(デュークス、お休みだよ)
『エミ―ッタ――に―――んだ――ろ!』
エミリッタは夢の中で、ある声を聞いて目を覚ました。
聞こえたのは、前に思い出せなかった声だ。
どこかで聞いた覚えがあった。だが誰の声だったかは思い出せず、エミリッタはまたモヤモヤしていた。
そのまま眠る事が出来なくて、上半身を起こす。時間的には、まだ真夜中だった。
隣にはデュークスとマナが目を閉じていた。
マナはデュークスの腕を枕にして、寝息を立てている。妹だからまだ良いが、これが違う女の人になったら嫌だなとエミリッタは思った。
デュークスの方も静かに目を閉じている。
いつもと少し違う気がする、と違和感を抱いたエミリッタだったが。
その理由も分からずに、ただ彼の顔を見つめた。
流石に今日はスーパーえっちゃんタイムもお休みしなきゃ。なんて思っていた。
腕枕してもらっただけ良かったと思わなくちゃ。だって隣にマナちゃんいるし。ほっぺにチューなんて絶対無理! と首を左右に振り回し。一人で勝手に照れ始めた。
「どしたの、えっちゃん。何を照れてんの?」
突然聞こえて来た声に驚いて、隣を見た。
見ればデュークスがぱっちりと目を開けている。
起きてたの!? とエミリッタは青ざめた。
一人で照れていた所も見られていたと思うと、今度は顔が赤くなる。恥ずかしさのあまり、毛布で顔を隠した。
そこでようやく、先ほど抱いた違和感の正体に気づく。
デュークスは寝ている時、いびきをかいて、よだれまで垂らしている。今日はそれがなかったのだ。
「よく分かんないけど、寝れないの?」
そういう事にしておこう。エミリッタは毛布をかぶったまま頷いた。
「そうだ。マナは寝てるしちょうどいいや。えっちゃん、内緒話しよう」
内緒話?
エミリッタは毛布から顔を出して、左耳にかかった髪をかきあげる。
片腕をマナに貸していて動けないデュークスのかわりに。エミリッタが動いて、デュークスの口元に耳を近づけた。
「ハックがな、マナの事を気にしてるんだってさ。嫁さん候補的な意味で」
エミリッタは表情で驚きを伝えた。
敵意こそなさそうだったものの、そこまで強い好意があるようにも見えなかった。
とはいえ、ハックなら悪い人ではないだろう。なんたって、マフィアからマナを守ってくれた事があるし。とも思っていた。
「マナにもその気があるなら、俺は認めてやるつもり」
私もと言いたくて、エミリッタは頷いた。
「最も、まずはお友達からだ。ハック自身に頑張らせるから、マナには内緒ね」
分かったと言いたくて、エミリッタは再び頷いた。
「さて。流石に寝ておかないとダメだよな、おやすみ」
そう言ったデュークスだったが、なかなか目を瞑らない。
寝ないの? と思いながら、エミリッタはデュークスの顔を見つめた。
「おやすみ」
デュークスは何故かもう一度挨拶して、目を瞑った。
十分後。いつも通りのいびきが聞こえて来た。
私も寝なくちゃ、と思ったエミリッタはデュークスの腕枕と再会。
今度はほっぺにチューの事なんて考えないぞと、頬を赤くしたまま目を瞑る。
『ねぇ、アンタ白い竜になれた?』
ふと、マフィアのロンと話した時の事を思い出した。
あの言葉、もしかして白い竜を見た事があったのかな?
なれた? って事は、龍竜族だよね?
ハックの叔父さんも白い竜だけど……別の竜って事?
今日はデュークスが、他の竜に変身できるかもしれないと分かった。だったら他に、白い竜になれた龍竜族がいた可能性も大いにある。
その白い竜が何だと言うのか。そう考えながらも、ウトウトし始めた。
『エミ―ッタ――に―――んだ――ろ!』
これはもう夢かもしれない。
デュークスと似た顔をした黒い髪の男が、切羽詰まった様子であの言葉を言っている姿が見えた。
エミリッタはその男を知っていた。
「シャードお兄ちゃん……?」
心の中で、彼女はそう呟いた。




