第1話・夢見る少年少女
小学校の頃は、笑って言っていられた。
中学に入って笑われ、離れらるようになった。
そんな…夢物語。
自分に特別な力があるって信じてたわけじゃない。それでも僕は…
「って…ここは?君は?」
「…こっちの台詞だ。」
その日、僕の夢物語は、手の届かない彼方から一気に現実に寄り添うように近付いた。
~夢現の旅人~
…いや、うん。
昨日僕は普通に自分の部屋で眠ったはずだ、記憶はあるし。
間違っても記憶障害なんてない…筈。
なのに何で外にいて、挙げ句知らない女の子と二人きりなんだろう?
「よくこんな空間に来れたな。」
「よく来れたなって言われても…」
言われて周囲を見渡す。
よくよく見れば見知った町のような…そうでもないような?
全体的に青白く光っている気がする。
ここは何処なのか?
間違いなく僕より知っている口ぶりの目の前の女の子に向かって問いを投げかけようとして…
「いや、ちょ、剣!?」
彼女の異常な様相に気が付いた。
腰に剣のようなものを着けている、胸当てと籠手のある巫女装束…って言っていいのかなこれ?赤い袴に白い上着だけど。
額に巻いてる金属も…カッコいいけど、町中にこれでいられてもビックリだ。
「普通の反応だが、お前に言われるのは…っ!」
元々鋭い目つきの娘だけど、それでも普通に話していた筈の彼女は、唐突に眼を鋭くして剣を抜く。
直後、人型をした何かが現れた。
何か…じゃない。
僕には何となく感じるものがあった。あれは…
「迷いながら来れる場所じゃないだろう…まったく、今日は眠っておけ。」
「へ?」
状況についていけずに困惑している上、人型を魅入られたように見つめていた僕に向かって、彼女は…
剣を一閃した。
まるで見えない神速の剣が直撃して、頭に激痛。と同時に急激に意識が薄れ…
どー見ても悪そうなのあの影の方なのに、何で僕がやられたんだろ…と、結局何一つ解らないままそんな感想を最後に意識が消えた。
朝。
僕は普通に眼を覚ました。
ベッドの上で体を起こした所で、頭に鋭い痛みが走った。
「いっ…たぁ…え?」
頭痛に頭を抑えて首を捻る。
僕は寝て起きた筈だ、昨日の夜の体験が夢ならば。
けれど、頭を抑えると、痛い箇所だけ殴られたみたいに感触が少し違った。
って事は…夢じゃない?
「母さん!父さん!!」
興奮を抑えきれずに慌てて階段を駆け下りると、丁度朝食が出揃った所だったらしく、皿を置いた母さんが朝からテンションの高い僕を見て驚く。
「あら真、今日は早起きね。」
「母さん!僕昨日異世界に行ったんだよ!」
興奮気味にのままの勢いでそう言った僕を見て固まる母さん。
あぁっとしまった、それはそうだ。いきなりこんな話をされて通じる訳がない。
「えっと…夢で頭を叩かれて目が覚めたんだけど、実際に起きたら怪我してて…」
「まぁ…大丈夫?」
パタパタと寄って来た母さんが僕の頭をそっと撫でる。
痛んでいる所に触れられ、母さんも感触で気づいたのか、温めるようにそっと二、三回撫でる。
「頭をぶつけて目が覚めたのよ。大丈夫?学校行ける?」
「あ、うん。それは心配しすぎだって。」
僕は慌てて椅子に座る。
さすがにちょっと打ったくらいの痛みで休んでられない。
ちょっと打ったくらい…か。
剣の一閃で気絶したならちょっと打ったじゃすまないし、やっぱり頭を打って目覚めただけなんだろうか?
…いやいや、あの娘が丸々僕の妄想って言うのもそれはそれで無い…よなぁ?
昨夜の女の子の街中にいるにはあまりに派手で異常な姿がはっきりと思い出せるけれど、現実での見覚えどころか、漫画でも同じ服装の娘は見た覚えがない。
好みの女の子…っていやいやいや、好みの女の子に頭殴られて目が覚める夢を見るほど変な趣味は無い。
「本当に大丈夫?」
「あ、うん。いただきまーす!」
考えに耽った上にいきなり首を横に振ったのを心配したのか、不安そうな母さん。
僕は笑顔で頷き返すと、振りきるように朝ごはんを食べ始めた。
考えてる場合じゃない、とりあえず学校行かないと。
とは思うものの…やっぱり気になるなぁ。
夢じゃなきゃあり得ないような世界に格好の女の子、でも夢とは思えないような記憶に残る感覚。
相反する感覚についてずっと考えながら歩いていると、気が付いたら学校についていた。
回りの喧騒もそっちのけで結論なんて出ないのにずっと考えながら二階の自分のクラスに向かう。
そして、クラスの扉に手をかけた所で…
「姫野。」
背後から、女の子に声をかけられた。
声だけで全員分かるほどクラスメイトに詳しいわけじゃないけど、少なくともこんな声をクラスで聞いた覚えも無い。
そもそも女の子の知り合いなんていない。
だからクラスメイトですらない娘に声をかけられるなんて思ってなくて…
振り返ると、鋭い目つきの女の子がそこにいた。
少し硬直。
よくよく見れば、服装こそ普通の制服だけど、朝からずっと気になって思い返していた昨日の夢で見た姿そのままの…
「ぁ…あぁーっ!!!」
夢じゃなく現実と繋がった。
朝の興奮が蘇った僕は、慌てて彼女に駆け寄ってその両肩に手を…
伸ばした瞬間、お腹に衝撃。
両腕でお腹を抱えて崩れた所で、彼女に拳を叩き込まれたのだと気が付いた。
「づ…ぶっ…」
「いきなり女生徒に掴みかかるな、相手次第では捕まるぞ。」
痛みに身もだえ崩れた僕を前に、呆れたような彼女の声が届く。
確かに男子が女子に掴み掛かった、何て褒められた話じゃないんだろうけど…さぁ…
呼吸がおかしくなる強打を放り込んで言う台詞じゃないでしょ…と思いながらも、そんな文句すら口にする余裕がなかった。
魔法剣士になる。
いつも言っている通りに進路指導でそう書いて、居残りした挙げ句反省しないまま、結局遅い時間になって帰らされた。
家に帰ってからはいつも通り、ノートに纏めている自作の『六芒魔法』について編集を進めて…
夕方になるまで続いた先生の説教がちらついて身が入らなかったから、振り払うようにして眠った。
「昨日変わった事があったとすればその進路指導と、白兎さんに会ったことくらいだけど。」
ゆっくり話がしたいと言う彼女…白兎稔さんと約束をした放課後、僕は人通りの少ないベンチに彼女と並んで腰掛けて、昨日あった変わった事について話をした。
別のクラスの同学年だったらしく、白兎さんの方は僕の方を知っていた。
それはいいんだけど、それにしては…
「笑ったり、馬鹿にしたりしないんだね。」
ずっと真剣に話を聞いていることが不思議で思わず自分からそう口にしてしまっていた。
魔法剣士になりたい。
こんな馬鹿なこと、中学二年となった今でも言ってるのは僕位だ。
言えば言うほど周囲の皆は笑い、馬鹿にされてきた。
当然、まともに友達と言える付き合いも無くなったし、大半の人には『厨二病』扱い、悪気が無い人からも『変な奴』で定着している。
白兎さんみたいな厳しそうな娘だと、下手したら怒りさえするんじゃないかと思ったんだけど…
彼女は、あくまでも真剣な表情のままだった。
「そうも言っていられない事情がある。」
「事情…それが、昨日の?」
夢、では無いんだろうし、現実とも言いがたいあの世界。
どう聞いたらいいのか解らないまま『昨日の?』で片付けるしかなかったのを察してくれたのか、白兎さんは小さく頷いて話を始めてくれた。
「昨日お前が来たのは、『練想空間』と呼ばれる意識のみの空間だ。」
「う…ん?」
普段から魔法剣士になると言っている手前、何言ってるの?何て失礼な事は言えなかったけど、真面目な顔で言われてもよく分からない話だった。
「いきなり全部話しても入りきらないだろうから、今重要な所だけ話す。素直に聞いておけ。」
「…分かった。」
そもそも、昨日白兎さんと出会ったその練想空間とか言う場所も、そこでの出来事も現実離れした代物だ。
理解じゃ無くて、そういうものだと聞いておくほうがいい。
横槍を入れるのは避けることにして頷くと、白兎さんは続きを話し始めた。
「物体とは別だが、練想空間は実在する意識の空間。お前は無自覚のまま昨日あの場に居た訳だが、練想空間で消滅すると、最悪二度と目覚めなくなる。」
「いっ!?死ぬの!?」
異常事態を真面目に話す白兎さんだけど、その理由はよく分かった。
二度と目覚めないって、それは洒落になってない。
「植物状態…って解るか?寝たきり人間だが…要は、肉体が生きてる状態で意識が消しとんで、そんな感じになるんだ。最悪の場合だがな。」
「うわぁ…」
知らない男子に声をかけて連れ出す人には見えなかったけど声をかけてくれる訳だ。
さすがに死んだら冗談じゃすまない。
「本来私やお前のように完全に練想空間を動けるのは珍しいから、そんな消滅のリスクもあまり無いんだが…お前も覚えているな?あの人型を。」
「あ…うん。」
「練想空間には『惑意』と言う、ああいう歪んだ意識の塊のようなものがいるんだ、人の悩みや苦しみ迷いなどから生まれ、正常な意識を潰しに来る厄介な代物がな。」
練想空間で消えるイコール意識の消滅。
普通の人は意識丸々練想空間に行かないけれど、僕は行った。
で、練想空間にいると人の悪い意識の塊である惑意に襲われる。
「練想空間に行ける人は珍しいから、協力して惑意を倒そう!…ってこと?」
「調子に乗るな、ただの一撃も避けられない魔法剣士が。」
「だ、だよねぇ…言ってみただけ。」
印象通りに厳しいらしく、僕が協力と言った瞬間バッサリと一言で断ちきられた。
昨日目が覚めた時だっていつの間にか叩かれてたって感じだった。あんなに実力差がある状態で協力なんて物事を甘く見てるにも程がある。
「でも、来るなって言われても昨日はいつの間にか居たし…」
「型無きモノ…論理を外れたモノを強く信じる。それが、練想空間に辿り着く要因なんだ。つまり…」
「諦めろって事?」
先走ることにはなったけれど、僕は白兎さんを真っ直ぐに…拒絶する気で見た。
僕がそんな風に意思を示すのが意外だったのか、白兎さんは少し驚きを見せた後で小さく笑った。
「嫌なら選択肢は残り二つだ。訳もわからず練想空間で惑意に消されるか…」
残り二つと言っておきながら物騒極まりない事を言う白兎さん。当然僕は首を横に振る。
「私と修行するか…だ。」
続けて示された最後の選択肢に硬直する。
一瞬理解がついていかなかった。
えーと…修行?白兎さんと?
「嫌なら一人で惑意に消されるか、魔法剣士とやらを諦め練想空間を避けるか…それとも、一人でなんとかできると思ってるのか?」
「そっか…そうだよね。」
丁寧に状況を説明し直されて、僕はようやく頷いた。
選択肢がそれくらいしかないんだ。
そもそもなんで練想空間にいたのかすら知らなかった僕が、自力であれこれ対処できるわけがない。
「わかった、よろしくね白兎さん。」
「あぁ。」
形はどうであれ、魔法剣士になりたいなんて話を否定しないで付き合ってくれる人に初めて会えた。それを喜んで、ふと思う。
「形のない、論理的じゃないものを信じるのが条件って言ってたけど…白兎さんは何で練想空間に?」
仲間…と言うには新参過ぎる身だけど、これから同じ道にいるのなら聞いてもいい筈の質問。
僕は魔法剣士になろうと六芒魔法を編集してたりしたからなんだろうけど…そうなると、とても似つかない彼女が気になる。
白兎さんは少し言い淀んで…
「…神様に成りたいんだ。」
躊躇いがちにそんなとんでもない事を言った。
「え、それ本気で…あ。」
素直な感想を言いかけて地雷だった事に気づく。
僕だって普通に考えたらありえない願いの結果練想空間に来たんだ。
白兎さんが受け入れてくれて嬉しかったのに、僕の方がこんな事を言ったら…
「お前にだけは…言われる筋合いはないっ!!」
「ごめ…あったぁっ!!!」
案の定、恥ずかしさか怒りかで頬を少し赤くした白兎さんが僕の頭に拳を振り下ろした。
目の前がチカチカしそうな一撃を受けた頭を押さえながら、言葉も出せなくなって内心で謝りつつも、神様って短気で人殴ってもいいんだろうか?とか、言ったらまた殴られそうなことを思った。
で…
「は…ちょ…はぁ…まっ…」
「待てるか。」
いきなり修行とか言って走らされている。
修行するって話だから解るんだけど…
いきなり1Kmダッシュは中学生…と言うか人間のする事じゃない、絶対。
崩れ落ちる僕の前で溜め息を吐く白兎さん。
同じ距離を僕が走り出したのを見てしばらくしてからあっさり抜いて先回りした結果だけに、口だけなんて間違っても言えない。
「魔法剣士になると言う割にろくに体力もないのか…ある意味凄いな。」
「ば…かに…するなら…褒めなくて…」
息絶え絶えの状態で、馬鹿にするならいっそ気を使わないで欲しいと訴える僕に対して、白兎さんは特に否定も肯定もないまま話を続ける。
「型無きモノを信じる力で練想空間に行くと言ったろ?私は修行を重ねて人外の域を目指した結果辿り着いたが、長く強い信仰心等でもいい。」
「僕は…後者な訳だね。」
さすがに息だけなら少し休めば落ち着く。
とは言っても体は疲れたままなので、ぐったりと地面に崩れた体勢のままで確認すると、白兎さんは頷く。
「だが、言い伝えや伝承のある神話等と違って、お前は自分で考え纏めた型無きモノへの思いで練想空間に来た。しかも本人は軟弱な癖に…だ。余程強く思わなければこうは行かない。」
ある意味凄いと言われた訳がわかった。
『現実的に考えて無理だ』とか、誰にどう言われても折れない意思が無ければ、或いは疑い無く信じるだけの下地が無ければ、練想空間に行き辛いんだろう。
修行なら実際の身体を鍛えあげていくわけだし、神話なら語り継がれてる。
僕本人は精神的に白兎さんから見て軟弱者だし、僕だけが一人で練った六芒魔法は、誰に語り継がれてるわけでもない。
その状態で練想空間に辿り着いた事を凄いと言っているんだろう。
「なら身体は鍛えなくても良くないかな?」
「魔法使いならな。剣を振るうつもりなら却下だ。」
僕の弱音はあっさりと一蹴される。
でもまぁ…
「そうだね…」
しょうがない。
白兎さんはかかってるのは僕の命なのに付き合ってくれているんだ、必要だって言うなら頑張らないと。
「軟弱者は訂正しよう、身体が付いてくるまで頑張ればな。」
「はは、ありがと。」
立ち上がった僕を見て楽しそうな白兎さんに乾いた笑いを返した僕は、再び地を蹴った。
その後…
「で…も…オーバーワークって…無かったっけ…」
立つのも嫌になるくらいまで走ってさすがに文句を言う。
「論理を外れると言ったろ?限界値を地道に引き上げることに意味がある。しばらくはこの調子で頑張れ。」
「あ…そう…」
けれど、白兎さんにしてみればここまでやって地道らしい。
笑ってそんな事を言われた僕は、起きる気にもなれず目を閉じた。
それから一週間…あの最初の一回以来行ってない練想空間。
いい加減夢だったんじゃないかって半分、でも体力ってすぐにはつかないしなぁ…って自分の根気の無さを疑うのが半分。
そんな気持ちになった夜…僕は練想空間にいた。
あまりにも不思議な空間、パジャマで寝たのに制服、そして…
眠っている自分。
意識だけが抜け出たとか言ってたっけ…幽体離脱みたいなものなのかな?
それで扉触れるんだろうかと疑問に思ったけど、問題なく開けた。
「早いな、さすがだ。」
「え?あ、うん。ありがとう?」
家の外に出ると、白兎さんが微笑んでいた。
なぜ誉められたのかわからないままお礼を言う僕に、彼女は説明を始める。
「真威…澱み無き意思の力。この空間に来るのには並外れた真威がいる。」
意思の力…最初にここに来れてここ数日来れなかったって言う事は、意思の力が弱かったって…
「あ。」
「気づいたか。嫌になるほど走った身体で…限界と戦うことで消耗した真威で、ここに来れなかったんだ。」
白兎さんの説明に納得しつつも、生身とは関係なかったんじゃないかと疑問にも思う。
「現実は物理法則に左右されやすいが、意思の影響がない訳じゃない。心霊現象も惑意の塊が起こす物なんだ。」
「歪んだ意思の塊…だっけ。」
「あぁ、だがネットワークなんかができて物理法則を越える話を一蹴する連中が増えた結果、現実と別に出来上がったのがこの練想空間だ。『この物語はフィクションです』…とな。」
実際に人間には意思があるし、心霊現象みたいに意思の力が引き起こす現象もあるのに、『そんなもの現実にはない』と思う人が増えた結果、人の意思が反映される真威や惑意だけの空間がこの練想空間なんだ。
「さて…と、おしゃべりはここまでだ。」
「へ…うわっ!」
唐突に話を切った白兎さん。その身体が淡く光ると、制服からいつか見た巫女服に鎧をつけて剣を腰に着けた姿に変わった。
そう言えば制服で会う事が多かったから制服なのになんの違和感もなかったな。
惑意とか言うのがいるからここでは戦う態勢の方がいいんだ。
「え…と、ど、どうすれば?」
ここでの消滅は最悪意識の消滅。だから鍛えてくれるって話の筈。
ここで何をどうすればいいのか聞いてなくてただ走ってただけの僕は困惑したまま白兎さんに問いかけて…
「知らん。」
知らないとあっさり返された。
…はい?
あまりにもあっさりと返されて、それがどういう事か受け入れるのに少しかかったけれど、気づいた僕は…
「い、いやいや待って待って!!最悪死ぬんだよね!?」
大慌てで白兎さんに泣きつくように答えを求めた。
怪我とか痛いで済むならここ一週間頑張った。けど、ここまで来て『知らん』ってあんまりだ。
けれど、白兎さんは特に驚くでもなく話を続けた。
「お前の望む魔法剣士が何をどう扱うものなのかを知らない。言っただろう?真威を使えと。お前がここに至るほど強く想い描いた力をその通りに使うんだ。使えるものだと信じてな。」
白兎さんの説明にようやく知らないと言われた訳が分かる。
確かに、僕は纏めた六芒魔法のノートとか見せたりした訳じゃないし、僕の真威なんて白兎さんに分かる訳がない。
彼女が人の域を超える事を望んでいるように、僕も僕の望みを力にしないといけないんだ。
と、周囲に目をやる白兎さん。
僕も一緒に見回すと、なんか栗みたいにトゲトゲしたのに怖い目のデフォルメが張り付いたようなのがたくさん近づいてきているのが見えた。
…死ぬって割にはいきなり気が抜ける可愛さだけど、なんだろこれ。
「大して強くない迷いや悩みから出る惑意だ、大体があんな形で出る。病院のウイルスのデフォルメイメージが反映されているんだろうな。数は多いが雑魚だから私が引き受ける。」
「あ、成る程…」
確かにテレビやポスターのそれにそっくりだ。
単に『悪い意思』って程度で具体的じゃないとこんな感じになるのか。
「お前の望む魔法剣士、ここならなれたも同然だ。少し護ってやるから理想通りにやってみろ。」
振り返った白兎さんが笑って言った直後…
消えた。
いや、滅茶苦茶な速さでウイルスに斬りかかったんだ。
剣速も竹刀振ってるみたいに速い。金属にしか見えないのに。
人の域を超える事を望んで鍛錬してきた白兎さんの、練想空間での力…確かに、なろうとしているものの通りに力を発揮してる。
『ここならなれたも同然だ。』
…よし。
六芒魔法の起点となる、六芒星を宙に描く。
出来上がった陣に掌を当てるようにして…
「ライズ!ブレイズリッパー!!!」
握り潰すようにして腕を引いた瞬間、僕の手には思い描いた通りの炎の剣が握られていた。
…本物…いや、僕の本心の産み出した力。
ううん、何でもいい。今はなんだっていいっ!!
僕が作った魔法を剣を!僕が扱えるんだっ!!!
「白兎さん!どいて!!手早く片付けるから!!」
「何を…って凄いな、本当に魔法の剣じゃないか。」
僕の準備が整うのを待ってウイルス達を押さえてくれてたらしい白兎さんに声をかけると、一瞬睨まれた。
当たり前だ、魔法剣士になりたいと言っておきながら普通の特訓なんて無に等しかったんだ、白兎さんを前に『前衛をやらせろ』何て偉そうなこと言う気はない。
けどこれは、魔法剣。
「…まぁいい、フォローはするから少し使ってみろ。」
慣れないといけないと思ったのか、僕の隣まで下がってくれる白兎さん。直後、戦っていた数十のウイルスがこっちに向かってくる。
あんな数に囲まれないようにしながら立ち回ってたのか、本当に凄いな。
初めはやっぱり修行の邪魔になるだろうけど、剣も教わろう。
それに、練想空間でなら…後衛としては役に立てる!!
僕は手にしていた炎の剣をウイルス群の中心向かって放り投げて…
「ブレイズバースト!!!」
剣に対して握り拳を開きながら腕をつき出した。次の瞬間…
光り砕けた炎の剣は、それと共に周囲の地面に広がり一帯のウイルスを炎が包み込んだ。
想定より範囲が狭い、真威って言う僕の意思の力が弱いのかな?
身体なんて鍛えなくてもいいとか生意気だったな、あとで謝らなきゃ。
「これは…お前、大丈夫か?」
白兎さんが僕に何故か心配そうに声をかけてきた。
え?何が?
と、返したつもりだったけど何故か何も言ってなくて…
僕は何故かまた、白兎さんに剣で殴られた。
「ま…と…真!」
「ぅ…ん?」
揺さぶられる感覚がして起きると、母さんがいた。
なんだか頭が重い。
「最近魔法のノートも開かないし、帰りも遅くなってずっと辛そうだし…何かあったの?」
起きても反応が鈍い僕を心配したのか、しきりに言葉をかけてくる母さん。
まともに言葉を返せる頭が働かない僕は、『何かあった』に頷きつつも笑みを返した。
何かはあった、そしてそれは良いこと。
「調子が悪いなら学校お休みする?」
「ん…行く。」
答えて僕は身体を起こす。
動かしてもさほど身体は疲れてないのがわかるとだんだん意識もしっかりしてきた。
ピンポーン。
唐突に、朝にしては珍しくチャイムがなった。
母さんが慌てた様子で駆けていく。
野次馬根性、じゃないけど…昨日の様子からもしかしてと思った僕は急ぎ目に制服を着て階段を降り…
「学友の白兎稔です。姫野君は起きてますか?」
「白兎さん!」
誰か、自体は予想通り白兎さんだった。けれどそもそも、まさかうちに来るとは思っても見てなかった。
玄関で扉を開いた母さんの声を待たずに僕が声をかけると、母さんは僕と白兎さんを見比べて驚く。
「まぁ…お友達?」
「師匠って所。凄い剣の達人で、最近訓練厳しくてバテてたんだ。疲れてはいるけど心配しないで。」
「師匠…」
体調が良くなくても大丈夫。と言う理由を説明したくてそうなった。
母さんはそれでも少し訝しげに白兎さんを見る。
「母さん!」
「そう…稔ちゃん、朝御飯は?まだなら」
「いえ…と言うか、学校に行くならあまり時間もないと思いますが…姫野は大丈夫なのか?」
遠慮しつつ時間の心配をして僕に問いかけてくる白兎さん。話を振られてようやく気づく。
わざわざ部屋まで入ってきた母さんに起こされたくらいだ、あんまり時間はない筈。
「ご、ごめん!摘まめるものだけ摘まんでくる!!」
僕は取り急ぎテーブルに向かって駆け出した。
余裕は無いんだろうけど…抜くのは最近沢山動いてるからお腹空きそうだしね。
「しかし…過保護と言うか至れり尽くせりと言うか…」
「ムグムグ…僕もそう思う。」
出掛けに貰ったおにぎりを飲み込んで、僕への厳しさが混じった白兎さんの言葉に同意する。
摘まめるものをと言った瞬間母さんも戻ってきて、並べてあった魚とご飯をパパッとおにぎりに変えてくれたのだ。
その間に野菜だけ食べといたから栄養はバッチリ!
…なんだけど、朝起こされて用意したものわざわざもう一手間加えてくれて、本当に至れり尽くせりと言われても仕方ない。
「心配かけるだろうな、どう見ても不良のように目付きの私と一緒で疲れたり靴下が血に濡れたりすれば。」
「え、何で靴下が血に濡れてるって分かったの?」
言われて思い出すと確かに、脱いだ靴下を見れば血に濡れてたのは洗濯の時に分かってる筈だ。母さんが僕の出血まで見て調子悪そうにしてれば心配しないわけがない。
そこまでは分かったけれど、白兎さんは何でわかったんだろ?
と思ったけれど、疑問はすぐに解消される。
「あれだけ走れば豆も潰れる。お前は熱意の割に弱虫だからな、痛がってる時が見ていればすぐわかる。」
「う…成る程…」
白兎さんが傍目に見てて分かる位ボロボロじゃ、母さんなら心配するに決まってるか。
「白兎さんは…学校での僕の扱い知ってるでしょ?」
「あれだけ騒がれていればな。厨二病とか言われてるやつだろう?」
この年にもなって何言ってんのと笑われ、それでも大真面目に描いてきて離れていき、一人になって。
不登校にこそなってないけどずっと元気とはいかなかった。
「それでも…って練想空間まで行ったわけだけど、やっぱり途中落ち込んだりもして。だから、母さんちょっと警戒が過ぎるんだ。嫌な気分にさせてたらごめん。」
「心配と言う言葉を正しく使えてる良い方だと思うぞ、私じゃなく母君に気を使ってやれ。」
「…ありがとう。」
母さんに警戒されてたのは感じた筈なのに、その母さんの事を褒めてくれる白兎さん。
母さんも母さんで僕の事を思っての対応な訳で、そう言って貰えると素直にありがたかった。
「で、昨日の話だが」
「あぁーっ!!!」
真剣な表情になった白兎さんの声を断ち切るように入ってきた叫び声。
僕はその声に…よぉーっく聞き覚えがあった。
振り返ると同時、背後から駆けて来たその人影は僕の頭を左腕で抱えて軽く締めて来る。
「てめっ…厨二病こじらせてる地味オタクの癖に女連れで登校とは良い度胸だなえぇ!?」
「白兎さんはそんなんじゃないから!いきなり割って入ってきて失礼な事言わないでよ!!」
小学校以前からの縁がある須佐守雄。
友達じゃ…一緒に遊ぶような仲じゃないと言うのは間違いないけど、それは僕の魔法剣士『ごっこ』を流して、普通にカラオケやスポーツをやってるような中学生だからで、僕をからかったり避けたりはしてない奴。
そして…ある意味そっちの方が正しく中二病なんじゃないかと思う位…彼女を欲しがったり、エッチな雑誌を読んだりしてる。
私生活部分が違うけど、学校行事や勉強なんかでは普通に交流のある小学校以来の知り合いだ。
「何だよ、珍しく怒るな?マジで脈あり?」
「そう言うのと白兎さんを一緒にされたくないんだよ…真面目で優しい、戦女神みたいな人なんだから。」
守雄に白兎さんについてつつかれて、女の人の水着写真みたいなのが写ってる雑誌を重ねられてる気がしてちょっと怒ったらしい。自分で気づいて少し驚いた。
けれど、勝手に白兎さんにイメージを押し付ける気がしてきた。
これで『彼女に向かなくて悪かったな!』なんて怒らせてたらどうしよう…
「話の続きは放課後だ、死にたくなければ一人で来い。」
「え、あ…」
守雄に気をとられてる間にさっさと先に向かった白兎さんは、それだけ言って振り返りもせず行ってしまった。
それにしても、死にたくなければって…やっぱり怒らせちゃったかな…
「しっかしお前…あの白兎稔はやめとけって。」
「あの…って?」
「昔幼馴染を病院送りにしたって話だぜ?話に尾ひれが付いてるにしたってあのおっかない態度だし」
自分で聞いておいて悪いのは分かってたけど、僕はつい守雄を引き剥がすように突き飛ばした。
からかうつもりで軽く抱えていた腕はあっさり剥がれ、突き飛ばされた守雄は僕を驚いた様子で見る。
「ごめん…でも、白兎さんは悪い人じゃない。話を聞いただけの守雄より、それは僕の方が良く分かってる。絶対に。」
僕の言葉を聞いた守雄は、怒るでも責めるでもなく、困ったように自分の髪を掻き分け頭を抑える。
「…お前気の強い方じゃない筈なのに、なんか妙な所だけ毎回意地張るよな。先生に夕方まで説教食らっても魔法剣士になりたいなんてマジで言ってるし。」
そこまで言って、守雄は笑みを見せた。
「ま、逆に言えばそれ位には信用したい奴だって事だな。わーった、軽口は悪かった。でも、堅物が過ぎて注意しようとしたら怪我させた…とか、悪い奴じゃなくたって何かはあるかも知れねぇし、気にする所は気にしとけよ?お前はただでさえ夢見て損ばっかりしてんだからよ。」
単純で素直すぎる。
僕は度々守雄にそう評されるけれど、確かに今守雄が言ったみたいに『悪い人でなくても起こった何か』についてはまったく想像もしないまま怒ってしまっていた。
それに…
「ごめん、ありがとう。」
その単純さで、一応は僕を気遣ってくれてた守雄を怒ってすぐさま突き飛ばしたのは僕が悪い。
だから謝って、お礼を言った。
だけど、直後にはもうふざけた軽い笑みを浮かべて自信満々に腕組みしている守雄。
「ふふん、白兎とイチャイチャしたくなったら俺に相談するがいい。お子様なお前に一足飛びに大人のテクニックを」
「だーかーらー!!!」
「冗談冗談!」
割と真面目に抗議しようとする僕から逃げるように駆け出す守雄。
うぅ…自分で『注意で怪我させたのかもしれない』とか言っておきながら変な想像するような話振ってかないでよ…
この後白兎さんと会うのにこの会話絶対思い出さないようにと心に決めて、僕はさっさとこの会話を忘れる事に決めた。
と言うわけで、慣らしから大分経ちましたがようやく始動…
知名度他ほぼ皆無なので問題ないとは思われますが、万一作者が動き出すのを待たせてしまっていた方がいらしたなら申し訳ないです(汗)
こんな『予定は未定』なペースになりそうですが、途中で投げる事だけはしないつもりなのでよろしければ覗いてやって下さい。




