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フェノール帝国の動向

本日は、夜にもう一話投稿します!


※以前投稿した物と内容はほとんど同じです。

 アッサム王国の北西に隣接する大国フェノール帝国。

 大陸でカテキン神聖王国と並び二大大国と呼ばれる国だ。


「あの噂は本当だったのか?」


 そう尋ねたのは、フェノール帝国第三皇子であるアレン=フェノール。

 今年十五歳になる金髪碧眼の美少年で、お忍びで城下町を歩く姿が見られることから、数多くいる皇族の中でも特に国民から高い人気を誇る。

 アレンは、ここ最近耳に入った噂の詳細について部下であるジョージに調べさせており、その報告を受けていた。


「ソフィア=アールグレイ様が、ローレンス=アッサムに婚約破棄されたと言う噂についてですが……結果から言いますと、真実でした」


 その言葉に、アレンは勢いよく立ち上がると表情を輝かせる。

 一方で、ジョージの表情は曇ったままだ。そして、情報を追加するべきか迷っていると、アレンが声を弾ませて、言った。


「本当か!であれば……「しかし!」」


 本来であれば、従者が主人の言葉を遮るのはタブーだ。

 だが、ジョージはアレンに言葉を最後まで言わせたくなかった。無礼を覚悟で止めると、案の定アレンは怪訝な表情を浮かべる。


「しかし……ソフィア様は、婚約破棄後魔国の方角へ国外追放されたとのこと。生死は判別しておりません」


「なん……だと……」


 アレンは、ジョージの言葉を理解すると、愕然とした表情で崩れ落ちるように椅子に腰を下ろした。

 ジョージは、アレンがソフィアに向ける感情を理解している。

 恋心かは分からない。優しい年上の女性に対する憧れのような感情だったかもしれないが、間違いなく好意を持っていた。


「……経緯を話せ」


「っ!?」


 アレンの低い音調で放たれた言葉に、ジョージは背筋に鳥肌が立つ。

 アレンは、どちらかと言うと文官タイプだ。あまり荒事を得意としておらず、魔法もローレンスたちに劣る。

 だが、アレンには上に立つ者の風格があった。

 数ある皇族の中でも王としてのカリスマは群を抜いているとジョージは考える。アレンの言葉に自然と背筋が伸び、質問に答え始める。


「事の発端は、ソフィア様が妹のアイナを嫉妬のあまり嫌がらせを繰り返しており、パーティーでメイドに毒を盛るように命じて暗殺未遂事件を起こしたようです」


「はぁ?」


 アレンは、端正な顔を顰める。

 おそらく理解できないのだろう。報告しているジョージもこの話は信じられなかった。


「間違いなく、冤罪でしょう。話を聞きましたが、どれもソフィア様がやったという証拠が一切ありませんでした……そもそも、そんな暇なさそうですから」


「……だろうな」


 ソフィアが忙しくしている姿を二人は何度も目撃している。

 暇があれば、仕事。骨の髄まで染みていそうなソフィアが、嫌がらせを行うはずもないと確信があった。


「その後ですが、ローレンスを始めダージリン家などアイナの取り巻きと化している者と共に、公衆の面前で婚約破棄を言い渡したようです。

その後、アールグレイ家の馬車で魔国の方角へ国外追放。現在は行方不明です」


 ジョージは簡潔に伝えると、アレンは瞑目する。

 その姿を見て、ジョージはアレンにまだ伝えていない情報を伝えるかどうか迷ってしまう。


(不確定情報を伝えるべきか……しかし、この状況で希望を持たせるわけには)


 ジョージも魔国についてはそれなりに知っている。

 とは言え、国交があったのは三百年前の戦争だ。

 魔族は残忍で狡猾。人間を見つけては、問答無用で食べてしまうらしい。

 戦う力がゼロなソフィアの場合、魔国へたどり着く前に魔物に捕まってしまう可能性もある。


「……他に情報は?」


「……」


 絞り出すように出てきた言葉に、ジョージは口を閉ざす。


「何か、あるのか?」


 付き合いが長いからだろう。

 僅かな表情の変化も見逃さず、アレンはジョージが何か別の情報を手に入れていると感じたようだ。

 ジョージは、自身の失態に目を伏せた後、覚悟を決めて話し始める。


「セドリック=ダージリン様が、秘密裏に魔国の調査を進めているようです」


「なに!?……そうか、となると」


 セドリック=ダージリンは、アッサム王国で最も警戒するべき人物だ。

 その彼が、一月経った今でも捜査を続けているのであれば、生存の証拠を掴んでいる可能性が高い。

 アレンは、ジョージと同じ結論を得たのだろう。

 先ほどと比べて、光明を見つけ目に気力が戻る。


「ただ、ダージリン家はガードが固く、何の証拠を掴んで行動しているのか判明しておりません」


「そうか、やはりセドリック=ダージリンは一味違うと言うことか」


「はい、彼の人物がアッサム王国のような弱小国家に生まれなければ……。そう思えて、残念に感じます」


 アレンもジョージも、セドリックとは面識がある。

 共に、小国にはもったいないほど優秀な人材だと認識しているのだ。それこそ、アッサム王国現国王以上に警戒している。


「他にも問題がありまして……ソフィア様の従者であるディックと呼ばれる男性をご存知でしょうか?」


「知らないな……そもそも、ソフィアに従者などおるのか?」


 アレンの素朴な疑問だった。

 ジョージは、納得してしまうものの、主人の言葉に表情を強張らせてしまう。


「……確かにそう思われるのも無理はありませんが、ソフィア様は一応公爵令嬢ですよ。居ない方がおかしいかと」


「其方も、一応と付けている時点で大分無礼だぞ」


「はっ、申し訳ございません!」


 流石に自身の発言が拙いと感じたのだろう。

 深く頭を下げるが、アレンは苦笑して言った。


「咎めるつもりはない……そもそも、給仕人に紛れて判別がつかなくなるソフィアにも責任がある。公私の区別が、上手いからな」


――私に責任はありません!


 ジョージは、そんな幻聴が聞こえてしまった気がして、思わず苦笑する。

 確かに、公務中は貴族令嬢としての気品を纏っている。しかし、私的な時間となれば町娘と見分けがつかなくなるのだ。

 どういう理由で付けているかは分からないが、頭の金色のドリルがなければソフィアを街で見つけることは困難だろう。


「それで、その従者はどう言った者だ?」


 普段であれば、従者に関心を持たないだろう。

 だが、ソフィアの従者で、今まで一度も面識がなかったためアレンは気になったようだ。


「どうやら、もともと孤児だったようでソフィア様に命を救われ、その後アールグレイ公爵家で従者として育てられたとのことです。

しかし、どうやらかなりのすれ違いがあったようで、婚約破棄の現場ではソフィア様に暴力を働かれたと……」


「ほぅ」


 ジョージの言葉に、アレンは底冷えするような低い声を出す。

 自分に対して向けられている感情ではないことを理解しているが、背筋に寒さを覚えながらも、続きを話す。


「しかし、現在は指名手配中です。

詳細は不明ですが、ガマリエル=アールグレイの護衛やアールグレイ家の使用人を手にかけ、現在逃亡中です」


「懸賞金を上乗せしよう」


「殿下!?」


 迷いなく発した言葉に、ジョージは叫ぶ。

 そんなジョージの反応が面白かったのか、アレンは口元を綻ばせた。


「冗談だ。……しかし、どうして殺害事件を起こしたのだ?」


「詳細は分かっておりません。しかし、密偵からの報告では、第三者による犯行が疑わしいとのことです。尤も、アールグレイ家はディックを犯人だと決めつけているようですが」


「杜撰だな……そう言えば前々から思っていたのだが、当主の似顔絵がアールグレイ家から送られて来た物と密偵が描いた物とで乖離かいりしているのは何故だ?」


 アレンは、外務卿であるガマリエル=アールグレイに出会ったことがない。

 アッサム王国が小国であることを理解しているのだろう。下に見られることが我慢できず、一度も帝国へ外遊で訪れたことがなかったからだ。

 尤も、アレンとしてはガマリエルに来てほしいとは思えないが。


「貴族ゆえのプライドでしょう……密偵の書いた物のほうが正しいのでご安心を」


「……本当に、ソフィアと血が繋がっているのか疑問なのだが」


 アレンは似顔絵を思い出して、顔を顰める。

 ガマガエルをスケッチしたのではないのか。そう思えるほど、醜かったからだ。ソフィアとアイナは、おそらく母親の血筋が良かったのだと考える。


「それにしても、セドリック=ダージリンの持つ情報は気になるな……密偵ではつかめそうにないか?」


「はい、かなり厳しいでしょう。一応、情報収集を継続させておりますが、下手に動くとこちらの動きを気取られてしまいますから。そうなると、再度潜入させるのは厳しくなりますので」


 ジョージの言葉に、アレンはこめかみをトントンと叩く。

 しばらくの間、瞑目すると口を開いた。


「一度会って、正面から話を聞こうと思う」


「確かに、それが一番確実でしょうね。こちらから助力の申し出をすれば、無下にはできないかと……ただ、一つ問題が」


「何だ?」


「アッサム王国は薄氷の上に建つような国です。その薄氷こそが、セドリック=ダージリン様で、おそらく帝国への招来に応じないかと思います」


 国として、それはどうかと思うが、事実だ。

 ただ、アレンもそれを理解していた。そのため、ジョージの言葉に首を緩く振る。


「いや、それなら問題はない」


「と、申されますと?」


「私が、アッサム王国へと赴く。ジョージ、ダージリン家に手紙を出せ」


 アレンは、帝国の第三皇子だ。

 小国にわざわざ足を運ぶのは問題がある。そう考えたものの、アレンの目を見て、何を言っても無駄だと悟ったジョージは恭しく一礼した。


「畏まりました」








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