腕枕だよ、えっちゃん
「それはない。龍竜族にとって、人の体も竜の体も大差ないから。俺は竜体のえっちゃんもすごく好き」
「な、なるほど……」
即答されて、ハックは逆に戸惑ってしまった。
「そのあたりはマナも同じだと思うんだよな」
「であれば良いが……ともかく、まずは友人として、親しくなるところから始めよう!」
「おう。なんなら協力してやるから。困ったときは言えよ」
「か、感謝する! そうだ、兄上とお呼びしても!?」
「それはまだ早いかなー?」
協力するとは言ったが、結婚させてやると言った訳ではない。デュークスはあくまで、マナの味方だった。
前向きに検討する二人の姿勢に、叔父も嬉しそうにしていた。
「ワシも喜んで協力しよう。まぁ、既に先ほど協力したがな」
「先ほど? 叔父上、いつ何の協力を?」
「マナ殿の隣に立たせ、共に料理を作らせたではないか」
「そんな策略が!? むしろ客人を立たせておいて、自分はいなくなるなど無礼だと思っておりましたぞ」
「ぶ、無礼など働いておらぬ」
とは言いつつも、叔父はしおらしくしていた。どうやら反省はしているらしい。
「シャワーいただきましたー。あ、お兄ちゃん。服借りたよー?」
そこに、マナとエミリッタが顔を出した。
流石に髪を乾かす道具もなかったのか、二人とも髪が濡れたままだった。体が温まったことにより肌が紅潮しているからか、妙に艶めかしく見える。
「見るなハック。お前にはまだ早い!」
「こ、心得た!」
デュークスはエミリッタとマナの前に立ち、ハックは彼女達から背を向けて座った。
自分自身、湯上り姿のエミリッタに何度もときめいている経験がある故に。
大事な彼女と大事な妹の湯上り姿を、そう簡単に見させまいと隠していた。
ハックもデュークスの気持ちを理解しているのか、律儀に目まで閉じている。
兄がいかがわしい事を考えていると察したマナは、両腕で自身の体を隠した。
「何言ってるのお兄ちゃん。ちゃんと服着てるよ?」
「着てれば良いってもんじゃないんだよ。ところで、服借りたよって……俺の服着てるの、えっちゃんじゃん」
エミリッタが着ていたのは、デュークスのTシャツだった。代わりにマナの方が、エミリッタの持参したTシャツを着ている。
「最初は私が着ようと思って、荷物から拝借したんだよ。そうしたらえっちゃんが、目で訴えてきたの。私もデュークスの服着たいなーって」
デュークスは非常にドキドキしていた。人のシャツを着ておいて照れている彼女の反応も可愛いし、シャツの下から見え隠れしている太ももだって、ついつい目を向けてしまう。
「正直すごく嬉しいけど、目のやり場に困るから。せめてズボン履いて」
「何も履いてない訳ないでしょ。私もえっちゃんも短パン履いてるよ」
「もっと長いの。なんなら俺の履いていいから」
マナ達は渋々長いズボンに履き替えに行った。
その隙を見た叔父がデュークスに頭を下げる。
「とにかくデュークス殿、先ほどの件、どうぞよろしく頼む」
「分かった分かった。前向きに検討しまーす」
履き替えるだけだったからか、マナ達はすぐに戻って来た。
「お兄ちゃん、先ほどの件って何?」
叔父との会話も聞かれていたようで、デュークスは咄嗟に隠す。知られてしまっては変に意識してしまうだろうと、配慮しての事だ。
「俺がえっちゃん大好きって話」
「いくら何でも誤魔化すの下手じゃない?」
「いや、えっと」
話術が得意な彼も、動揺しているせいでうまく力を発揮出来なかった。
マナに突っ込まれて焦っているデュークスに、叔父も加勢してくれる。
「否。誤魔化しなどではないぞ。デュークス殿はかなりエミリッタ殿を愛しておられる。意地でも他の男に奪われないように常に警戒されて」
「そうやって言われると恥ずかしいな!? お、俺の話は良いからさ。叔父さんの旅の話とかしてよ。うちの里に来た時の話とかさ!」」
恥ずかしさを誤魔化すため、デュークスはわざと違う話題に持って行こうとする。
「わ、我も叔父上の旅の話は聞きたい」
未来の兄上を手助けしようと、ハックも加勢する。
叔父は天井を見上げ、過去の事を思い出していた。
「龍竜族の里の話か。石を噛むと我ら朧族と似たような姿になるのは、実に不思議であったな。中でも複数の石を同時に噛んだ変身は、実に見事であった」
予想外の話を聞いて、デュークスは思わず眉を歪めた。
「複数の石……?」
「うむ。黄と緑の石を噛んだ者が黄緑色の龍になったり、青と黒の石を噛んだ者が紺色の竜になったりしていた。二つ以上の石を持つ者だけの、大人の特権と言っていたな」
「そんなの聞いた事ないんだけど。基本的に、石を噛むときは一つずつでしか噛んだことない。それを二つ、三つまとめて噛むって事?」
「知らぬのか? しかしあれは、間違いなく龍竜族の民だったが」
石を複数同時に噛むなど、聞いた事もなければ見た事もなかった。
だがハックの叔父が、嘘をついているようにも見えなかった。
「えっちゃんとマナは聞いた事あった?」
エミリッタは首を左右に振る。どうやら彼女も知らないらしい。
マナの方も聞いた事がなかったようで「むしろ初めて聞いた」と驚いていた。
デュークスは自身の石を握り締めた。
やった事はないけれど、自分でもやれるなら。
そう、興味を抱いた。
「もし俺が、他の姿にも変身できるなら。色々と試してみたいな。その方がもっと、えっちゃんを……皆を守れるようになるかもしれないから」
自分のためと聞いて、エミリッタも嬉しそうにしていた。
そんな彼女の反応も嬉しくて。デュークスはすぐさま、石を自身の口元へ近づけた。
「じゃあ早速」
赤と青の石を噛もうとしたデュークスを、マナが慌てて止める。
「待ってお兄ちゃん。もう夜も遅いし、明日にしようよ。ご迷惑だよ」
「それもそうか。明るい場所で見た方が、状況も理解できるしな」
納得したデュークスは、石から手を離した。
ハックの叔父は立ち上がって、隣の部屋を指さす。
「ならば今宵はこちらで寝ると良い。一応毛布もあるが、質の良いものでもない事だけはご了承願おうか」
「じゃあお言葉に甘えて。屋根壁があって、毛布まであるんじゃ上等だよ」
マナとエミリッタも「お世話になります」と頭を下げる。
叔父は隣の部屋に毛布を三枚用意してくれた。枚数的に考えて、デュークスとエミリッタ、マナの分だろう。
デュークスは一応、ハックに気を使った。
「ハックも一緒に寝る?」
「いいいいいいい否! 叔父上と積もる話もある! 今宵は我の家で寝泊まりする!」
照れた様子のハックは、すぐに建物を出て行ってしまった。叔父も「ゆっくり休まれよ」と挨拶すると、ハックの後を追って行った。
デュークスは胸をなでおろす。むしろ一緒に寝ると言われたらどうしようかと思っていた。
その場に寝転び、組んだ腕を枕にする。
「じゃあ寝ちゃおうか。せっかく三人でいるし、川の字になるかー」
デュークスの提案に乗り気のエミリッタは、彼の隣に寝転んだ。
「だったら、こっちの方が良いかな」
そう言ったデュークスは、腕を真横に伸ばした。その理由を察したエミリッタは、すぐに彼の腕を枕にする。
満面の笑みを浮かべているカップルを見て、マナは呆れた顔をしていた。
「私がいるんだから、夜こっそりイチャイチャしたりしないでね?」
「し、しないって! ほら、お兄ちゃん真ん中になってやるから。反対の腕、枕にしていいぞ」
「しょうがないなぁ。えっちゃん、お兄ちゃん借りるね?」
「なにを物みたいに」
だがエミリッタは頷いて、デュークスの腕なら喜んで貸し出す、と言っているようだった。
「じゃ、おやすみ」
「はーい、おやすみー」
エミリッタも唇をおやすみと動かして、目を瞑った。
しばらくして、少女達の寝息が聞こえて来た。
デュークスは首だけ横に動かして、可愛い彼女の寝顔をジッと見つめる。
ハックの件に感化された訳でもないが。
デュークスはつい、考えていた。
今は隣に妹もいるし、両腕も動かせないから無理だけど。
そろそろキスとかしてもよくない? と。




