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召集

 夏休みが明けた。


 生徒会副会長の有永(ありなが)スバルと、副風紀委員長の佐々木豪(ささきごう)、二人が死んだという報道は風凪高校に大きな衝撃を与え、沈痛な空気で始業式を迎えていた。


 校内ではさまざまな噂が飛び交っている。


 二人の死を悲しむ者は多いが、なぜ廃墟なんかに行っていたのか、素行の良かった高校での姿とは別に裏の顔があったのかなど、二人を怪しむ憶測も混じっていた。


 そんな喜怒哀楽が校内中で渦巻いているなか、いまだ副風紀委員長が不在の風紀委員室では、憶測など気にもとめずに一月蒼士(ひとつきそうじ)神野七莉(かみのななり)高槻明里(たかつきあかり)の状況について話し合っていた。


「高槻さんの様子に変わりはありませんか?」

「ええ、以前と変わらない明るい生徒会長のままね。あの日の件についても一切話す素ぶりもないみたい」

「良かったです。あの現場ではすごく錯乱していた感じで、PTSDとか発症していてもおかしくなさそうでしたから」

「明るくて気さくで、とても丈夫な人。さすが生徒会長」

「でも、やっぱり色々と仕掛けられてはいるんですよね……?」


 七莉は何も言わず、一度だけ頷いた。


 現在霧雨によって明里のスマホや彼女の家にあるあらゆる通信機器がハッキングされており、会話や情報の送信情報が記録されている。


 もちろん明里自身はそのことを知らず、普段通りに生活をしている。そして、しばらく霧雨の監視下から逃れることもできない。


「僕はやりすぎだと思いますよ」

「私は当然だと思うけど。生徒会長は目撃者、霧雨の敵になるかもしれない存在。私たちは何も警察やヒーローではないのだから綺麗なやり方が全てではないということ」


 七莉の言う通り、霧雨は龍の血脈を殲滅するためならどんな手段でもこうじる。


 国に認められた組織ではあるが法律を無視した活動は黙認され、決して表向きにその存在が肯定されることはない。


「ところで一月君」


 七莉はそう言うと、机の引き出しから丸められて紐で結ばれた書状を取り出した。


「これが引き出しに入っていたの。一月君と一緒に確認するようにというメモ付きで」


 七莉は紐をほどき始めた。

 蒼士は席を立ち、七莉のところまで歩み寄った。


「霧雨からですか……」

「そうね」


 七莉が書状を開き終わり中身を確認すると、そこには集会の案内が書かれていた。


「明日の夜か……。時刻と集合場所が書かれているけど、ここに二人で来いということね」

「きっとそうですね。僕は久しぶりの集会です」

「私も久しぶり。おそらく私たち二人に次の任務が言い渡されるんでしょう」

「それにしても二人で一緒に召集されることってあるんですね」

「私も初めて。いつも個人単位での連絡だったけど……。実際に今回の有永スバルと佐々木豪の件もそうだったでしょう?」

「はい、実際についこの間まで神野さんが霧雨ということは知りませんでしたから」


 蒼士も七莉も、霧雨へ入隊することが正式に決定する前に風凪高校への入学が命じられていたた。


 そして二人が風凪高校に入学し霧雨へ正式に入隊して少し経った頃、風凪高校に潜んでいると推測される龍の血脈を探し出し捕えろという任務がそれぞれに言い渡された。


「同じ高校に同じ霧雨の隊員がいることさえ知らされていなかったのに、いざ顔を合わせれば今度は二人で協力しろって感じですかね」

「まあ実際に二人いれば心強いと思わない? 私はそう思う」

「そうですね……。それに、龍の血脈は有永スバルと佐々木豪の二人以外にもまだ潜んでいるかもしれませんし」

「さすがにもういないんじゃない? 同じ高校に霧雨が二人、龍の血脈が二人いるだけですごい確率よ」


 そう言う七莉自身も蒼士と同様、まだ龍の血脈が潜んでいるかもしれないという可能性は捨てきれていない。


 龍の血脈は、どこにどれだけいるか分からない。もしかしたらこの学校の経営層に龍の血脈がいて、龍の血脈を生徒として密かに受け入れている可能性すらある。


 霧雨である以上、出会う人全てに対して龍の血脈であるかどうか疑うことは当然のことなのである。


「さ、この話はこれでおしまい。明日の夜またよろしくて?」

「はい、話し過ぎもよくない気がします」


 七莉は再び書状を丸めて紐で結ぶと、自身の鞄の中へ滑らせた。


「さて、一月君は服風紀委員長になる気はある?」

「え……? 僕がですか?」

「そう。佐々木豪がいなくなり、早急に副風紀委員長のポストを埋めたいと思ってるところ」


 蒼士は少し考え込んだ。

 そして口を開いた。


「もし僕が副風紀委員長になったとして、学校の皆さんが納得できるでしょうか。神野さんの中での僕の評価に、霧雨であることが含まれていませんか?」


 今度は七莉が少し考え込んだ。


「……。それは否定できないけど、問題ないんじゃない? 生徒会長も推薦はしてくれるはず。私と生徒会長の推薦があれば、教師も生徒も拒まないはずよ」

「確かにそれはそうだと思いますが……」

「私が一月君のことを風紀委員会の書記におしあげたことをもう忘れたの?」

「い……いえ……! もう何を言っても僕は副風紀委員長になりそうですね」

「そういうこと。しかも今度はちゃんとしたお墨付きで。一月君ならしばらくの間、副委員長と書記を掛け持ちできるでしょう?」

「ええ!? それはいくらなんでも大変では?」

「じゃあ副委員長になった後の最初の仕事は書記を探すこと。決まりね」


 蒼士は席に戻り、すとんと椅子に座った。机に広がっていた学園祭に向けた書類をじっと見つめたが、心の瞳には「副風紀委員長」の文字が映っていた。


 蒼士は七莉のことを横目で見ると、すでに彼女はペンを手に取って何かの紙に記入をしていた。


 きっとあれは、自分を副委員長に推薦するための書類だろう。

 そう思う蒼士であった。

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