第3話 かくれ竜
薄曇りの空は、今日も晴れる気配を見せなかった。
空一面を覆う雲の切れ間から陽が差すことは稀だった。
灰色の光が地上を覆う景色は、いつしか日常となっていた。
それでもほんのりと見える太陽が真上に差し掛かろうとする頃、アレンたちはセレナ村の広場へ戻ってきた。昼食をとるためだ。
石畳の広場の中央に噴水があり、その周りには木製の腰掛けがぽつぽつと並んでいる。
だがまず耳に届いたのは、子供たちの声だった。
「しーっ、静かにしろって!」
「もう無理、くすぐったい!」
噴水の影、建物の裏、小さな樽の隙間。
子供たちは思い思いに身を縮めて潜んでいる。
ひとりの子供が噴水の傍で膝を抱え、小さく丸まっている。
じっと顔を伏せて、まるで動きを封じるように。
やがて子供は勢いよく立ち上がり、両腕を広げて「ガアア!」と唸り声を上げた。
周囲をきょろきょろ見渡すと、影に潜んでいた別の子供を指差して叫ぶ。
「みーつけた!」
「うわっ、もうダメか……」
見つかった子が観念したように立ち上がり、笑い声が弾けた。
「みーつけた!」
また別の子供が、物陰から観念したように飛び出してくる。
笑い声が弾け、また別の隠れ場所からも子供が出てきた。
「これで全員だな。じゃあ次の竜は……」
「やだよ!竜なんて縁起悪いじゃん!」
「だから、一番に見つかったやつがやるんだって」
遊びの名は“かくれ竜”。
ひとりが竜役となり、ほかは建物の影や樽の隙間に身を潜める。
竜役は地面にしゃがみ込み、しゃがんで数を数えてから立ち上がり、隠れた子供たちを探す。
ただの遊びにすぎないはずなのに――竜の役は嫌がられ、押し付け合いになる。
アレンは足を止め、しばしその様子を眺めた。
遊びに夢中の子供たちは笑い転げているが、竜という言葉にだけはほんの少し陰が差す。
ほんの冗談でも、竜を口にすることは避けられている。
「俺なら竜役でも構わないけどな」
思わず、軽口をこぼした。
すると隣のジークがぎょっとしたように振り返り、眉をひそめる。
「冗談でも言うな。縁起でもねぇ」
「……そんなにか?」
「そんなもんだ。竜はどこでも災いの象徴だ。村に限った話じゃねぇ」
ジークがそう言い切る横で、ダリオスも低く口を開いた。
「言葉は選べ。竜は、特にその名は、軽々しく口にすべきものではない」
曇天の重さがいっそう濃くのしかかった気がした。
その背後ではまだ、子供たちが「やだよ!」「押し付けんな!」と声を上げている。
三人はやがて広場を離れ、近くの宿屋兼食堂で軽食を手に入れた。
干し肉と潰したジャガイモ、玉ねぎを挟んだだけの簡素なサンドイッチ。
塩気しかない素朴な味だが、腹を満たすには十分だ。
そのまま食堂の一角に座り、アレンは無言でかぶりつき、淡々と咀嚼した。
ジークは片手で乱暴にちぎっては口へ放り込み、ダリオスは機械のように口へ運ぶ。
窓の外からは、まだ子供たちの声が響いていた。
「いやだってば!」「今度はお前だ!」――竜を嫌がる声。
アレンはサンドイッチを噛みながら、ジークの言葉を思い返す。
――竜は、災い。
それはこの世界の誰もが疑わない常識だった。




