ブレスレット作りよろしく、えっちゃん
「あの、手伝います。里にいる時は、料理とかやってたから」
「おぉ、これは有り難い」
マナは叔父と共に料理を作りに行く。
エミリッタもマナの後ろについて行った。彼女も手伝いたいと思っているらしい。
「じゃあ俺も」
エミリッタがいくならと、デュークスもついて行こうとした。
しかしハックの叔父は首を左右に振った。
「いやいや。調理する場所も限られておるしな。申し訳ないが、マナ殿には手伝ってもらいたいが……デュークス殿とエミリッタ殿はゆっくりしててくだされ。こらハック。お主は手伝え」
「うむ!」
ハックは叔父の隣に立とうとした。しかし叔父は、何故かハックをマナの隣に立たせようとする。
さほど気にしていないデュークスは、エミリッタに微笑みを向ける。
「じゃあえっちゃん。ゆっくりさせてもらおっか」
エミリッタが頷き終わる前に、マナが急ぎ足で戻って来た。
「あ、えっちゃん。もし時間あるなら、これ、ブレスレットみたいにしてくれないかな?」
マナは服のポケットから黒い星形の石を取り出す。亡き兄、シャードの石だ。
デュークスはマナの手の中にある石を覗きこんだ。
「ブレスレットって、腕につけるやつか?」
「うん。シャードお兄ちゃんの石を噛むのも嫌だし、かと言ってずっとポケットに入れとくのもなーって思って。ブレスレットにしていれば、すぐに見えるし。なんだかお守りみたいじゃない?」
「まぁ、その方が無くさなさそうでもあるしな。でも絶対他の奴に取られないようにしろよ。マフィアとか」
「分かってるって。ね、えっちゃん。お願いして良い?」
エミリッタは大きく頷いた。
叔父の机の上に、アクセサリー作り用の道具が並べられる。
特にやることがなかったデュークスは、ブレスレットづくりに勤しむエミリッタを見つめていた。
エミリッタは星の石に小さな穴をあけて、糸を通す。一緒に透明と薄紫色のビーズを通し、一つの輪にしていった。
「えっちゃん器用だねぇ」
技術を褒められ、エミリッタは照れている。
「ほう、見事なものだ」
「そうでしょう、そうでしょう。なんたって、えっちゃんが作ってますから……って、あれ? ハックの叔父さん、どしたの」
気づいたらデュークスの背後には、ハックの叔父が立っていた。
叔父は横目で、マナとハックの後ろ姿を見る。
「若人の方が俊敏だからな。若い者同士、後は任せたまでだ」
「マナ、そんなに俊敏かなぁ……まぁいいや」
「それより。その石、龍竜族のものか」
「あぁうん。死んだ兄の石だから、もう使われる事はないだろうけど」
「ふむ。本人とその番以外、噛む事がないんだったな。デュークス殿の石は三つもあるのか」
デュークスは胸元の石を軽く持ち上げた。
「まぁね。これも人によって違うからさ。この兄の石だって、天然でこの形だったって言うからカッコいいよな。里の中でも珍しいから、皆羨ましがってたんだ」
「なるほど。しかしデュークス殿も、さぞ羨ましがられただろう。石が多いという事は、変身の種類が多いという事だろう?」
「うーん、特別羨ましがられた記憶はないけど。まぁ、楽しかったかな」
家族分の魚を取るために水の中に潜ったり、妹達を空を飛んだり。家族と過ごした日々を思い出したデュークスは、懐かしい気持ちになっていた。
しばらくして、マナとハックが料理が運んできた。
ちょうどブレスレットも完成し、エミリッタは早速マナの手首につけた。
「わぁ、かわいい! ありがと、えっちゃん」
可愛らしいアクセサリーとなった兄の形見を、マナは大変喜んでいた。
そんな姿を見たエミリッタも、とても喜んでいた。
「さ、早速食べよ。ハックさん、すごく手際が良かったんだよ。絶対おいしいから」
「そんな。大した事はしていない」
マナに褒められて照れるハックを見て、叔父の方が満足気な顔をしていた。
新鮮な魚の身は、かなり柔らかく。丁寧に下処理されたのか、生臭さも少なかった。
野草で作られたサラダを口に入れ、シャキシャキと音を立てる。どこか里を思い出す、懐かしい味だった。
あっという間に食べ終わると、ハックの叔父は数枚の白いタオルを持ってきた。
「どれ、皆疲れたであろう。順にシャワーでも浴びたらいい。湯も出るぞ」
ボロそうに見えるのに、意外と設備は整っているようだ。
「ここはレディファーストってやつだよね。えっちゃん達、行ってきなよ」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな。えっちゃん、一緒に行こっか」
頷いたエミリッタはマナと一緒に、シャワーの部屋へと向かった。
その場に残ったデュークスは、ハックに念を押す。
「いくら二人が可愛くとも、覗いたらダメだぞ」
「と、当然である!」
そういった会話に慣れていないのか、ハックは恥ずかしそうにしていた。
少女達がいなくなった後、ハックの叔父は真剣な表情になった。
「ハック。それとデュークス殿。少々よろしいか?」
真剣な叔父を見てか、ハックはその場で正座をする。
その様子を見て、デュークスも隣に正座した。今までとは違う、重々しい空気が感じられた。
「叔父上、いかがした?」
「里が襲われ、ワシ一人になったと思って諦めていたが……ハック。お前に頼みがある。朧族の血を、絶やしてはならん」
「それは、つまり?」
ハックはいまいちピンと来ていない様子だった。
だがデュークスはすぐに察した。彼にとっては、どこかで聞いたようなセリフだったからだ。
叔父はハックにも分かりやすいよう、ストレートに伝える。
「エミリッタ殿はデュークス殿のものなのであろう。ならばマナ殿はハックに、ハックの嫁に下さらぬか」
「なぁーーーーーー!?」
ハックは驚き、その場でひっくり返っていた。
デュークスは彼の気持ちを理解していた。自身もエミリッタの祖母から似たような事を言われた時は、とても驚いていた。
「確かに、えっちゃんは絶対に譲れない。ただマナの方は、相手が良い人ならってところかな。まぁ、ここは本人同士の問題だよね。ハックはどうなんだ。マナに気があるのか」
起き上がったハックは、己の人差し指をつつき始め。恥ずかしそうにしていた。
「ま、まぁ、正直に申せば、ひ、一目見た時から美しいと思っていた……!」
言葉にしたら余計に恥ずかしくなったのか、ハックは両手で顔を隠した。
ふざけている訳ではないのなら、真面目に考えてやってもいいだろうか。
そう思ったデュークスは、むしろ妹に相応しい男とはどんな奴か、逆にどんな奴なら許せないかを想像する。
デュークスが思い浮かべたのは、巨乳に手を出す海賊と、物扱いした女の子相手にキスするマフィアだった。
「……まぁハックならいいか。むしろ良い奴だよ」
それまで見て来た野郎どものせいで、彼の中で判断基準が甘くなっていた。
「まっ誠か!?」
「一番はマナがどうかだけどね?」
家族を守るためとはいえ、一度は貴族の嫁として暮らしていた妹に……今度こそは、自分の好きな人と一緒になってもらいたい。
そう願うデュークスだった。
だがハックは心配そうな顔をしていた。
「しかし……朧族は竜体だ。石のないマナ殿は普通の人間と姿変わらぬ。我のような者で好いてもらえるだろうか……」




