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喋れない幼馴染とイチャイチャしながら、花探しの旅に出ます ー龍竜深紅ー  作者: 二木弓いうる
朧族とファーストキス編

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新しい変身だよ、えっちゃん

 紫の龍に変身したデュークスは、クルクルと宙を舞った。まるで巨大な蛇のような、長い胴体と長い尻尾。それらを覆う紫色の鱗は、太陽の光を反射させて時折まぶしさを放っていた。

 短い手足には鋭い爪。口の上には長髯をたくわえている。

 

「龍だ! 龍になれた! やったー!」

「お兄ちゃん、龍になれる石持ってなかったもんね。すっごい嬉しそう」

「あぁ、だってどう見たって強そうじゃん! それに、体をうねらせて飛ぶの、すごい楽しい!」


 自分の姿をもっとじっくり見たい。そう思ったデュークスは、空の上から地上を見渡した。近くに湖がある事に気づくと、すぐに飛んで行ってしまった。


 湖に映った自分の姿を見て、惚れ惚れした。自分とは思えないくらい、かっこいい。なんて思っていた。


「もう、お兄ちゃんってばー」


 一人で飛んで行ってしまったデュークスを、マナが走って追いかけて来た。


「あぁごめん。つい。でも見て、かっこよくない!?」

「かっこいいけど。えっちゃん置いてっちゃダメでしょ。私はともかくさ」

「はっ!」


 マナに呆れられ、デュークスは一瞬でもエミリッタの事を忘れてしまった自分を呪った。

 

 そんなマナの少し後ろに、走るエミリッタの姿が見えた。

 急いで走ってきたようで、かなり疲れた顔をしている。

 デュークスは低空飛行で飛んでいき、エミリッタの前でとぐろを巻くように着地した。


「えっちゃんごめん! もう置いて行かない!」


 呼吸を整えたエミリッタは、デュークスの額を撫でた。

 許してあげると言われたような、かっこいいよと言われたような。どちらにせよ、デュークスは良い気分になった。

 気分が良くなると調子に乗ってしまうのが、デュークスの悪い癖だ。


「色々試してみるから、そこで見ててね。火を吹いたりもできるかも。試してみよう」


 デュークスは大きく口をあけた。息を吸い込み、胸の奥を熱くさせる。

 灰の中の空気を吐き出すように、腹に力を入れ。

 まばゆい紫色の光線が、口の中から発射された。


 そして――山が跡形もなく消えた。

 流石のデュークスも唖然としていた。現実逃避がしたくて、人型に戻る。だが山が消えた事実は変わらなかった。


「だ、大丈夫だったかな」

「それはもう、人がいなかったって信じるしかないよね」


 エミリッタとマナも困っていたが、今更どうする事も出来なかった。


「でもあれなら、多くの人を乗せて飛べるよな。家族全員乗せたって……!」


 デュークスはそこまで言って、言葉が詰まった。もう背中に乗せる程の家族だっていないのに。

 わざわざマナに、思い出させるような事を言ってしまった。そう後悔した。


 だが、マナも自分に気を使ってくれているのだと分かったようで。

 小さく、からかうように笑う。


「……そうだね。お兄ちゃんとえっちゃんの子も乗れるよね」

「なっ! な、なに言ってんだ! よし。次は赤と緑を試してみよう」


 話を誤魔化したデュークスは、赤と緑の石を噛んだ。まばゆい光が、再び彼の体を包み。

 デュークスは黄色い、小さな生物になった。


「これって……モグラ!?」


 細長い鼻に、特徴的な手。毛の色は明るい黄色だが、その形はどうみてもモグラだった。


「おぉ。早速、複数の石の変身を試していたか。調子はどうだ」

「ハックの叔父さん! 何でここに」

「ハックとマナ殿の邪魔にならないよう、少し散歩に……んん!? マナ殿、何故ここに」


 ハックとマナに気を使っていた叔父を見て、デュークスは「やっぱりな」と小声で呟いた。

 マナが少し恥ずかしそうに答える。


「私も、ハックさんの……パンを作る邪魔になるので。それより、お兄ちゃんがモグラになりました」

「モグラに……? あぁそうか。モグラを土の竜と書く国もあるからな」


 文字を知らない龍竜族は、いまいちピンと来なかった。

 デュークスは目の前の小さな手を見つめる。


「よく分かんないけど、こう見えて結構強かったりすんのかな」


 試しに地面に手を向けて、土を掘る。

 途中、大きな石にぶつかる。

 強く叩けば壊せるのかもしれない。そう思ったデュークスは、勢いよく石を殴った。


 しかし石が割れることはなく、デュークスは手に痛みを感じた。


 何てことのない普通の石に勝てないのかと、少し悔しくはあったが。これ以上エミリッタから離れていたくなかった事もあり。

 石を壊す事は諦め、柔らかな土を掘り進めていく。


 地上に出てすぐ、デュークスは人型に戻った。頬に土がついて、汚れてしまっている。


「硬い石は無理だけど、土壁くらいなら壊せるかも。柔らかいものなら楽勝で壊せそうだけどね。よし、じゃあ最後いくか」


 最後は青色と緑色の石を噛む。

 デュークスの変身した姿を見たハックの叔父は、目を細めた。


「今度はタツノオトシゴそっくりだな」


 デュークスは明るい水色の、小さな生き物になった。

 馬のような細い顔で、くるりと丸まった尻尾もある。


「タツノオトシゴって魚じゃないの!?」

「まぁ、竜と姿が似ていると言えば似ている」


 そんなに似てるかな。と複雑な気持ちになりながらも。一応はこの体で出来る事を試そうと、デュークスは湖の中に飛び込んだ。


 水を切るように泳ぎ、体を上下左右に動かすも。特別な力は感じられなかった。


「スピードは青い竜の時と同じ位だな……ん?」


 水の底で、光る何かがあった。

 近づいてみると、小瓶の中に何かが入っていた。


 デュークスは小瓶の中に入り込み、光っていたそれを尻尾に絡める。そのまま小瓶から出て、取り出したものを見つめた。

 小瓶から取り出したのは、銀色の指輪。中央に黒い宝石が埋め込まれている。


「なるほど。小さいから狭い所に入るなら、こっちの体の方が良いのかもしれない」


 とは納得したものの、泳ぐだけなら青い竜の姿の方がかっこいいよな、とも思ってしまったデュークスであった。


 人型に戻ったデュークスは、湖から上がり。ハックの叔父に、先ほど拾った指輪を見せる。


「なんか指輪みたいなの見つけたけど。叔父さん、これ朧族の誰かの?」

「ふむ……見た事はないな。この湖は朧族だけのものではない。他の旅人が使ったのかもしれんな」

「じゃ、その時に落としたのかもね。誰か取りに来るかもしれないし、叔父さん預かっててくれる?」

「うむ。任された」


 叔父に銀色の指輪を手渡す。

 

 全ての変身を終え、デュークスは感想を述べた。正直な所、期待したほどの凄さはなかったようだ。


「紫色の龍はともかく、他の二つはそこまで強くなさそうだし。あんまり使う事もないかな」

「お兄ちゃんの場合、赤い竜になってれば十分強いし。もしかして、他の皆もそうだったのかな」

「他の皆?」


 マナの仮説がよく分からず、デュークスは首を傾げた。


「二つの石を使って変身できるって、教えてくれなかったんじゃなくて、教える必要がないなって思われてたのかも。龍竜族、文字も覚える必要がないから皆覚えてないでしょ」

「そうか。自分が使ってないものを、わざわざ人に教えたりしないよな。期待通りにはならなかったけど、知識は得た。もし土を耕したいときには言ってくれ」

「うーん。あったらね」


 ハックの叔父は元来た方角に体を向けた。


「さて、ハックの元へ戻るとするか」

「えっ、あ、私もう少しお散歩したいかも。叔父さん、一緒にお散歩しません?」

「む? こんな老いぼれではなく、せめてハックと共に」

「いえ、今したいんです! お兄ちゃん、ちょっと行ってくるね!」


 マナは叔父の腕を掴んで、湖から離れてしまった。ハックと会うのは、まだ早いと思っているらしい。


「いずれはハックの所に帰るだろうし、俺達は先に戻ってよっか?」


 デュークスの提案に、エミリッタは小さく頷いた。


「にしても、こんなに色々変身出来るなんてね。えっちゃん的には、どれが一番かっこいい? やっぱり紫?」


 何気なく聞いたデュークスの質問に、エミリッタの表情が固まった。


「え? どれもかっこよくなかった?」


 ブンブンと首を横に振った。かと思えば。

 少し恥ずかしそうにしながら、デュークスの顔を指さす。

 デュークスが下げている石ではなく、デュークス自身を指さしていた。


「えっ、あ、俺? 俺でいいの?!」


 エミリッタは静かに頷く。まるで、デュークスが良いと言っているかのようだ。


 嬉しさが込み上げる中、デュークスは気づいてしまった。

 湖のほとりに二人きり。

 ファーストキスのタイミングは、もしかしなくても今なんじゃないのか――と。

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