from Russia
白川から聞いた場所へ大村は向かった。
運良くまだ家宅捜索は終わっていないようだった。大村は白川に教えられた所属名と警察手帳を見せ、手袋をはめて、靴を脱ぎながらビニール袋状の袋を足に履いた。
既に鑑識の捜査は終わっていたようで、所轄の刑事たちがメモを取りながらいろいろと物色していた。
「いやしかし、医者なのにこんな趣味なのか、医者だからこんな趣味なのかわからんが、とにかくいい気分じゃないな。」
そう言いながら話し込む男性の刑事たちが二人で写真を見ていた。大村はその話が気になり刑事たちに事情を説明して写真を見せてもらった。
それは病院の遺体安置室で国分医師が裸になって恍惚の表情で遺体の上にまたがっている写真だった。
思わず大村は写真から顔を背けた。刑事たちも大村の反応はおおよそ予測していたのであろう。
大村はショックを受けつつも、刑事たちに混ざって部屋を捜索した。そして彼女の書斎の机を開けてみると、大量のピンクの封筒がぎっしりと詰まっていた。
その異様さに、思わず大村は冷や汗が背中を伝うのを感じる。大村は封筒の一枚を取り出して送り先を見る。海外郵便でロシアから届いているようだった。送り先の人物の名前は書かれていない。
封が切られた封筒を恐る恐る開けると、その封筒にはやはり先程刑事たちと見たような写真が一枚と便箋が入っていた。
大村は写真を伏せ、中の手紙を読んだ。手紙の真ん中に一行だけ日本語で文字が書かれている。
『絶対に許さない』
写真もそうであるが、手紙に書かれた一行だけの文章に怨念と恐怖を大村は感じた。
おそらく机の中の封筒全てが同じ内容ならばと思うと、なお一層送り主の異常などす黒い思いが嫌でも大村に伝わってきた。
大村はいつのまにか額に汗をかいており、ハンカチで丁寧に汗を拭った。
机に写真と封筒を置き、大村はしばらく強く目を閉じ頭を振った。それから深呼吸し、送り主の負の気に負けないよう自分の心を落ち着かせた。
やがて大村は冷静さを取り戻す。
国分先生に宛てられた送り主のないロシアからの封筒。
もし大村は自分が国分先生なら、こんなおかしな封筒をずっと保管せず、せめて写真だけ抜いて警察に届けるはずだと考えた。
しかしなぜ国分先生がそんなことをせず、大切に机の中に保管していたのか・・・。
それはおそらく国分先生の知り合いであり、彼女が絶対に告発したくない相手なのだろうと大村は推測した。
そしてその相手とは、おそらく彼女の妹だろう。
あんなに妹からもらったクマのぬいぐるみを嬉しそうに自慢した国分先生と妹さんとの間に何があったのか、大村にはまだわからなかった。
ふとそのとき、大村のスマートフォンが鳴った。相手は白川だった。
「大村、さっき鑑識から連絡があって、クマのぬいぐるみに盗聴器と隠しカメラが仕掛けられてた。おそらく俺たちや国分先生を誰かが監視してたんだろうな。」
その白川の言葉に、大村は確信する。
「・・・妹さんが、そうしたんだと思います。」
「そうか・・・。」
大村の力ない言葉に白川もため息混じりに答えた。
「おそらく裏で糸を引っ張っていたのは妹さんだと思います。国分先生の弱みを握って、何らかの報復が目的ではないかと思います。」
「報復?」
「医者としての信頼をなくすために・・・。」
「でもそれなら、なんでお前だけなんだ?なんで他の奴にも同じことをしなかったんだろうな・・・。」
電話口の白川も、現場の大村も、犯人像はつかめていた。しかし、本当の犯人の目的が未だにわからなかった。
国分医師とその妹に一体何があったのか、そして彼女の妹はどうしてそんなことをしたのか、謎はふかまるばかりだった。




