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起号作戦  作者: 俺氏
第三章 陸戦
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第十話 夜襲

警戒隊は戦車二両、歩兵一個分隊の設定です。

 「敵襲!」夜を越す為の場として選んだ集落跡でその声が響いたのは翌日の〇一〇〇であった。ここまで待ち伏せに依り米軍を苦しめてきた日本軍がここにきて今まで通りの夜襲である。敵兵力を尋ねるとタイプ97五両、歩兵一個小隊程だという。何のつもりだろうか。そう思いつつもやはりいつも通りかと考え大隊長のクレイグは指揮下の歩兵三個小隊にM4中戦車十両を付けて迎撃するよう命じた。しかし彼は忘れていた。あるいはその発想が無かったのだろうか。戦争で昨日そうだったことが今日もそうであるとは限らないと言うことを。


 「我々は左翼に展開する。走れ!」第三分隊長のネイト軍曹は部下に命じる。歩兵一個小隊にタイプ97五両、普通に戦って負ける相手ではない。流石に至近距離まで近づかれたら一概にそうとは言えないが、まず接近することさえ出来ないだろう。

 ハーフトラックから畑の畝目掛け走る。今夜は半月で、相手の輪郭程度しか見えず中々攻撃を当てにくい。

 畝に上手く身を隠すが、途中で斃れた兵や上手く隠れられず負傷した兵もいた。これがもう少し錬度の高い部隊なら隠れるのが下手で負傷するということもそう無い筈だが、矢張彼らは新兵だった。

 薄っすら見える敵兵の一人に照準を合わせ、引金を引く。しかし、命中した様子は無い。夜の闇は少しばかり敵に味方しているようだ。此方にも攻撃は当たっていないが、若し敵が陽動なら態々此方を倒す必要は無く、寧ろ戦力を引き付けている分効果的ともいえよう。ただ、此程度が引き付けられたところでさほど支障は無いのだが。

 突如周囲が明るく照らされた。上空を見ると、照明弾が打ち上がっていた。敵味方共にその姿が照らし出される。敵が怯んだ一瞬を突き攻勢に出る。五分での勝負で負けることは有り得ない。もう勝った様なものだ。そう思いながら敵を倒していく。しかし、現実とは慢心したものが易々といい思いができるようにはできていないのだ。

 再び身を隠した其時、少し離れたところでも戦闘が起こっているのが見えた。あの辺りは第二警戒隊が担当していたか。よく見ると火の手が二つ上がっていた。しかも、その火元はシャーマンではないか!しかも、ジャップの戦車は一つも燃えていない。一体何が。まさか、シャーマンが一方的にやられたのか。

 どうか見間違えであってくれ。そんなネイトの願いも空しく通信兵のアラン上等兵が寄ってきた。

 「司令部からです!『北部に展開中の部隊は可及的速やかに現状戦闘中の敵を排除、接敵中の第二警戒隊を支援せよ。現在戦闘中の敵は陽動の可能性大。』です!」

 やはり燃えていたのはシャーマンだった。更に、こちらがその情報を手にしたのを見透かしたかのように敵が攻勢を強めてくる。それにしても何なのだろうか。ジャップの戦車はシャーマンと撃ち合って勝てるようなものではないだろうに。まさか、新型を作ったのだろうか。ネイトは嫌な予感がした。


 ネイト軍曹の嫌な予感は当たっていた。第二警戒隊が遭遇したのはこの戦いで始めて米軍が目にすることになる一式中戦車チヘと三式中戦車チヌ、そして一式装甲兵車ホキに搭乗した歩兵一個小隊であった。一式と同時に投入したのは形状がよく似ている――車体に至っては全く同じである――ため、三式若しくは一式どちらか一車種のみであると誤認させるためである。ともあれ、米軍が新型戦車と対峙したということに変わりは無く、米軍はまたしても苦戦する羽目になった。


 現場についた途端、第二小隊の一両と四号車が砲塔に被弾、二両とも瞬く間に炎に包まれた。

 「四号車被弾!」二号車車長オーエン軍曹の上擦った声が響く。

「落ち着け!全車停車後車体を十一時方向へ!昼飯の角度だ!ブレット!正面の敵に牽制射一発、てっ!」轟音と共に砲弾が発射される。牽制のつもりで撃ったため当然掠りもしない。「各車発砲は控えろ!敵の発砲炎で位置を探る。」続けて指示を出す。

 コリン二等曹長は焦っていた。二個小隊を率いて第二警戒隊の支援に向かったが、着いてみれば警戒隊の二両は炎上していて動くことは無く、歩兵もまた一人たりともいなかった。しかも敵との距離が近く、下手をすればシャーマンとて撃破されてしまう可能性さえあった。更に、二両とも正面からやられている。距離をとれば良いのだが退がれば退がる程集落に近づいてしまう。まだ迎撃準備が整ってないだろう。そうなってしまったら一方的に蹂躙されてしまう。

 恐らく敵は新型だろう。少なくとも、今までジャップと戦ってきた中でシャーマンをこの距離で正面から抜いた戦車は見たことも聞いたことも無い。今までのようなドアノッカーではないだろう。だからといって奴らに88mmが作れるとは思えない。となると、75mmか。随分と厄介なものを。欧州じゃクラウツのパンサーやタイガーにシャーマンはまともに歯が立たず、数で囲みやっとというじゃないか。まさかこっちでもそうなるのか。

それにしても、こんな隠し玉を持っていたとは。「こりゃこの先大変だろうな。」小さく呟く。

 米軍の混乱に拍車をかけたのは左右両翼にも似たような戦車がいて包囲しつつあるということだろう。左右にいるのは一式中戦車なのだが、闇夜というのも相俟(あいま)って正面にいる車両と同じに見えたため、七十五粍砲車が大量にいると思い込んでしまったのだ。

 五号車が敵の位置を探ろうと前方に向け機銃を乱射する。命中さえすれば敵の位置を掴める筈だと。しかし、殆ど何も見えないような闇夜でその行動は自分の位置を教えているようなものだった。

 「五号車!勝手に撃つな!位置がばれるだろうが!」直ぐに機銃は止む。流石にこれだけで当ててくるとは思えんが。しかし事態はコリンの思った最悪の方向へと進んだ。

 敵戦車が発砲、その弾は五号車の砲塔防楯へ命中した。直後、五号車は爆発し、砲塔が吹き飛んだ。

 「くそっ!各隊後退しつつ前方の敵に牽制射!ここは敵に近すぎる!」そうだ。幾ら奴らとて75mmを作るのがやっとだろう。装甲までクラウツ共並のものを作り上げられたとは思えない。なら、距離を取ればこちらが有利だ!

 この時―そこにいた敵が戦車隊のみだったのたら、コリンの思った通りに事が運んだかもしれない。しかし、夜闇が米軍の目を奪ったのか、日本軍の偽装が上手かったのか。あるいは両方かもしれない。(いず)れにせよ、一式中戦車隊に紛れていた一式装甲兵車に米軍は気付かなかった。

 突如、後方からバズーカの発射音に似た音が聞こえてきた。驚き後方へペリスコープを向ける間も無く第二小隊の右端にいた一両とその隣が後部に被弾、エンジンが爆発し動かなくなった。

 この二両が受けたのは少数が戦車第一連隊に配備された試製四式七糎噴進砲、通称ロタ砲の試製四式七糎噴進穿甲榴弾である。着角六十~九十度で八十ミリの装甲を貫通できるこの弾は、シャーマンの後部装甲を貫くのには十分だった。

 「全車停止!」咄嗟に命じる。

 「六時方向、恐らく歩兵だ!第二小隊、応せ――」んせよ、と続ける前に左の二号車が側面に二発被弾、動かなくなった。二号車の向こうには距離があるからと対応を後回しにしていた左翼の敵戦車隊が何時の間にか接近していた。二号車がやられたということはかなり危険な距離だ。

 「二号車で車体を隠せ!」慌てて操縦手のフィリップに命じる。

 車体が隠れた其時、周囲に二発が着弾した。見れば正面の敵もまた接近していた。

 正面にいた敵が停止、発砲した。これは命中する。直感がそう告げていた。

 「馬鹿な・・・俺達が、シャーマンが、米軍が、(ぶりき)戦車しか作れなかった奴らに負けるというのか。」

 放たれた一式徹甲弾が砲塔防楯を貫いた直後、コリンの意識は途切れた。


 既に勝敗は決していた。第一、第二小隊共に壊滅的打撃を蒙っていた。程無く、両隊は全滅した。残った二両が一矢報いんと三式中戦車一両を撃破したもののほぼ一方的な戦いだった。これにより、米軍はこの夜襲で本隊として送り込まれた戦車は三式だけだったと勘違いした。

 その後、日本軍は陽動、本隊共に進撃せず撤退した。この判断は正解だったといえる。もし、集落付近まで前進していたのなら、倍以上の敵戦車と歩兵に囲まれ瞬く間に全滅していただろう。

 因みに、この夜襲で日本軍が本隊として投入したのは三式一個小隊五両、一式中戦車一個中隊二十両、一式装甲兵車二両及び歩兵一個小隊である。数の面で日本軍は既に勝っていたのだ。尤も、投入したのが全て九七式だったのたら、結果は自ずと変わってきただろうが。

 陽動隊は歩兵部隊の約半数と戦車二両を失いつつも、米軍の歩兵部隊に同数近くの損害と、滅多打ちにすることで戦車一両を撃破した。

 この夜襲で、米軍は戦車十三両、歩兵五個分隊を失う戦果に全く見合わない大損害を蒙った。

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