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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第四章:私より強いヤツが会いに来る!? 後編
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第三十六話:ワンターンキル

「あはは、最後の最後で失敗したわ」

 思わぬ、と言うべきか。自滅、と言うべきか。とにかく壮絶な空中コンボを披露したにもかかわらず呆気ない幕切れとなった初戦の結末に、美織は「あはは」と笑った。

「……」

 対して先勝したレンは表情を硬くしたままだった。

 ちなみに周りのユーザーはあまりの結末に全員白目を剥いている。

「よしよし、なにはともあれ、まずはこっちがリードだ!」

 ただひとり、レンの後ろで円藤が喜んでいた。とにかく勝ちが必要な円藤にすれば、経過はどうであれ、勝ちは勝ちなのだろう。

 しかし、レンは違った。あんなのは勝ちじゃない。ただ目の前に転がっている勝利を拾っただけで、実質はむしろ完全敗北に等しいと感じていた。これまで磨きをかけてきた自慢のカウンターが、失敗したとはいえ美織のワンターン・キルの前にはくすんで見えてしまう……。

「おい!」

 だからレンは第二ラウンドが始まる前、たまらず美織に声をかけた。

「さっきの、もう一度やってみてくれよ」

 未遂に終わったワンターン・キル。もし本当に目にすることが出来るのならば、

「オレは何もしないからさ」

 対戦がイーブンになっても余りあるほどのお釣りが来る。

 レンの申し出にギャラリーたちは大いに湧いた。誰しもが歴史が変わるところを見てみたかったのだ。

「おい! ふざけんなよ!」

 ただし円藤からすれば、そんなのはどうでもいい。

「せっかく一勝したのに、何考えてやがる!? てめぇはさっさとヤツを倒せばいいんだ!」

 周りの空気を読まずに円藤が怒鳴った。

「さっきは不戦勝だったから一万だったがよ。今はもう実際に戦っているんだ。勝てばきっちり三十万払ってやる! だから」

 ちゃんと戦え、と言いたいのだろう。絶対に勝利が必要な円藤からすれば、レンの気まぐれは到底認可できるものではなかった。

「分かってるよ、円藤サン。絶対に勝ってやる。しかも誰から見ても完璧な勝利で、だ。だから」

 レンは円藤の言葉を遮って、声を荒立てた。わざわざ相手と同じ言葉を使って一息入れたのも、レンなりの駆け引きだったのだろう。

「ここはオレに任せてくんねぇか?」

 言葉は嘆願だったが、鋭く睨みつける瞳は脅迫そのものだった。体育会系でガタイのいい円藤ですら思わずたじろぐほどの殺気がこめられた視線に、部外者のギャラリーたちすらも身震いする。

「ふふん、完璧な勝利とは言ってくれるわね」

 ただし、レンの必殺の視線も筐体の向こうに座る美織には通じない。

 と言うか、仮に円藤と位置を入れ替えたとしても、美織はいつもと変わらなかったであろう。神は人の下に人を造らず、ただ神の上に私を作ったのよと本気で信じているのが美織という困った人間なのである。

「何を企んでるのかは知らないけど……まぁ、見せてくださいって言うなら見せてあげようじゃないの!」

 第二ラウンドが始まるやいなや大胆にも無防備に接近した美織は、コンボ開始を告げる弱パンチを入れる。レンは約束通りに何もしない。操作するレバーやボタンにすら触れず、ただじっと美織のコンボを見つめた。

「ほいほいほい、っと」

 アッパーが決まり、コンボは空中へ。

「うりゃうりゃうりゃ!」

 空中でも巧みにキャラを操って、美織は次々と技を繰り出していく。先ほどと同じ動きを、まるで機械のように正確にこなしていく。

 が。

「ありゃ?」

 ほんの僅かな遅れだった。しかし、それが致命傷。空中で体勢を崩したふたりのマリアは縺れるようにして地面へと墜落する。

「ちっ、また失敗したか。むぅ、やはり練習でも成功率三割程度だと実戦には使えないわねぇ」

 まだまだ功夫が足りないわと呟く美織。どうでもいいが、それは違うゲームだ。

「てことで悪いけど、ちゃんとしたのは見せてあげられなかったわ。じゃあここから普通に勝負を」

「いや、いい。もう一回やってみてくれ」

 レンは両手を太腿の上に置き、背を凛と伸ばして画面をじっと睨みながら、美織に再チャレンジを要求した。

「もう一回って……さっき言ったでしょ、実は練習でもまだあんまり成功しないんだって。次も失敗する確率は高いわよ」

「かもしれないな」

 ふっとレンの口元が吊り上げる。

「だけどあんたが三回も失敗する確率って、オレは相当低いと思ってるぜ」

 挑発だった。

 どんなに難しくてもあんたなら当たり前のようにやり遂げるだろう、と。

 どうしてレンがそれほどまで美織のワンターン・キルにこだわるのかは誰にも分からない。ただどうしてもレンは見届ける腹なのは分かった。

 レンの挑発に、果たして美織はどう答えるか?

 皆の視線が美織に集まる。

「ふん、言ってくれるじゃないの」

 美織の表情に変わったところはなかった。

 変に気負うわけでもなく、ましてや気後れする様子なんてあるわけもなく。ただ、いつものように不敵に笑い、いつものように嬉々としてキャラを操作する。

「いいわ、今度こそ見せてやろうじゃない。よーく、見ておきなさい」

 美織のマリアが本日三度目の一連の動きを正確にトレースしていく。

 ただひとつだけ、三度目は違うところがある。

 そう、超必殺技・天降ろしが決まり、画面に派手なエフェクトが光り輝いて「1Player Win」の表示が映し出されたのだった。 

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