3
さらっと流します。
水鳥川という男は、呆れるほどプライドの高いだけの男だった。
今の会社にヘッドハンティングされたのは間違いない。が、水鳥川を引き抜いた人事担当者が泣きながら謝罪していたと噂がある。それほど使えないこの現実が噂に拍車をかけていることは、周知の事実。
いや、仕事はそれなりにできる。あくまでもそれなりに、だが。ただ、それを考慮しても「こいつ使えねぇ」と言わしめる性格の悪さがあるだけだ。
ミスを認めないのはもちろん、一言の謝罪で済むことですらグダグダダラダラウダウダ言い訳に二時間以上をかけ、上司を精神的に再起不能にし仕事を遅らせるある意味天才と言える……誰も言わないけど。
同い年の同期に対する嫉妬心も半端ない。自分も平社員であるにも関わらず、年下の同僚に同期の悪口を延々と吹き込み、自分の優秀さをアピールする。……ウザっ! としか出てこないなー。
かなり年下の奥さまをもらったのも自慢らしい。子供が成人したら離婚しましょうね、と宣言されてるらしいが。どうせ箱入り娘を騙して結婚したんだろうよ、とみんなが頷く噂もある。
ナチュラルにモラハラする奴は自覚なんてないわな。
まぁ、そんな感じなので、自分はもっと信頼されて重要な案件を任されていいはずだ、と信じて疑わない。無駄に前向きすぎる痛い奴である。
そうして、その重要な案件を任されている年下に余計な茶々を入れて邪魔をしまくった結果、花形部署からやんわりと「出ていけやゴルぁ」され、あちこちの課をどんぶらこと流されて環奈の課に来た。ここを追い出されるのも時間の問題ではあるが。
しかし自分は必要とされて移動していると思い込んでいる。めでたい頭だなー。現在の水鳥川の評価は地を這いつくばるどころか、地下深くまで潜っているが、知らぬは本人だけだろう。進行形で穴を掘ってるというか、自分でダイナマイトを放り込んでいるような気さえする。阿呆である。
そのおめでたい男水鳥川、最近絶不調で不機嫌である。
いつもならこれくらいで、というミスで始末書を書かされたり、年下の上司に叱られたり、美人だから優しくしてやっていた女性から超見下されてることに気づいたりと、散々なのだ。
こんな時はストレス解消をしようと、仕事のできな(と水鳥川は思っている)環奈を探すも、主任研修で出張だという。なにそれ、俺行ったことない。とか呟いて後ろの方から失笑が上がったが、聞こえなかったらしい。
そら環奈はちゃんとお仕事できるいい子だからねー、とあちこちから環奈を擁護する声も上がるが、これも聞こえなかったようだ。バカここに極まり。
そんな格下だと思っていた相手の昇進話に呆然としている水鳥川の手には、いつの間にやら辞令書があった。
ド田舎の支店(とは名ばかりの島流し場所)への移動が記されたそれは、ぼっちへの片道乗車券だった。
へんなプライドをミジンコレベルで踏み潰すのはこれからです。