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降り積もるように

 ほどなくして犯人の居場所が特定された。場所はロシアで、国をまたいだ事件となった。

 国分医師に届いたピンクの便箋はご丁寧に切手には唾液、封筒や写真などには指紋がびっしりとついていた。そしてその指紋と唾液の持ち主はロシアに留学中の国分の妹だった。

 そして場所は特定されたが、ロシアの日本大使館が入った所、すでにもぬけの殻だった。


 白川は面倒くせなぁ面倒くせなぁとぼやきながら椅子に座って頭を掻いた。

 今回の事件の発端は極秘の機動隊からであり、それが医師の自殺につながり、さらにはハッキングと国をまたいだ事件でさらに犯人が逃走中ということもあって、捜査はかなり手続き的に時間がかかりそうだった。


 「まぁ・・・もう俺達が何もすることないんだけどな。」


 白川は会議室でロストナンバーズ全員を集めてその後の捜査のことを話した。

 話せば話すほど謎は雪のように降り積もるようだった。


 「本当に、自殺だったんでしょうか・・・。」


 大村はぽつりと呟いた。


 「確かに自殺の間際に『死にたくない』って言ったのよね?なんで死にたくない人が拳銃自殺しなきゃいけなかったのかしらね・・・。」


 大村の言葉に川内が付け加える。


 その時、会議室の電話が鳴った。側に居た白川が受話器をとる。すると顔色が蒼白になり、急いでジェスチャーで川内に何かを伝えていた。恐らく逆探知の指示を出しているのだろう。

 白川が受話器越しの人物と話していると、白川が渋々電話をスピーカーに切り替えた。

 ロシア語がスピーカーから流れた。そしてすぐに日本語になった。どうやらボイスチェンジャーを電話口にあてて話しているようで、妙に甲高く機械的な声が会議室に響く。


 「はじめまして。それとも久しぶりかな?私は国分センセイの妹です。そして、この一連の犯人です。」


 スピーカーから流れる女性の声は友だちと話すような気さくな感じだった。それがさらに異様さをまして、会議室はどよめいた。


 「みなさん、びっくりしたでしょ?信頼してた先生が変態で、さらにはお医者さんが絶対やっちゃダメなことしたんだもんね。」


 それはおそらく遺体安置所と大村の件だろう。

 会議室に居るものは皆、ざわめくものの、何も言えなかった。

 そして妹の国文美春の独白は続いた。


 「私、小さい頃、受験勉強でストレス溜まった姉にひどくいじめられたの。でも私、お母さんの連れ子だったから、お母さんは私がいじめられたの知ってたのに、義理の父親に嫌われるのが嫌でずっと黙ってたの。姉も姉で、気づかれにくいところをつねってみたいり、真冬に冷水のシャワーを浴びせたり・・・。ほんと、あのころは酷かったな〜。それから姉が大学合格して、家から出て医者になって・・・。その間、私はずっとあの女を恨み続けてた。義理の父でもなくお母さんでもなく、あの女が全部悪いの。だから、私の恨みはずっとずっと深くて、もうすんごく真っ黒!」


 国分医師の過去を知った隊員達はもはや言葉もでなかった。あんなに優しくて気遣いのできる医者の鏡のような人だったと彼らは思っていた。


 「あの人、医者になって何年かしてから私に会いに来たんだ。その時私はまだ日本の大学にいたの。そうしたら、あの女、まるで自分が聖人君子みたいな気分で私に話しかけてくるの。でね、『あの時はごめん。年も10歳くらい離れてたからさ、あなたのこと人間に見えなかったの。』私、ニコニコ聞いてたけど、心に溜まっていたどす黒いものが雪崩みたいに壊れていったの、本当に。あの時はショックすぎて頭のなかが真っ白になったなー・・・。こいつ、本当に絶対反省してねーなって、ね。それからかな、復讐するために頻繁にロシアに留学するようになったの。」


 「ラスプーチン・・・。」


 会議室の沈黙を破り、川内が呟いた。


 「そう、実際に私が手を汚さす相手から勝手に死んでくれる方法を探しまくったよ。で、たどり着いたのが希代の魔術師ラスプーチン。」


 「ラスプーチンって、ナニがでかいだけじゃないんだ。」


 わざとらしく白川が茶化す。


 「さぁ、それはわかんないけど、探しまくってラスプーチンの秘術の書を見つけたの。そんで、術を使いながら、同時に脅してあの女の精神を削りまくって、最後に愛する妹のくれたぬいぐるみを抱きながら死ぬよう操ってみたの。」


 「ちょっと待て、じゃあなんで遺体安置所の写真があるんだ?」


 白川は疑問を国分医師の妹に問いかける。


 「簡単な催眠術だよ。遺体安置所に自分でカメラ設置して、自分で遺体安置所で遊んでる写真をとって、その写真を私宛に送る。本人は無意識のうちにやってたから、本当に自分が変態で誰かに写真撮られてたと思ったんだろうね。バカだよねー。メールでも毎日あの女の変態な写真送ってあげたしね〜。」


 国分医師の妹は楽しそうに無邪気に笑う。


 「もちろん自殺に関してはなかなか難しいけど、相手の精神が削られた上に警察に追われてストレスマックスになったらもう私のお人形同然。あとはトリガー引かせればいいだけ。カメラ入りのぬいぐるみ抱かせたのは、あの女が死んだ時にこっちからPCハッキングしてメールの内容全消しするため。あー本当に何もかもうまくいってよかったー。」


 まるで遊園地で遊び終えて満足した子供のようなため息がスピーカーから流れる。


 「ちょっとまって。」


 そこに川内が割り込んでくる。


 「なんで大村を標的にしたの?」


 その問に国分の妹はスピーカーの奥で沈黙する。そしてようやく答えた。


 「んー・・・、その大村って人、一番信用されてなさそうだったから?」


 この言葉に一番最初に激怒したのは川内だった。川内の能力のリミッターが外れ、全身が艷やかで太い毛に覆われ始めた。


 「やばい!川内捕まえろ!鎮静剤打て!」


 川内は嗚咽とも雄叫びともつかない声を上げながら、耳が尖り、牙と爪が伸び始めた。白川の言葉に、川内の横に居た屈強な隊員たち数人が川内を捕まえ会議室から出て行った。

 川内の暴れ様に、当の大村は一番驚いて目を丸くした。


 会議室が一段落すると、白川は改めて国分の妹に問うた。


 「どうして大村なんだ。」


 「本人がまず自信持ってないしー、みんなから嫌われてるしー、そういう奴の話ってみんなあんまり真面目に聞かないじゃん。」


 大村は国分の妹に自分のネガティブな部分を的確に言われ、ただ静かにはらはらと泣いていた。


 「まず最初は問題なさそうな奴で実験して〜、それから徐々に数を増やそうっておもったんだけど〜」


 実験とは、恐らくSPDOから支給される薬に生理食塩水を混ぜて薄め、覚醒しないようにするためだろう。


 「すぐばれちゃった♪」


 国分の妹は楽しいイタズラがバレた子供のように無邪気に言った。

 今更ながら大村の大切さを知った隊員たちは国分の妹に対して怒りを禁じえなかった。

 白川は眉間を揉みながら苦い顔をしている。


 「そうそう、逆探知とかしてると思うけど、その場所に本当に私がいるかなー?」


 そして電話は切れた。


 しばらくして隊員たちの国分の妹に対するヤジや怒りで会議室は大荒れとなった。

 その中で、ただ静かに大村は何かを思うように泣いていた。


 

 

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