眠り 7
授業開始を知らせる鐘が鳴り、先生が教室に入ってきました。
王子様は横に用意された大きめの台の上に籠を設置し、リーナを横たえました。
抱っこしていては勉強できないからです。
同じ様に仲間達もそれぞれの聖獣を傍らに安置します。
卵を抱えていたアランは同じ様に低めの台の上に籠を置いてそこに卵を入れます。
クラウスは半身を台車に乗せたままだったので、席の横に台車を置き机に向かいます。
ジェラルドは最も大きなリヤカーなので、教室の隅にリヤカーごと安置します。勿論彼の席はリヤカーから最も近い場所にあります。
全員が席についたことを確認し、先生が口を開きました。
「皆も知っているように、2週間後に、遠足があります」
おお~と喜びのどよめきが上がりました。
「これは上・中クラス合同イベントです。皆で霊山に上って、そこで聖獣の為の食事を取る訓練を行います」
「せんせー、下級クラスは対象じゃないんですか?」
「彼等は別のカリキュラムがありますので、今回は対象になりません」
1人の生徒の質問に先生はそう答えました。
「これから遠足まで2週間は、そのための準備に当てられます。頑張りましょう」
ハイ!と元気な返事が返ります。
「では、まずは5~6人のグループを作ります。出来るだけ実力が平均するようにばらけてください。あ、上級クラスは、それで一班とします」
皆は立ち上がり思い思いに動き始め、グループ作りへ行動し始めました。
王子は立ち上がり、リーナを抱っこしてみんなの元に移動します。
上級クラスは一班と言われたので、既に班決めで悩む必要もありません。
大体集まるのはジェラルドのところです。
彼はリヤカーなので、なかなか自分の半身を動かすに動かせません。なので、こういうときは彼の元に集まるという暗黙の了解がありました。
上級クラスが一塊になっていると、先生がニコニコと寄ってきました。
「他の子たちは班決めに時間が掛かるので、君達から説明しましょうね」
「遠足って、僕達もですよね? でもリーナ達は寝てるから、無理なのではないでしょうか?」
王子が代表して質問した。
「フフフ。だからこその準備期間です」
先生は聖獣も連れて行くのだと暗に言います。
「遠足で行く霊山には、弱った聖獣を癒す力があります」
子供達の目は大きく見開かれました。
「聖獣は力を使いすぎると、君達の半身のように眠りについてしまう事がままあります。そういったときに霊山に連れて行き、治療してあげなければなりません。ですから君達も、君達の半身も、勿論遠足に行きますよ」
子供達は頷いた。
「多分とても大変だと思います。ですから、4人で力を合わせて彼らを連れて行ってあげなければなりません」
「力を合わせて……ってもしかして、俺のリヤカーに乗せていくのか?」
「君のリヤカーだと少し小さいですから、一回り大きな物を用意してあります。それを皆で引き、押していく事になるでしょう」
「なんだ、そっか」
ジェラルドはホッとしたように顔を綻ばせた。
王子も安堵を浮かべました。
彼らの半身を全員ジェラルドのリヤカーに乗せては、とても窮屈で下手をすればリーナが潰れてしまいます。
それを心配しての事でした。
他の面々も同じ様な心配をしていたようで、安堵の色を浮かべました。
「ただ、行くのは山道ですから、リヤカーが壊れても直せるように勉強して置かなければなりません。替えとなる部品も準備しておく必要がありますね」
子供達は生真面目に頷きます。
「後、頂上についたら、狩を行う事になります。他の班の子達は、半身と協力して狩ができますが、君達の場合は自力で取らなければなりません。罠のかけ方や、獲物の捕まえ方をしっかり勉強しておかなければならないでしょう。一人では無理でしょうから、お互いに連携するよう練習する必要もあるでしょうね」
「狩って、どうしてですか?」
クラウスだ。
「聖獣は普段食事を必要としません。そもそも栄養とならないですからね。ですが、この霊山で取れるものは別です。どういうわけか、あの山で取れるものは、聖獣に対しとても強力な栄養源となるのですよ。狩をしたり、果物を集めたりして、それらを半身達に食べさせるのが、その最大の目的です」
先生は王子に目を向けました。
「殿下の半身も、あの山の物を取れば心の会話が出来るようになる可能性が高いのですよ」
子供達はにや~っと笑った。
「リーナから、今朝こたえがあったんだよ。な!」
「うん!」
「おや、そうでしたか。なんと答えたのですか?」
「『甘い』です。蜂蜜を口に入れたら、そういっていました」
「甘い、ですか。まだまだ寝ぼけているみたいですねぇ」
ウンウンと王子は同意しました。
「恐らく山の物を与えれば、もう少し意識もハッキリしてくると思いますよ」
と先生はのんびり言います。
「寝ぼけてるのか~。だったら皆でいっせいに沢山話しかけたら起きたりしないかな」
ジェラルドの言葉に先生は眉を顰めます。
「君達の半身は必要だから眠っているのですよ。あまり急いで無理に起こすような真似は良くありません。ゆっくりその時を待ちなさい」
「はい」
ジェラルドは素直に頭を下げました。
普段どれほど聞きわけが悪くとも、事聖獣に関しては、彼等はきちんと反省を示します。
そのぐらい半身が大切な存在なのです。
「例え深く眠っていても、その声は半身に届いていると言います。信頼関係を築くためにも、無理のない範囲で語りかけるのはとても重要です。語り掛けることをやめる必要はありませんからね」
「程度を考えろって事ですね」
「その通りです。皆さん、頑張ってください」
全員でこっくりと頷きました。