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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第1章 冒険の始まり
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第3話 かくれ竜

 薄曇りの空は、今日も晴れる気配を見せなかった。

 空一面を覆う雲の切れ間から陽が差すことは稀だった。

 灰色の光が地上を覆う景色は、いつしか日常となっていた。


 それでもほんのりと見える太陽が真上に差し掛かろうとする頃、アレンたちはセレナ村の広場へ戻ってきた。昼食をとるためだ。


 石畳の広場の中央に噴水があり、その周りには木製の腰掛けがぽつぽつと並んでいる。

 だがまず耳に届いたのは、子供たちの声だった。


「しーっ、静かにしろって!」

「もう無理、くすぐったい!」


 噴水の影、建物の裏、小さな樽の隙間。

 子供たちは思い思いに身を縮めて潜んでいる。


 ひとりの子供が噴水の傍で膝を抱え、小さく丸まっている。

 じっと顔を伏せて、まるで動きを封じるように。


 やがて子供は勢いよく立ち上がり、両腕を広げて「ガアア!」と唸り声を上げた。

 周囲をきょろきょろ見渡すと、影に潜んでいた別の子供を指差して叫ぶ。


「みーつけた!」

「うわっ、もうダメか……」


 見つかった子が観念したように立ち上がり、笑い声が弾けた。


「みーつけた!」


 また別の子供が、物陰から観念したように飛び出してくる。

 笑い声が弾け、また別の隠れ場所からも子供が出てきた。


「これで全員だな。じゃあ次の竜は……」

「やだよ!竜なんて縁起悪いじゃん!」

「だから、一番に見つかったやつがやるんだって」


 遊びの名は“かくれ竜”。

 ひとりが竜役となり、ほかは建物の影や樽の隙間に身を潜める。

 竜役は地面にしゃがみ込み、しゃがんで数を数えてから立ち上がり、隠れた子供たちを探す。

 ただの遊びにすぎないはずなのに――竜の役は嫌がられ、押し付け合いになる。


 アレンは足を止め、しばしその様子を眺めた。

 遊びに夢中の子供たちは笑い転げているが、竜という言葉にだけはほんの少し陰が差す。

 ほんの冗談でも、竜を口にすることは避けられている。


「俺なら竜役でも構わないけどな」


 思わず、軽口をこぼした。

 すると隣のジークがぎょっとしたように振り返り、眉をひそめる。


「冗談でも言うな。縁起でもねぇ」

「……そんなにか?」

「そんなもんだ。竜はどこでも災いの象徴だ。村に限った話じゃねぇ」


 ジークがそう言い切る横で、ダリオスも低く口を開いた。


「言葉は選べ。竜は、特にその名は、軽々しく口にすべきものではない」


 曇天の重さがいっそう濃くのしかかった気がした。

 その背後ではまだ、子供たちが「やだよ!」「押し付けんな!」と声を上げている。


 三人はやがて広場を離れ、近くの宿屋兼食堂で軽食を手に入れた。

 干し肉と潰したジャガイモ、玉ねぎを挟んだだけの簡素なサンドイッチ。

 塩気しかない素朴な味だが、腹を満たすには十分だ。


 そのまま食堂の一角に座り、アレンは無言でかぶりつき、淡々と咀嚼した。

 ジークは片手で乱暴にちぎっては口へ放り込み、ダリオスは機械のように口へ運ぶ。


 窓の外からは、まだ子供たちの声が響いていた。

「いやだってば!」「今度はお前だ!」――竜を嫌がる声。

 アレンはサンドイッチを噛みながら、ジークの言葉を思い返す。


 ――竜は、災い。

 それはこの世界の誰もが疑わない常識だった。

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