヤマトは言った。
「じゃあ、ツトムは何を持って帰って来るんだろうな?」
タケルは、ワクワクした声でつぶやいた。
「おーい!」
ツトムだ。ツトムは、ビクビクしながら帰って来る。手にニット帽を抱えて…。
「ギャーッ!!」
誰かが叫ぶや否や、みんな走り出す。訳のわかっていないじゅんぺいと、まだそこまで到達していなかったツトムは、少し出遅れてみんなを追いかけた。
後にこの事件は、都市伝説・6番目の帽子として夕暮町で語られるようになる…。




