ノーマルエンド
海に臨んだ、断崖絶壁の上に一人の女性――我々の視点では中学生~高校生ぐらいの女の子だが、
この世界では、既に成人しているので少女とはしない――が海の向こうの大陸を見つめている。
シーンが想像できない人は、2時間ドラマの最後のシーン。犯人と探偵役が真相解明をする場所を思い描いて欲しい。
そして、ドラマと違うのは、その海の向こうに大陸が見えている点だろうか?
えっ、役者が足りないだろうって?
確かに、登場人物は1人しかいないが、役者は足りている。
実際、その女性は会話をしているのだから………自分のメガネと。
「『先生』本当にいいの?」
「……ああ。勿論だ」
「『先生』が欲しがっていた、『コピーパペット』も作れるようになったから、
『先生』の真の目的達成に向かってもかまわないのよ」
「正直、そうしたい気持ちも無くは無い…」
「だったら…」
「でも、駄目だ!
まだ、お前に対する償いが済んでいない!」
「…だから、その件なら、もう忘れて……、いや、忘れるのは無理だけど、
決して『先生』のことを恨んだりしていないから……」
「いや、駄目だ!
例え、お前が俺を許そうとも、俺が、俺を許せない!」
「いや、別に『先生』のことを許しては、いないわよ」
「すまんかった!」
「違う、違う、そうじゃない。
だって、私はあの事件で『先生』が悪いなんて全く思っていないもの。
悪いって思っていないんだから、許すも何も無いでしょう?
あっ、でもその他の件では許せない事が沢山あるわね。
例えば、父が用意していた『ドール』の効果について隠していた事とか」
「その件は、散々説明をしただろう。
あの『ドール』の効果を予め知っていると、自分の命を軽く考えてしまう輩が多いから…」
「例えば、『先生』自身のことを『喋るメガネ』だと偽っていた事とか」
「それも、何度も言っただろう。
俺自身は自分が『喋るメガネ』だと一言も言っていない。
お前らが勝手に勘違いしただけだと」
「そう思うように、誘導したくせに…」
「うっ、それは否定できんが……」
「だから、あの事件だって、そんな感じで、俺は悪くないんだって主張してよ!
『先生』!」
「……でも、俺さえいなければ、死ぬことは無かったんだぞ!
俺が殺してしまったんだ!」
「それは、違うよ!
絶対に違うよ『先生』
『先生』は殺そうなんて気持ちは全くなかったでしょ!」
「俺に殺す気があったか、どうかは問題ではない!
結果、殺してしまっているんだから」
「だって、『先生』が直接殺した訳じゃないじゃない!」
「確かに、俺が直接手を下したとは言えないが、
原因は、間違いなく100%俺にあるだろう?」
「……もぅ~!
あ~言えば、こう言う。
なんか、本気でムカついてきたわ!」
「今まではムカついていなかったとでも……」
「何か、言・い・ま・し・た・か?『先生』」
「いっ、いえ、何も言っておりません!」
「よし、決めたわ!
『先生』に罰を与えることにしたわ!」
「そうだな、お前にはその権利がある。
俺を壊すなり、お前の好きなようにしてくれ!」
「言ったわね。
『先生』が言うところの、言質をとったからね。
私が与える罰に絶対従って貰うからね」
「おう!
メガネに二言は無いぜ!
普通(俺以外の)メガネは話せないからな!」
「じゃあ、『先生』
私はこれからも冒険の旅を続けるから、
そのサポートをしなさい!」
「へっ、?」
「私が、全世界を回り終えるまでつき合ってもらいますからね。
覚悟しなさいよ!」
「……なぁ、それって今までとどう違うんだ?」
「今までは、私からのお願い。
これからは、私からの命令。
理解した?」
「えっ、今までは命令ではなかったのか?
あれっ、お願いってどういう意味だったけ?」
「とにかく、二言は無いんだよね。
もう、決定よ!
…そうそう、これから全世界を回るんだから、
『先生』もやりたいことがあったら言いなさい。
検討してあげなくもないわよ!」
「………まったく、お前って奴は……
わかったよ、その時は相談にのってくれ!」
「よし、決まりね!
さしあたって、まずは目の前の大陸に向かうとしますか!」
「そうだな、俺達の冒険はこれからだ!」
「………『先生』その台詞…… 打ち切り?」
「な、お前、その知識をいったい何処から…」
……何やらメタな台詞を発しながら、港に向かう一人ぷらすメガネ。
それから、何十年も時は過ぎ去り―――――――
とある一軒家の縁側に一人の老婆と、数人の子供達がいた。
「ねえ、ねえ、ひぃばー、お話をしてよ」
一人の子供が老婆に話しかけると、他の子供達も同様におねだりをはじめる。
「お話きかせて~」
「ききた~い」
「聞かせて、聞かせて」
老婆は、一番近くにいた、この中では一番年少の子供の頭を撫でながら、子供達に尋ねる。
「何の話を聞きたいんや?」
「え~とねぇ、れんきんじゅつしのはなしぃ~」
頭を撫でられて嬉しいのか、笑顔を浮かべて老婆に答える、最年少の子供。
「そ~うかい、そうかい。
で、どの錬金術師の話を聞きたいんや?」
「そんなの『メガネの錬金術師』に決まっているじゃん!」
「そうだよ、普通に錬金術師の話といったら、
『メガネの錬金術師』こと錬金術師マリアの話に決まってるよ!」
先ほどの最年少の子供ではなく、周りの子供達が異口同音に『メガネの錬金術師』の話をして欲しがる。
「そうやねぇ~、マリアの話は、
ぎょうさんあるし、その全てがおもろいからなぁ。
どの話がええか?」
「どらごんをたおすはなし」
「王子様とお姫様の話」
「地底洞窟探検の話」
「わるいおうさまをこらしめる話」
今度は、先ほどのように、皆の意見は一致せず、見事なまでにバラバラである。
「おや、おや、困ったわぁ~。
これじゃ、どの話をしても不公平になってまうな~」
老婆が困っていると、最初に話しかけた子供が老婆に尋ねる。
「ねえ、ひぃばー。
ひぃばーが『メガネの錬金術師』と知り合いだったって、本当?」
「え~、そうなの?」
「そんなの、初めて聞いたよ」
「本当にぃ~?」
他の子供達は初耳だったのか、驚きながらも、じっーと老婆を見つめ、返答を待つ。
「おや、おや、誰がそんな事、いうたんや?」
「ウチの母ちゃんが、小さいころに ばあば から聞いたって、話してくれたんんだ」
「あんたの母ちゃん 言うたら………、あー、あの子かぁ。
小さい頃、『メガネの錬金術師』の話を、よう聞きに来とったなぁ。
そ~いえば、話したかもしれんなぁ~」
その子の母親―――老婆にとっては孫にあたる―――の幼い頃を思い出しながら、
子供達―――老婆にとっては曾孫―――に答える老婆。
「え、本当に」
「凄ぇ、マジかよ」
「すごいねぇ~」
「母ちゃんがテキトーな事、言っていたんじゃないんだ」
目をキラキラさせて老婆を見る子供達。
まだ、知り合いだとは言っていないのに、子供達の間では、
既に知り合いだったという事になってしまったようだ。
「まぁ、ほんまの事やし、ええかぁ。
でもな、あんまり言いふらしたら、あかんでぇ~
約束できるかぁ?」
「できるよ~」
「うん、約束する~」
「やくそく~」
「解った」
「皆、ええ子やなぁ~。
ほな、ご褒美に、取って置きの話をしたる」
子供たちの目もキラキラしていたが、
それを語る老婆の目も、まるで若いころマリアと一緒に冒険した時の様に、
キラキラ輝かせながら、楽しそうに話をする。
それから、しばらく――いや、子供達の親が迎えにくるまで、話は続いた。
そんな長い話にも関わらず、一人として眠ってしまう事もなく、
迎えに来た親に、全員の迎えが来るまでは、と話を聞き続ける事を望み、
全員の迎えが揃っても、もっと話を聞きたいと子供達がダダを捏ねたのは、
話し手の老婆の話し方が良かったのか?
あるいは、話の内容が面白かったからなのか?
もしくは、その両方か?
ともあれ、老婆は曾孫たちに、話の続きを語る約束をさせられたのだった。
END №20 ノーマルエンド